30.バレンタイン大作戦【前編】
あとこちらを含めて4話となります。
明日完結です。
気がついたら乙女ゲーム『ドキドキ★エステリア学院』の世界で、サポートキャラの相川透哉として生まれていた俺。
高校三年間で主人公が攻略対象と恋愛をする。
そういう内容の『乙女ゲーム』の世界。
ゲームの終わりさえ迎えれば、きっと元の世界へ戻れる。
そう思った俺は、元の世界からの幼馴染・月島ユメを、攻略対象たちとくっつけようと頑張ってきた。
しかしユメは全くやる気もなければ、ヒロインとしては残念仕様で。
攻略対象キャラに全く相手にされず、それでも俺は懸命に主人公であるユメをサポートしてきた。
けれど、そもそも俺は元の世界で死んでいた。
そもそもユメを攻略対象とくっつけようが、元の世界に俺は戻れないのだ。
ショックだったけど、この世界には元の世界からの幼馴染であるユメも、親友のタカもいたし、俺にいてほしいと言ってくれるやつらがいた。
だからここで生きてくってことも、思いのほかすんなり受け入れられて。
それで一件落着したと、俺は思い込んでいたのだけれど。
実はこの世界、『乙女ゲーム』だけじゃなく、『BLゲーム』でもあるらしいという、情報がタカからもたらされた。
『BLゲーム』とは、男の主人公が、男の攻略対象と恋愛するゲームのことだ。
『ドキドキ★エステリア学院』において、『乙女ゲーム版』の主人公はユメで。それでいて『BLゲーム版』の主人公は……まさかの俺だった。
それでいて、このゲームに詳しいタカによると、攻略対象たちの俺に対する好感度はマックスだという。
好かれていることは自覚しているが、そういうアレじゃないと信じたい。
ゲームでは卒業式の日、丘の上の桜の木の下で告白を受けるらしいが、告白がきたなら、断ればいいじゃないか。
そう俺は思ったのだけど、そういうわけにもいかないようだった。
特定のキャラ同時の好感度が高い状態で告白を断ると、バトルモードに自動で突入するらしい。
竜馬とヨシキ、後輩二人組みの告白を断れば。
選ばなくていいから、俺たちふたりを受け入れてとばかりに、二人が主人公に奉仕して、甘やかしてくるようになる。
タカのキャラである須賀浩介と怜司、不良と優等生の同級生コンビの告白を蹴れば。
これから先は延長戦だなと、同じ大学なのをいいことに、二人で主人公に纏わりついて、積極的に攻めてくる。
そしてゲームの中ではドSであるらしい従兄弟の真央兄と、ストーカーと化してる王子の二人を断ると。
俺たちの愛がわかって貰えなかったんだね?と、束縛監禁調教×2で、酷くアレでお子様には見せられないよ!な展開になるらしかった。
このゲーム……どうやらR18仕様らしい。
そんな泥沼ゴメンだし、道を踏み外したくはない。
そもそも男の俺が、男と付き合うとか前提からして間違ってるだろ!
まぁでもだ。
常識的に考えて、生身の彼らがそんな風に俺に惚れたり、バトルモードなるものに入って複数人で付き合おうねとかいう展開になったりはしないはずだ。
大丈夫。俺は彼らを信じてる。
男である俺に惚れたりなんてするわけないだろうし、倫理とか道徳とかそこらへんで踏みとどまってくれるはずだ。
すでに俺のストーカーと化してる王子に、その辺り説くのは意味なくね?とか思えなくもないけど、きっと爪の先くらいはそういう事を考えてくれるって俺信じてる。信じたい。お願いだからそうであってほしい。
きっと俺の考えすぎで、告白なんてされるわけがない。
自意識過剰だ。そうであってくれ。
でもまぁ、やっぱりちょっと……かなり不安は残るのだ。
ゲーム内でこれを回避できる手段は、全員と平等に仲よくなることで開かれるハーレムルートらしいのだけど。
しかしこのルートをタカがかなり嫌がっていて、協力はしないといわれてしまった。
攻略対象の一人であるであるタカが協力しなければ、ハーレムルートにはいけない。
誰か一人を選べとタカは言った。
仮に告白されたとしてだ。選ぶとか選ばないとか、あいつらは友達なんだからそんな事できるわけがない。
だからと言って事情を知っているタカに協力を頼む場合は、ハーレムルートの回避のために、本物の恋人っぽく振舞う必要があるらしい。
なんかそれ以外に方法はないのか。
そう考えた末。
俺が思いついたのが3月の卒業までに、恋人を作ることだった。
女の子と付き合ってしまえば、そもそも告白を受けることもないだろうし、あいつらがもし告白してきても、断ることができる。
バトルモードにだって突入する理由がない。どっちも選べなかったではなく、すでに他を選んでいれば問題はないはずだ。
われながら素晴らしいアイディアだ。
タカはこの『ドキドキ★エステリア学院』をやりすぎて、逆に思いつかなかったんだろう。
……ただ、問題は女の子とどうやってお付き合いをするか、なんだがな。
ユメにゲームをクリアしてもらうために過ごしてきたから、女の子との接点がほとんどと言っていいほど俺にはなかった。
かといって、ユメにこの作戦を話して、一応女子であるユメと付き合いを始めたとしてだ。
例えば後輩のヨシキなら、逆に張り合ってきそうだし、竜馬ならそれがどうしたのと全くユメの存在を鼻にもかけないだろう。
つまり、付き合う相手はユメじゃ駄目だ。
こんな理由で女の子とお付き合いをなんて、不誠実極まりないけれど、背に腹は変えられない。
とりあえず、誠実に尽くすことで許してもらうとして、まずは彼女探しを一刻も早く始めようと俺は決めていた。
しかし元の世界でも今の世界でも、女と付き合ったことなんてなかった。
ユメの世話で手一杯で恋愛なんてしてる暇がなかったともいう。
思い返すと、青春損してるような気分になってくる。
そもそもどうやって女の子と知り合いになったらいいのか。
こういうのに長けていそうなのは、竜馬や王子だけれど。
二人に相談しても教えてもらえなさそうだし、王子にいたってはマズイことになりそうな気がする。
そういうわけで、俺は一番頼れる真央兄に相談することにした。
真央兄に、この世界が実はBLゲームの世界だということも全部話せば、真央兄はその可能性に気づいていたらしく、驚きはしなかった。
「わかった。それじゃあ、僕の大学の合コンに出てみる?」
「いいのか!? ありがとう真央兄!」
やっぱり頼れるのは真央兄だ。
ドキドキしながら初めての合コンに行けば、年上の綺麗なお姉さんたちが揃っていた。
男女それぞれ五人の合コンだったのだけれど、皆真央兄狙いなのがわかりやすい。
やっぱりもてるんだなぁと思っていたら、そのうちの一人が俺に声をかけてきた。
「相川くんの従兄弟なんだよね? 可愛いくて好み!」
「あ、ありがとうございます……」
緊張しながらもなかなかいい滑り出しだ。
そう思っていたら、遅刻してきた男側の一人が部屋に入ってきた。
「ゴメン仕事が押して遅れちゃった!」
「きゃー! 王子! 本物、本物!?」
女性陣の黄色い声にそちらを見れば、芸能人である王子が爽やかスマイルで立っていて。
当然のごとく王子は、女性陣の視線を一人で掻っ攫って行った。
その後真央兄にこれはどういうことなのか聞けば、合コンのメンバーのうち一人が買収されて、王子といつの間にか入れ替わっていたらしい。
気をとりなおして、今度は真央兄と街でナンパに挑戦することにした。
しかし俺も真央兄もナンパなんてしたことがない。
とりあえず声をかけられるまで、一緒に遊んでようかと真央兄と遊んでいるうちに、ただ休日をエンジョイして終わった。
それをうっかり何回かくりかえしてしまって。
次こそ積極的に行こうと二人で決めて、女の人に声をかけた。
いい感じに会話もできて、このあとカラオケでも行こうという話に持って行ったところで、偶然竜馬が現れて。
俺も行くなんていいだして、色っぽく竜馬に迫られて女の人たちはオッケーしてしまった。
結局、彼女どころの話じゃなくなった上、竜馬に俺が彼女を作ろうとしていることを知られてしまい、この後は妨害されることとなった。
なら、校内で彼女を探そう。
うってつけなことに、バレンタインというイベントがこの世界にも存在していた。
チョコを貰えれば、それからきっかけにどうにかなるんじゃないか。
そう思って、校内の女子に優しくするという、なんともまぁ姑息な手段に俺は出ることにした。
チョコが欲しいからって必死すぎるなと思いながら、困っている人女子がいれば手伝いをして、積極的に会話できるように心がけてみた。
そしてバレンタインの日。
俺の努力が実ったのか、ロッカーにチョコがあった。
よかった。これで、もう大丈夫だ。
手にとって開いてみれば、可愛いハート型のチョコ。
どうみたって本命向けのやつだ。宛名が違うなんていうオチは嫌だったので、確認すればそこには『はる先輩へ』と書かれていた。
先輩ってことは、俺より年下か。
チョコを貰ったのは、何気に初めてだった。
ドキドキしながらメッセージカードを裏返して。
くれた相手を確認する。
そこには、『沢渡ヨシキより』と書かれていた。
――ヨシキかよ!!
そう俺が心の中でつっこんだのも、しかたないことだと思う。
初めて貰ったチョコがこれか。男からか。
いやユメからなら貰ったことあるけど、あれはチョコを語った別の物体だったから、カウントには絶対入れない。
例えファーストチョコが、ヨシキからのもので男からという事になったとしても、あれを食べ物だと俺は認めない。
まだもらえるチャンスは残ってる。
次は机の中だ。そう思って教室のドアを開ければ、目に入るのは俺の後ろの席に詰まれたチョコの山。
王子の席だ。
別に――うらやましくなんかない。
王子の席を直視しないようにして、自分の席に座る。
別にチョコなんて欲しがってないよという顔をして、手だけ机の中に入れて、チョコの有無を確認すれば、手ごたえがあった。
ちゃんと宛名は俺宛。
表に差出人の名前は書いてない。
さっきのヨシキのパターンがあるから、この場で確認しようと、包み紙を開けようとしたら、さっとチョコが奪われた。
「これもしかして、春斗が俺にって持ってきてくれたのかな?」
にっこりと微笑む王子が、いつの間にか目の前にいた。
「いやそれは俺宛で」
「そっか、ありがとう。いますぐ食べるね」
人の話を王子は聞いてない。というか、聞く気がないようだった。
「ちょ、返せって」
「ん……なんかこのチョコ、お酒というか薬っぽい味がする」
俺の手を避けて、結局王子はトリュフ型のチョコを三つ全部食べてしまい、包み紙もポケットに押し込む。
結局、そのチョコを誰がくれたのかは、わからずじまいだった。
「どうしたんだはる。うかない顔だな」
「いや、チョコが……」
放課後、ゆっくりと待ってみたが、結局チョコをくれる者は現れなかった。
怜司に声を掛けられ、言いかけて格好悪いからやめる。
チョコがもらえなくて落ち込んでるなんて、恥ずかしすぎだ。
どれだけ期待してるんだという話だ。
「もしかして、チョコが欲しいんだな。よかった実はこれ、準備していたんだ」
もじもじとしながらそう言って、怜司がチョコを差し出してきた。
「デパートに行ったら、だな。仲良しの友達同士で……その、友チョコなるものを贈るのが流行っていると書かれていたんだ。女の子に混じって買うのは少し恥ずかしかった」
わざわざ俺にあげようと買ってきてくれたらしい。
女の子からじゃないけど、これは素直に嬉しかった。
荒みかけていた心に潤いを貰った気分だ。
怜司と別れ、ホワイトデーにはお返ししなきゃなと思いながら、靴箱へと向かう。
靴箱にチョコはなく、落胆しながら玄関を出たところで竜馬の姿を見つける。
女の子からチョコを渡されていた。
――さすがもてるな竜馬は。
こっちは一つ女の子からもらうのに、こんなに苦労しているというのに。
そう思いながら見ていたら、竜馬は女の子からのチョコをつっぱねた。
「おれ、チョコ欲しいのは一人だけだから」
――昔まで女の子をはべらせて、とっかえひっかえだったのに。
竜馬の発言を意外に思う。
そしたら、俺の視線に気づいて、こっちに竜馬がやってきた。
「先輩、待ってた。チョコちょうだい?」
「いやなんでだよ」
甘い視線を俺に向けながら言う竜馬に、おもわずつっこむ。
バレンタインは、女から男にチョコを渡す日だったはずだ。
「おれ先輩から貰いたくて、他の子の断って待ってたんだよ?」
「そんな事言われてもな」
くれないの?と言うように、首をかしげておねだりの目線を竜馬が送ってくる。
断られた女の子が、俺を射殺せそうな目つきで見てるんですけど。
かなり居たたまれない。
「先輩料理上手だから、絶対美味しいチョコくれるんだって期待してたのに」
竜馬は甘えるような声で、すこししゅんと落ち込む。
この儚げで、うるっとした上目遣いは、母性本能をくすぐる竜馬の必殺技みたいなものだ。男である俺でもつい、言うことを聞いてしまいそうになるから恐ろしい。
竜馬の思い通りに動いちゃ駄目だと思いながら、今度家に来た時に好きなオヤツを作ってやると約束して別れた。




