【番外編3】魔王様のはる(真央視点)
はるが高校に入学して、しばらく経ってからのお話となります。
もろBLなところがあるので、苦手な人は注意してください。
「はる、何かあったらすぐ僕に言うんだよ?」
「本当真央兄は心配症だな。平気だって」
僕の言葉に、はるが笑う。
そのあどけない顔を見て可愛いと思うのと同時に、無防備すぎて心配になる。
ここは私立エステリア学院。
良家の子息やお金持ちが多く通う学校で、初等部から大学部まで存在している。
エスカレーター式のこの学校に、はるみたいに途中から入学してくる者は稀だ。
僕の父は製薬会社の社長で、その息子である僕は幼い頃からこの学園に通っている。
けど父方の従兄弟で、一つ年下のはるの家は、僕の家と違って庶民だ。
気位の高いやつらもいるから、はるが虐められたりしないか僕は心配だった。
……ううん、違うな。
本当はそんな事を心配してるわけじゃない。
はるがまたなと言って、僕から離れていく。
そして、クラスメイトたちと仲良く雑談を始めた。
はるはとても社交的で、誰とでも仲良くなれる。
面倒見がよくて世話好きで、優しい。
本当は僕が構わなくたって、はるならここでもやっていけることくらい知っていた。
でも。
それはちょっと寂しくて。
折角同じ学院にいるんだから、こうやって少しでもはるとの接点を増やしたかった。
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はるは昔から僕の特別だった。
真央兄、真央兄と可愛くて。
いつだって僕の後をついてくる。
僕がいないと駄目で、姿が見えないと泣いて捜した。
それが愛おしくてしかたなくて。
時々、わざと隠れては、僕を捜すはるの姿を見て満足していた。
「はる、僕はここにいるよ」
「真央兄!」
僕の姿を見つけると、走ってきて。
自分には僕しかいないんだというように、擦りついてくる。
僕の周りにはたくさんの人がいたけれど、はるだけが特別で。
笑ってる顔も、泣き顔も、僕のためだけにあればいいと思っていた。
けど。
はるは僕から離れて行った。
構いすぎたから、嫌われたのかもしれない。
あれは春が小学校六年生の冬の事だった。
はるの家に遊びに行ったら、もう来るなと言われた。
「真央兄と俺は、住む世界が違うんだよ――だから、もう俺に構わないでくれ。惨めになるから」
そうはるに言われて、ドアを閉められて。
その時の絶望と言ったらなかった。
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はるがエステリア学院に入学してきてくれて、僕は浮かれていた。
同じ学院内にはるがいる。
小学校六年の時のあの出来事以来、僕ははると顔を合わせてなかった。
けどはるは、昔のように僕に話しかけてくれて。
「真央兄とようやく同じ場所に立てた」
入学式の日に、そう言って笑ってくれたとき、どれだけ幸せな気分になったか、きっとはるにはわからない。
生徒会長としての、新入生を歓迎する挨拶も、全てはるに向かって投げかけていたことに気づいてくれただろうか。
あんなにたくさんいる生徒の中から、はるだけを見て。
はるもこっちを見ている気がしていたけれど、それは僕の気のせいなんだろうか。
休み時間のたびに会いに行って。
心配性だなと呆れた顔をはるはするけど、拒絶されることはなかった。
それが嬉しくて、ついはるの元へ向かってしまう足を止められなかった。
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「会長、最近従兄弟に構いすぎだと思います」
副会長に注意される。
眼鏡の似合う冷たい眦で睨まれ、うっと言葉に詰まる。
「でも、心配なんだ」
「心配? そんなものする必要ありませんよ。彼はうまくやっています。あなたがいなくてもね」
副会長の言い方はキツイ。
普段はここまで言う奴ではないのだけれど、副会長はなぜかはるの事が気に入らないらしく、話題にあがると嫌そうな顔をする。
「しつこくすると、嫌われますよ」
言われてドキッとする。
昔はるにもう構わないでくれと言われた言葉が、頭を過ぎった。
――また僕は同じことを繰り返して、はるに嫌われるところだった。
そう気づいて。
僕ははるに付きまとうことを止めた。
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「はぁ……」
はるが同じ校舎内にいるのに、会えないのは辛くて。
溜息ばかりが口から漏れる。
僕がこうして無駄に休み時間を過ごしている間にも、誰かとお喋りしてるのかなとか。
誰か知らないやつに、笑顔をふりまいてるのかなとか。
その手に、その髪に、僕以外の誰かが触れているのかと思うと。
――胸が焦げ付きそうな黒い気持ちが、僕を包む。
はるに会いたい。
その瞳に僕を映して、唇を奪って。
その全部を僕のものにしてしまいたい。
歪んだ独占欲だということはわかってる。
今までずっと我慢してたせいか、きっと会ったらはるを無茶苦茶にしてしまうような気がして。
会えないほどに、どんどん自分が狂うのが分かる。
はるを求める気持ちが、僕を狂わせる。
でも気持ちに従って会ったら、きっとはるに嫌われるようなことをしてしまうから会えない。
生徒会室で悶々としていたら、ガラリと扉が開いた。
机に突っ伏していた体を起こして、そちらを見る。
きっと副生徒会長だと思った。
また何かお小言を言われることを覚悟したら、そこにははるが立っていた。
「は、る……?」
僕が見せた幻か何かだと思った。
はるは怒った顔をしていて。
執務用の僕を、バンと叩いて身を乗り出してきた。
「何で教室にこないんだ」
「……はるに迷惑かと思って」
問い詰めるような口調にそう返せば、はるの眉間にシワが寄る。
「俺は一度でもいいから、真央兄が来て迷惑だって言ったか?」
「言ってないけど。構いすぎたら、小学校の時みたいに嫌われちゃうかなと思ったんだ」
僕の言葉に、はるが目を大きく見開いた。
「俺がいつ真央兄を嫌いになったよ」
「住む世界が違うから、もう俺に構わないでくれって、あの時はるは僕に言ったじゃないか。ぼくがあまりにも構いすぎるから、嫌になったんだろ?」
わかってるから、言わせないで欲しいと思った。
そうやって確認する事自体が、僕の胸の傷をえぐるようで。
拒絶されるように閉じたドアを思い出して、苦しくて吐きそうになる。
「真央兄は、何にもわかってない」
「わかってるよ。わかってるから、こうやって我慢してるんだ! 構いすぎてはるに嫌われたくないから、声をかけるのも触れるのも、一生懸命自制してるんだろ!」
わかってないのは、はるの方だ。
そうぶつけるように言葉にすれば、はるが側までやってきて。
ぎゅっといきなり僕を抱きしめた。
「……っ!?」
はるに強く抱きしめられてる。
伝わるぬくもりに戸惑う。
トクトクと早い心臓の音がして。
これが自分のものなのか、はるのものなのかとそんな事を思った。
「あれはそういう意味で言ったんじゃない。真央兄に構われるのは嬉しかった。けど、それにふさわしい俺じゃないのが嫌だったんだ」
戸惑う僕の耳元で、はるが言葉を紡ぐ。
それから少し体を離して、まっすぐ僕の瞳を見つめてきた。
「真央兄は、何でもできて完璧で。性格だってよくて、みんなに慕われてて。俺なんかじゃ全然つりあわなくて。ずっとずっとそれが悔しかった。真央兄の側に立っても誰にも文句言われない人間に俺はずっとなりたかったんだ!」
真っ直ぐにはるの目が、熱を帯びて僕を見つめていて。
その激しさに、息を飲む。
「俺、中学からエステリア学院に入学するつもりだった。でも、落ちたんだ。だからあんなこと言った。言ってすぐに八つ当たりしたことを後悔した。真央兄を傷つけたこと、ずっと謝りたかった」
中学からエステリア学院にはるが入ろうとしていたことを、僕は一切知らなかった。
驚く僕に、はるがポケットから紙を取り出して机に置いた。
「俺、真央兄に釣り合うように努力して、勉強も人付き合いも頑張ったんだ。前の学校では今の真央兄と同じように、生徒会長もしてた。これから真央兄と同じ生徒会に入るつもりでここにきたんだ」
「はる……どうしてそこまで?」
僕の言葉に、わからないのかと不満そうな声をはるがあげる。
ぐっとネクタイを引かれて。
――そのまま、はるに口付けられた。
「俺は真央兄が好きなんだ。もしかして、気づいてもなかったのか?」
「……嘘だ。そんなことあるはずない」
きっぱりと告げられたけれど、自分に都合がよすぎて、信じることができない。
夢かなにかなんじゃないかと思った。
「真央兄は、俺の気持ち迷惑なのか?」
「そんなわけない! 僕だって……ずっと昔からはるが好きだ!」
慌てて気持ちを伝えれば、はるが満足そうにふっと笑って。
「それなら何の問題もない。真央兄、好きだ。ようやく手に入れた」
「はる……」
甘く蕩けるようなはるの瞳が近づいて。
自然と唇を交し合って……それから、
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「いったい何なんだこの本は!」
思わず薄い冊子を床にたたきつける。
校内で卑猥な本が出回っていると聞いて、急いで副会長に回収させた。
どんな内容だったのか確認する義務が俺様にはある。
それで手にとって読んでみれば、何故か俺様とはるが登場人物で。
はるが中学の時にエステリア学院を受験した、なんて過去はない。
それに庶民のはるがエステリア学院に入学したのは、この世界が乙女ゲームの世界であり、はるがこの学院に入ることがゲームで決まっていたからだ。
断じてこの本の内容のように、俺様を追ってきたわけじゃない。
何たる捏造。
しかし、その中にも時々当たっているところがあって、どきっとする部分もあった。
入学式の時の新入生に向けた挨拶は、確かにはるだけに向けてやっていた。
……一体なんなんだこの本は。
大体、この本の展開はおかしい。
特にこのはるが生徒会室に来て後の展開は、気が違ったのかと思った。
いきなりキスをかましたかと思ったら……だと!?
しかもここは生徒会室で、男同士だぞ!?
何がどうなったらそうなる。何故俺様とはるがそうなった! なんで俺様がはるに組み敷かれて女のように喘いでるんだ。おかしいだろ!
「会長……だから読まない方がいいって止めたのに」
気の毒そうにこっちを見ている副会長の言葉で、我に返る。
「いったいなんなんだこれは」
「会長の従兄弟である相川透哉×会長のBL本ですね。誰かがうっかり落としたようで、校内にばら撒かれてました。ちなみにナンバリングからすると、それは十三番目の作品で、わりとライトな方です」
俺様の言葉に、淡々と副会長が答える。
「これで軽めって……どういうことかな?」
「嫉妬に狂った相川くんに会長が【自主規制】されたり、【自主規制】されたり、ある時は他の子に【自主規制】されて、三人で【自主規制】というパターンもあるようですよ。愛されてますね、会長」
副会長の口にした言葉に、さすがの俺様も眩暈がしそうになった。
どうやら鈴木という女がこの本の作者で、うっかりばらまいてしまったらしい。
当然、はるの目に付かないうちに全て回収し、見てしまったやつら全員に口止めを施した。
もちろん冊子は全て没収した。
そして今、俺様の手元にそれが全てあるわけだが。
……内容は見ておく必要があると判断し、とりあえず家に持ち帰ることにした。
続きません。




