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【番外編2】王子のはる(王子視点)

 エイプリルフール企画、BLルートは4/14で引き下げました。

 その代わりの内容で、高校1年の入学式の王子視点のお話です。

 王子視点なのでホモホモしく、ストーカーちっくなのは仕様です。苦手な人は注意してください。

 ようやく会える。

 そう思うと、胸が高鳴る。

 宝物の四葉のクローバ栞にキスをして、胸のポケットにしまった。


 春斗は、俺に気づいてくれるだろうか。

 そんなことを思う。

 俺のことを、家族だと言ってくれたたった一人の大切な兄弟。

 エステリア学院に通うと手紙には書いてあったから、俺もそこを選んで受験した。


 鏡を見れば、エステリア学院の制服を着た自分が映る。

 外国人だった母親譲りの蜂蜜色の髪に、端正な顔立ち。

 昔はこの顔のせいでよく女に間違われていたけれど、今は少し体を鍛えて体つきが変わったせいか、そんなことはなくなった。


 ――いっそ、女の子だったらよかったのかな。

 別に男である自分に違和感があるというわけではない。

 ただ、春斗が自分を女だと思い込んでいるから、女だったらよかったと思っただけだ。


 ……大丈夫。きっと、春斗は俺に気づいてくれる。

 だって、俺たちは兄弟で、お互いにただ一人の特別なんだから。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 俺の両親は昔火事で亡くなった。

 伯父さんの家に預けられている間に、家ごと燃えて亡くなったのだ。

 あの時の俺は二人が死んでしまったことを認めたくなくて。

 昔住んでいた街まで、自分の家を捜しに出かけ、そこで春斗に出会った。


 家に帰りたい、両親に会いたい。

 泣いていた俺に、春斗が手を差し伸べてくれた。


 自分の名前が嫌いだった俺に、『ゆき』という新しい名前までくれて。

 一緒に住んでた家を探してくれて。

 春斗だけが俺の味方だと、心から信じる事ができた。


 ――けどまぁ、現実はそんなに甘くなくて。

 やっぱり両親はもうこの世にいなくて、見つけた家は黒く煤けた残骸になっていた。


「もう、ひとりなんだ。誰も家族がいない。嫌だよ、助けて……」

 苦しくて、苦しくて。

 押しつぶされそうだった。


 本当は全部知っていた。

 俺の母は美人で、父は束縛が強くて。

 父は母を愛しすぎていた。

 母が他の人を見たり、他の人が母を見たりするのに耐えられなくて。

 俺を伯父の家に預けたその日、家に火を放って無理心中したのだ。

 

 俺は母の事が好きだったし、そんな父でも愛していた。

 けどもう顔も思い出せなくて、大好きだったのに、置いていかれたことが何よりも苦しかった。

 自分も一緒に連れて行ってくれればよかったのにと、何度思ったかしれない。


「俺がいるだろ」

 けれど、春斗がそう言ってくれて。


「確かにちゃんと、ここにお前の家があったって、俺ちゃんと覚えてる。お前と探したことも忘れないし、お前の両親がここにいたことも忘れない。だからどうしたって感じかもしれないけど。お前さえよければ、俺が家族になってやるから」

 その言葉に、俺がどんなに救われたか、春斗はきっと知らない。


「春斗が……ゆきの家族?」

「そうだ。俺の本当の両親も、この世界にいないんだ。だから、ゆきだけが俺の家族だ。春斗とゆき。兄妹みたいだろ?」

 微笑んだ春斗の顔に、とくりと心臓が跳ねて。

 ここにいていいんだって、大丈夫なんだって、許された気がした。


 春斗は俺の幸せを願って、四葉のクローバをくれて。

 俺の幸せはまだこの世界にあるんだって、春斗を見ながらそんな事を考えた。



 それから、すぐに俺は伯父さんたちの都合で引っ越すことになって。

 春斗とは会えなくなったけど、手紙のやりとりは続いていた。

 ただ、春斗は俺の事を女だと思い込んでいたから、それを正す勇気もなくて。丸文字で手紙を書いては、ポストに入れた。


 そんなある日、ひょんな事から芸能界の仕事をすることになって。

 もしかしたら、春斗が見てくれたりしないかなっていう期待もあって、俺は頑張るようになった。


 画面の向こうで、もしかしたら春斗が俺を見ていてくれるかもしれない。

 俺が『ゆき』だと気づかなくても、春斗の目に入るなら嬉しい。

 我ながら結構健気なことを考えて、ずっと過ごしてきた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 高校生になったら一人暮らしをすると決めていた。

 できれば春斗の家の近くがいい。

 隣の家を狙っていたのだけれど、老夫婦がすでに住んでいたので、彼らには家の管理を頼むという形で、まるごと買い取った。


 二階のカーテンを少し開ける。

 向かい側には、春斗の部屋。

 春斗の朝は早くて、空気の入れ替えをしているのか窓が開いている。

 このあたりの家は建売だったのか、形が似ていて、家同士の距離が近かった。


 春斗の部屋に入れば、爽やかなシャボンの香りがする。

 掃除の行き届いた春斗の部屋は、本人の性格を表しているかのようだ。

 今頃一階に下りて、隣の幼馴染であるユメちゃんの分まで朝食を作っているんだろう。


 ベッドの毛布に包まれば、春斗の香りがして幸せな気分になる。

 もう少しこのままでいたかったけど、今日は入学式で。

 芸能人である俺は色々と面倒事があった。

 しかたなく、きりあげて学校へと向かうことにした。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 校門前で笑顔を浮かべて取材を受けて。

 それからようやく一息つく。

 カメラが校内に入れないのがありがたい。

 入学式の始まっている体育館に入る気も起きなくて、中庭で桜の木を見上げる。


 手のひらの上に、花びらが一枚落ちた。

 これをつかって栞を作って、手紙を書いて。

 エステリア学院に入学したことを春斗に伝えようかなと、一瞬思う。


 でも、同じ学校内にいるとわかれば、春斗は俺に会いたいと言うだろう。

 俺だって春斗に会いたい。

 けど、男だってばれて、距離を置かれてしまったら?


 そう思うとどうしても踏み出せなかった。

 春斗に拒絶されてしまったら、俺はどうしていいかわからない。


「あのっ!」

 背後から声をかけられた。

 その短い単語だけで、それが春斗だと俺にはわかった。


 何度も何度も焦がれて。

 春斗と話をしたくて。

 俺は今までに春斗の家に何度も電話をかけていた。

 でも声を出せば男だとばれてしまうから、いつも何も話せずにいたけれど。


『もしもし、相川ですけど』

 繰り返し聞いた春斗の声が、脳内で再生された。

 けど、本当の春斗の声のほうが、何十倍も鮮明で、俺の心を揺さぶる。

 電話越しじゃない、生の春斗の声に心がざわめいた。


 振り向けばそこに春斗がいた。

 真っ黒な髪に、凛々しい眉。

 少し人がよさそうな顔立ちをした、俺の春斗だ。


 幼い頃の面影を残したまま、大人になった春斗。

 探偵に頼んで写真を撮ってもらったり、朝だって窓からその姿を見たけれど。

 こうやって春斗の瞳の中に、俺が映っているという事だけで、死にそうなほどに嬉しい。


「すいません。人違いでした」

 ……人違いなんかじゃない。

 春斗はちゃんと、俺をわかって声をかけてくれた。

 きっとそうだとわかった。


「こっちきてよ。桜が綺麗なんだ」

「……少しだけなら」

 俺の言葉に春斗が頷いて、隣に座ってくれた。

 一人分くらい開いた距離。

 けど、それでも十分だった。


「空に桜が映えて綺麗に見えるんだ。特等席だよ」

 同じ場所で、同じものを見て、同じ空気を吸っている。

 それだけで幸せで、特別なことだ。


 横を見れば、春斗は切ない顔をしていた。

 考えている事は、なんとなくわかる。

 春斗は俺と同じで寂しがり屋だ。

 はらはらと散る桜に、新しいはじまりを想い起こすよりも、物悲しい気持ちになる。

 

 苦しそうなその顔はしてほしくないと思うのに、俺と同じだと思うと嬉しくなる。

 その横顔を見ていると、胸が締め付けられる。

 こんな風に自分の感情を動かす春斗の存在を、たまらなく愛おしいと思った。

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