33.ゲームのラストのその後は
丘の上にある桜の木の下へ連れて行かれて、幹に背を押し付けられる。
「どうしたんだよ、タカ!」
「ハーレムルートが発動しかかってる! ユメが卵持ってたろ。あれがハーレムルートの合図なんだよ! 卒業式サボって、卵をユメが貰うのを防げばどうにかなるんじゃないかと思ってたが、甘かった。すでに卵を受け取ったみたいだ!」
タカが早口でまくし立てる。
どうやら朝にユメの頭の上にあった卵が、ハーレムルートの兆しのようだった。
「タカが協力しなければ、ハーレムルートは発動しないんじゃなかったのか!?」
「オレのはるに対する好感度なんて、この世界に来る前からマックスなんだよ。俺がどう否定しようと、相川透哉がはるだと気づいた時点で、全員の好感度はもうハーレムルートの基準を満たしてたんだ!」
戸惑う俺に、タカが予想はしてたけど、それが外れることを願っていたというように叫んだ。
「説明してる暇はねぇ。無理やりにでも、オレのルートに来てもらう」
「ちょ、タカ!? やめろって!」
ぐいっと顎を持ち上げられて、腰を引き寄せられて。
キスされると思って思わず目をぎゅっと閉じたら、鈍い音が聞こえてタカの拘束が消えた。
「大丈夫だった、はる?」
伸びたタカの上に真央兄が立っていた。
「一体どこから!?」
「上だよ。ゲームではこの桜の木の下で告白を受けるって聞いてたから、ここに待機して待ってたんだ」
戸惑う俺に、もう大丈夫だよというように真央兄が笑いかけてくる。
「ありがとう真央兄。でもタカは大丈夫か?」
「優しいねはるは。襲われそうだったっていうのに」
タカの状態を確認した真央兄が、気絶してるだけだよと口にしたので、ほっとする。
「そうだ、ハーレムルートが発動しかかってるらしいんだ! ユメの頭の上の卵をどうにかしないと、大変なことになるってタカが!」
「話は聞いてたよ。でもゲームをよく知ってて、ハーレムルートを嫌がる彼が、卵を直接どうにかしようとしなかったって事は。それを避けるには、別のキャラのルートへ行くしか、もう方法がないって事なんじゃないかな」
焦る俺を落ち着いてというように、真央兄がなだめる。
冷静な真央兄の言葉は、確かにその通りかもしれないという説得力を持っていた。
「ここは一旦、僕のルートへ行こうはる。後の事はハーレムルートを避けてから考えた方がいい。目を閉じてくれれば、すぐに済むから。ね?」
「いやでも真央兄に迷惑をかけるわけには……」
優しく真央兄が提案してくる。
俺のために、身を犠牲にしようとしている真央兄の優しさはありがたかったけど、ここまで迷惑をかけてしまうのは申し訳なかった。
「はる。僕はいつだってはるの味方だ。頼られるのが嬉しいし、頼ってほしい。はるにかけられるものなら、迷惑だろうと何だろうと嬉しいんだよ。僕に身を委ねていれば、何もかも心配いらないから。大丈夫だよ、はる」
だから言うことを聞いてというように真央兄が囁いて、俺の頬に手を添えてくる。
真央兄が大丈夫だというと、全て大丈夫だと思えてくるから不思議だった。
ここまで真央兄がしてくれようとしてるんだからと、覚悟を決めて目を閉じれば、くすっと笑った気配がした。
「そんなに緊張しなくていいのに……可愛いな、はるは」
近い距離で囁く真央兄の声は、後半低くてぞくりとするほどに色っぽく感じた。
真央兄の唇が俺に重なる。
そう思った瞬間、横からいきなり手を引かれ、抱きしめられた。
甘くていい香り。
そして背中に慣れた感触がして、王子だと見なくてもわかる。
「ホント、油断も隙もないよねあんた」
どうやら、王子はファンの手を振り切ってここまでやってきたらしい。疲れているのか息が絶え絶えだ。
「そっちこそ、本当に僕の邪魔をするのが好きだよね。この前のお仕置きじゃ物足りなかったのかな」
「このサディストが。あんな屈辱初めてだ。絶対にあんたみたいなドSに春斗を渡したりなんかしない!」
真央兄の笑みには威圧するような雰囲気があって、対する王子は怒りで顔を赤くしてる。
普段優しい真央兄だけど、俺やユメに危害を加える者には容赦ない一面があったりするので、俺にちょっかいを出す王子に何かしたのかもしれなかった。
頭の中に思い出すのはタカが言っていた、王子と真央兄のバトルモード。
内容が恐ろしくて聞きたくはなかったけど、避けるヒントがどこかにあるかもと思って、俺はタカにその内容を教えてもらっていた。
正直……ハードすぎて、聞くんじゃなかったと後悔している。
言い争っているうちに逃げられないかなと思っていたら、王子の拘束する手が緩んだ。
「透哉様を離していただけますか、天ヶ崎様」
王子を後ろから羽交い絞めにしていたのは、真央兄の秘書の鈴木さんだった。
「さすがは鈴木。気がきくね」
「ありがとうございます、真央様」
いつも無表情な鈴木さんが、真央兄に声を掛けられて微かに笑みをこぼす。
「はる、大丈夫か!」
「先輩何かあったの?」
怜司と竜馬がこっちに向かってかけてきた。
どうやらタカに連れられて行った俺が心配で、何事かと探してくれていたらしい。
「はる先輩! 鈴木先輩が写真を撮ってくれるそうなので、一緒に記念に撮ってもらってもいいですか?」
別の方向からヨシキがかけてくるのが見えた。
一緒にいるのは同じクラスの鈴木さん。真央兄の秘書の鈴木さんの妹でもある。
彼女は手にカメラを持っており、すでにシャッタを恐ろしい速度で切りながら、俺達の周りをまわっていた。
「はるちゃーん、卵がね! 本当に孵りそうなのっ!」
興奮した声がしてさらに別の方向を向けば、丘を駆け上ってくるユメの姿が見えた。
その後ろには桜子がいて、ユメの後を追いかけている。
わいわいがやがやと中々に騒がしい中、鈴木さん(妹)が仕切りだして、全員を並べだした。
いや、集合写真とかそんなの撮ってる場合じゃないから。
俺はユメの頭の卵に手をかけて、それを引き剥がそうとしたけれど、びくともせずに殻は少しずつ割れはじめていた。
「……んっ」
「タカ、気がついたか?」
木の側にもたれて気絶していたタカが身じろぎして、声をかければ目をあけた。
そして、口を開いて唖然とした顔になる。
「なんてことをしてくれたんだ!」
「悪い、写真撮るとき起こせばよかったな。でも気絶してたし」
叫ぶタカにそういえば、そこじゃないと怒鳴られた。
「まずいぞはる、卵が孵る――!」
タカがそう言った瞬間、ユメの頭の上の卵から虹色の光が漏れだした。
七つの光の球がそこから出てきて、そのうちの黄色の球がタカの中に吸い込まれたのが見えた。
そんな中、卵から光と同じ虹色に輝くドラゴンが生まれたのが見えて。
そこから俺は意識を失った――。
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――目が覚めたら、そこは異世界でした。
うん、何でこうなったんだろうな。
城の中には甲冑を着込んだ、西洋人っぽい騎士。
手触りのよさそうな絨毯に、高級そうな調度品の数々。窓の外を見れば森が見えて、空には翼をつけた爬虫類――ドラゴンっぽいのが飛んでいる。
空には大きさの違う青白い月が三つあって、ここが日本どころか地球じゃないよと俺に教えるかのようだった。
目の前には王様と思わしき人が、俺たちを勇者と呼び、どうか世界を救ってくださいと頭をさげている。
「状況が飲み込めない。これはどういうことなんだ。タカ?」
「……続編『はらはら★エステリアワールド』は『ドキドキ★エステリア学院』のハーレムルートから繋がる話なんだ。強い絆で結ばれた七人の勇者と伝説の巫女を、大賢者が異世界に召喚してしまう、そんなトンデモな内容になっている」
俺の質問に隣に立っているタカが答えてくれたが、もう悟ったような顔をしていた。
「異世界って……前作は普通の学園モノだったじゃないか」
「まぁな。ちなみに続編はノベル形式じゃなく、RPGを取り入れた恋愛アドベンチャーだ。モンスターたちとのバトルはもちろん、死亡ルートも標準装備。ゲームをやる分にはわくわくしてたんだがな……実際にやるのは嫌だったんだ」
どうか夢であってくれと願うような俺に、淡々とタカが答える。
「はるちゃん、はるちゃん! このご馳走全部……ユメたちのもにょだって!」
呆然とする俺に、ユメが誰からか貰った捧げモノを食べながら喋りかけてくる。
ユメの順応力は高く、頑なに制服でいる俺たちと違って、この世界の衣装を着てご機嫌だ。
見たこともない怪しい果物を美味しそうに口にしている。
「きゅーきゅー」
「だめだよドラちゃん! これはユメのなの! 後で食べようと取っておいたんだから!」
ちなみに、妙な泣き声でユメと果物を奪い合っている中型犬くらいの大きさのトカゲは、卵から生まれたドラゴンだ。生まれたときは虹色だったが、今は白い色をしている。
幼いドラゴンと本気で食べ物を取り合うユメは、大人気ない以前に意地汚かった。
「だから嫌だったんだハーレムルートなんて! この先公務員になって、嫁さんもらってつつましく平和に暮らしていくつもりだったつーのに、くそっ計画が台無しじゃねーか!」
タカがやってられないというように、髪をくしゃくしゃとむしって叫ぶ。
この行き場のない気持ちをどうしたらいいのか、持て余しているようだった。
「意外とタカって手堅いよな」
目つきがタカのように鋭く、不良っぽい見た目から勘違いされやすいのだけれど、タカは意外と真面目だ。
少し黒が混じる金髪は染めているように見えるが、実は祖母が外国人でクォーターだったからで、それは元の世界でもこのゲーム世界でも共通らしい。
境遇も何もかも似てるから、このキャラ『須賀浩介』になったんじゃないかとタカ自身は思っているようだ。
「そういえば、他の皆は?」
「たぶんここにはいないな。このゲームの内容は、世界に散らばった仲間を集めて、なおかつ魔王をたおすことだから。一応言っておくが、この魔王ってのは、お前の知ってる真央兄のことじゃねーからな」
俺の質問に、タカがすらすらと答える。
続編をプレイする前にタカは死んでしまったけれど、ゲーム情報雑誌である程度の知識があるようだった。
「前作のデータがあれば、最後にクリアしたキャラとゲーム開始から一緒にいられる。そういう仕掛けがあったから、たぶんオレがはると一緒にスタートなんだと思う」
「冷静に分析している場合か! 折角あの世界で暮らしてく覚悟ができたのに、今度は異世界で冒険しろってことか! 冗談じゃないぞ!」
混乱して声をあげれば、タカが呆れたように息を付く。
「このエンドを導いたのはお前自身だ、はる。だからオレのルートにしとけって言ったのに。ちなみに全員集めて魔王を倒さないと、世界は滅ぶからな。冒険しないとどっちにしろ死が待っている仕様だ」
「まぁそうなんだけどさ……巻き込んだの俺だよな。悪かったよ」
追い討ちをかけるようなタカの言葉に耳を塞ぎたくなっていたら、ポンとタカが肩に手を置いてきた。
「まぁ落ち着け。まだオレたちに勝機はある。この世界は乙女ゲーム版とBLゲーム版が混ざった世界だ。だからなのかはわからないが、俺たちに有利なイレギュラーが生じている。今回の続編では二つのバージョンで大きく異なる点がある。それがユメ――ヒロインの扱いだ」
勇者七人を集めて、その力で巫女が魔王を倒す。
そういう内容の続編なのだが、タカの説明によると、BL版での『乙女ゲームの主人公』――つまりサポートキャラになるらしい『ユメ』は、魔王の呪いによりゲーム序盤から幼児化してしまうらしい。
これにより『ユメ』を成長させるために、攻略対象たちと『愛』をはぐくんで『ユメ』を育てるという育成要素がプラスされているらしかった。
タカ曰く、前作では『ユメ』のサポートキャラとしてのポジションは主人公と攻略対象を繋ぐ重要な存在だった。
しかし、すでに絆がある続編に置いて、女であるユメの存在が邪魔でこんな策をとったんじゃないかという事だ。
一方で乙女ゲーム版ではこの育成要素がない。
代わりに追加要素として俺『相川透哉』が攻略対象に加わっている。
主人公であるユメも大きなままなのだけれど、世界を超える際にドラゴンが魔王の干渉を受けて行方不明になってしまい、序盤で巫女としてのユメの力が半減してしまうという展開があるらしかった。
「幸運な事にドラゴンも無事にここにいるし、巫女であるユメも大きいままだ。これなら楽に魔王を倒せる。本来は巫女に何もなければ、さくっと封印できるはずだったみたいな事が、記事に書かれていたからな」
「けど、モンスターなんかと戦える気がしないんだが」
「それなら平気だ。ドラゴンの卵が孵化したとき、虹と同じ七色の球がそれぞれの体に入っていったろ。アレは前回の勇者たちの知識と記憶だ。おかげで武器とか勝手に扱える仕様になってる」
弱気な俺に、タカが背を叩く。
タカはもう腹をくくったようだった。
何の武器は知らないけどなと言いながらも、ちょっと楽しそうなのは、やっぱりタカがゲーム好きだからなのかもしれない。
ちなみに伝説の巫女であるユメには、他の勇者たちがいる場所がわかる設定になっているのだと、タカは教えてくれた。
「……よしこうなったら皆と早く合流して、元の世界に戻るぞ。俺たちの住む場所は、もうあの世界なんだから」
まだちょっと希望はあるみたいだ。
ファンタジーとかいきなり脳みそがついていかないが、しかたない。
ここはもう頑張るしかないと、腹をくくる。
「俺も頑張るから、ユメも伝説の巫女として……」
心を決めて、ユメの方を振り返る。
「だぁ?」
そこには一歳に満たないくらいの赤ん坊がいた。
「……」
「……」
俺もタカも無言になる。
赤ん坊はむしゃむしゃ、怪しい果物を食べ続けているが、歯がないのかしゃぶっているだけにしか見えない。
赤ん坊の周りにはユメがさっきまで着ていた服。
なんとなく尻の方を見てみれば、ユメと同じハート型の痣が同じ場所にあった。
「これユメだ」
「……そうか。どうやらこの果実が呪いの元凶だったらしいな」
俺の言葉に、タカが額を押さえて答える。
元の世界からの経験で、ユメがこういう地雷を踏むのはよく知っていたはずなのに。どうしてそれを阻止できなかったのか、俺と同じようにタカも自分自身に嫌気が差しているみたいだった。
「……そういえばドラゴンは!?」
ユメを抱き上げ、はっとして見渡したが城の中にドラゴンの姿はない。
城の使用人たちが窓の外を見ているのに気づいてそちらへ行けば、遠くの空にあのドラゴンが羽ばたく姿が見えた。
「先ほど巫女様に食べ物を奪われたことで機嫌を損ねたらしくて。止めようとはしたのですが、すいません!」
涙ながらに使用人たちは謝ってくる。
「……タカ、このゲームってさ。ユメがヒロインな時点で詰んでないか?」
「奇遇だな。オレもそう思ってたところだ」
横で同じく空を見つめる友達と、妙にシンクロした気分になりながら、どこまでも澄み切った空を眺める。
気がついたらゲームの世界にいた俺。
元の世界に戻るためあがいて、気づけば攻略対象たちと友情を築いて。
ようやくここで生きていく決心がついたところで、何故か異世界の勇者になっていた。
「はーちゃ!」
抱き上げた俺の腕の中で、ヒロイン様はのんきに小さな手を押し付けてくる。
昔からこいつといると、ロクな目に合わない。
けどまぁ今回は俺にも非があるわけだけど。
でもこれはあまりにも酷いだろ。
「何でこうなったんだァァ!」
叫ばずにはいられない。
これから先もまだまだ、俺の苦労は続きそうだ。
そんな予感が――ひしひしとした。
ハーレムからの、俺たちの戦いはこれからだ!ENDとなります。
当初からユメとはるをくっつけようと頑張ったんですが、やっぱりヒロインが残念すぎてうまく行きませんでした。すいません!
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!!




