29.最後のキャラは……だったようです6
「なぁ、なんでまだそんなによそよそしいんだ?」
「別によそよそしくねーだろ。普通にしてる」
タカは露骨に俺を避けたりはしないけれど、その距離はまだ縮まってなかった。
一緒に歩くときも昔は歩幅を合わせて、それでいてすぐ側を歩いてくれたのに、今の俺とタカの間には一人分か二人分くらい間がある。
俺から距離をつめれば、その分離れるから、いつまで立っても距離が縮まらない。
元の世界に戻れないなら、このゲームをクリアする必要もない。
だからタカが攻略対象だろうと、俺たちのには何の関係もないはずなのに。
「俺はまたお前と仲良くしたいんだ!」
思い切って逃がさないよう手首を掴めば、タカは立ち止まって、困ったように眉を寄せて俺を見た。
「……オレだって元の世界のようにはると仲良くしたいに決まってる。でも、それじゃ駄目なんだよ。この世界でこの先も暮らしていくのに、道を踏み外してホモになんかなりたくない」
どういう意味だと頭の中で噛み砕こうとしたら、俺の両肩をタカがガッと掴んできた。
「はると仲良くしたらハーレムエンド一直線だ。普通の相川透哉ならなびかない自信があったのに、相手がはるじゃ無理なんだよ! 側にいたら絶対に俺ははるに惹かれる。そんなの避けるしかねぇだろ!」
「? 何を言ってるんだタカ?」
胸の内を搾り出すように、タカは訴えてくる。
けど、オレにはタカの言ってることが理解できなかった。
「……これ以上こんなことされると、オレもお前を攻略するって言ってんだ」
「タカ?」
低い声でそう言って、タカが俺の体を抱きしめてきた。
「お前が全員に好かれたいっていう欲望じゃなくて、身の安全のためハーレムを作ってるってことは気づいてる。けど、オレは平穏に暮らしたいからハーレムルートに巻き込まれるのは嫌なんだ。けど、お前が他のやつとエンドを迎えるのだって死ぬほど嫌だ。もう、どうしたらいいのかわかんねぇんだよ!」
苦しい胸の内を吐き出すかのように、タカは声を荒げた。
「何言ってるんだ? その言い方だとまるで俺がゲームの主人公みたいなんだが」
「……まさか、はる。お前は自分が主人公だって気づいてないのか?」
俺の言葉に、タカが体を離す。
驚いた顔でこちらを見ていた。
「主人公はユメだろ?」
そう返せば、タカは大きく口を開けて。
それから急に腹を抱えて笑い出した。
「ははっ! なるほどな。道理で話が通じないわけだ!」
「なに、何だよ!? 何でいきなり笑い出すんだ!?」
ひとしきり笑って後、タカは悪いと謝って、俺に親しげな顔を向ける。
ここのところ見せていた仏頂面じゃなくて、親友のタカがよく俺に見せてくれていた表情。ようやくこの顔が見れたと思った。
「はるはもしかして、ここが乙女ゲームの世界だと思ってるのか」
「違うのか?」
「いや、当たってるぜ? けどなここは同時にBLゲームの世界でもある。ドキドキ★エステリア学院は、乙女ゲーム版の他に、BLゲーム版があるんだ。乙女ゲーム版の主人公がユメで、BLゲーム版の主人公がお前だ……はる」
首を傾げた俺に、タカがそう説明してくれた。
「びーえる?」
「……もしかして、はるはBLを知らないのか?」
俺の質問に、タカがまさかだろと言うような顔をしたけれど、ちゃんと説明をしてくれた。
BLというのはボーイズラブの略で、男同士の恋愛ものの事を言うらしい。
つまりBL版のゲームは、主人公が男で、攻略対象も男。そんなよくわからないゲームらしかった。
「えっと……男同士で、恋愛?」
「そうだ」
ちょっと理解できなくて口にすれば、タカが頷く。
「この『ドキドキ★エステリア学院』BL版は、主人公の相川透哉が攻略対象たちと三年間で恋に落ちることを目的とした、恋愛シミュレーションゲームだ。主人公が女から男に変わっただけと思えばいい」
タカが説明してくれたけれど、さっぱりだ。
いや、意味はわかる。けど理解ができない。
「なんでわざわざ主人公を男にする必要が? もしかして攻略対象たちもその場合、女になってるとか?」
「それだとギャルゲーになるだろうが。BLは男と男の恋愛だ」
「誰がそんな変なゲームをプレイするんだ」
「主に女子だな。俺みたいな男子もいるが。理解できないだろうがはまると抜け出せなくてな。刺激的というか組み合わせが無限大というか。魅力を語るのは難しい」
俺の質問にタカはちゃんと答えてくれるが、どうしよう。わけがわからない。
男同士の恋愛に需要があるという前提から、頭が着いていけない。
けどまぁ、それよりも問題なのは……だ。
「それが本当ならこの世界は。俺が竜馬やヨシキ、怜司や真央兄、王子やタカと……恋愛をするゲームってことか?」
「そうなるな」
否定して欲しかったことに、あっさりとタカが同意してくる。
「いやいやいや、そんなのありえないから! なんでそうなったんだ!? 俺にそういう趣味はない!」
「趣味はなくても素質はあるだろ。あいつらお前にメロメロだしな」
混乱する俺に、少し意地悪な口調でタカがそんな事を言う。
「うちの学園の裏側の丘っぽいところに大きな桜の木があるだろ? あそこに卒業式の日呼び出されて、告白を受ける。その中から一人を選んでゲームはエンドだ。今の様子だと全員好感度マックス、選び放題だ。よかったな」
「いや、全くよくないだろ! そんなのお断りだ!」
はっと笑いながら言ったタカにすぐさまそう返せば、肩をすくめてきた。
「選ばないのはやめた方がいいと思うけどな。バトルモードに自動的に入るぜ? このゲームはノベル式で、基本股がけは難しい。けど特定のキャラの組み合わせだとバトルモードが存在していて、選べないなら二人で主人公を共有するって話に勝手になる」
「何その謎仕様! 余計に事態が悪化してるだろ!」
つまりは恋人が二人状態ということらしい。それ二股っていわないかと思うのだけれど、それとはまた違うとタカは言う。
「恋人もいないのに、どちらとも付き合わないということは、選べなかったってことだろ? じゃあ選ばなくていいからオレたち二人貰ってねとか。選べるように互いを知るため、二人と付き合ってもらおうかという流れになるわけだ」
「いやおかしいだろその流れ。何うんうん頷いてんの」
攻略対象二人が同意の上で三人で付き合うというおかしなストーリが、このゲームではまかり通るらしい。
ちなみに主人公が同意するかどうかは関係ないとか。酷い話だ。
思わずつっこめば、さらにタカは続けてくる。
「ちなみに、竜馬とヨシキのバトルモードは、尽くされて甘やかされて結構人気が高いな。それでいて王子と魔王様のバトルモードは……まぁ監禁調教束縛×2で、どっちがいい?って延々責められる感じがドM女子に大人気だ。オレと御堂のやつは同じ大学に進んで、所構わずいちゃいちゃしてる感じだな」
聞いていて頭が痛くなってきた。
「ユメはそんな事何も言ってなかったぞ……」
「あいつはたぶん家庭用ゲーム機用の、全年齢対応版しかやってないんだろ。そっちでは不適切でインモラルな表現が多すぎて、バトルモードは削除されてる。主に魔王様と王子のせいでな」
俺の言葉に、さらさらとタカはそんな事を言う。
詳しいバトルモードの内容は、怖くて聞けなかった。
「この世界はオレたちがユメにプレゼントするため持ってた、パソコン専用18禁版だ。ちなみに、オレがユメにあげた『ドキドキ★エステリア学院』の18禁版は、実はダブルパックで乙女版とBL版二種類入ってる。今まで無事なのが奇跡的だな、はる」
「ユメに何プレゼントしてくれてるんだよ……」
「人の事お前も言えねーだろうがよ」
タカの説明に頭を抱えれば、どっちもどっちだとつっこまれてしまう。
まぁたしかにそうなのだけれど。
「本当にこの世界がタカの言った通りだとすると、俺これから……どうなるんだ?」
「全員の告白を断れば、少なくともバトルモードが二つ発生するな。ゲームにはなかった新展開にわくわくだ。御堂がそこに入ってくるかはわからないが、複数人の相手は体がもたないだろうな。もちろん18禁仕様だから頑張れ」
さーっと血の気が引いて慌てる俺に対し、タカは若干他人事のように口にする。
まるで自業自得だろというような響きがあった。
「そんなの無理に決まってるだろ! どうすればいいんだよ!」
「18禁な要素が起こらないルートはいくつかある。ノーマルルートと、王子と魔王のバトルモードに失敗した時のバットエンド。前者は好感度高い今の状態では無理で、後者は18禁要素はないがその代わり主人公が死ぬから論外だな。今の状態で可能なのは……ハーレムルートってことになる」
助けてくれというようにすがる俺に、タカがそう口にした。
「ハーレム? ハーレムなのに、エロ的な……そういうことがないのか?」
響き的に一番アウトなルートかと思えば、そうではないらしかった。
「このゲームは特定のキャラ以外股がけが難しい。全員の好感度をあげると、尺的にそういうシーン盛り込むのが無理だったんだろ。ただ全員が主人公に好意を持っている状態になる」
タカは当初、俺が転生者でハーレムルート狙いの悪女的な奴だと思っていたらしい。
だから必死に関わらないようにしていたのだという。
ちなみに、ユメが大団円ルートと呼んでいたこのルート、18禁版では普通にハーレムルートと呼ばれているらしかった。
「オレはハーレムルートだけはゴメンだ。あれは超展開すぎる。この世界で平穏に暮らして行きたいから、悪いがはるがそれを目指すなら絶対に協力はしない」
決意は固いんだというように、タカはそう口にした。
「じゃあ、オレが無事にエンドを迎えるには……?」
「一人を選ぶしかねぇだろ。受け入れろ」
残酷な答えを、タカが突きつけてくる。
「いや、でも……そんな」
「嫌だよな。気持ちはよくわかる。だからオレを選んでおけ、はる」
頭がぐるぐるして整理が着かないオレの頭を、くしゃくしゃとタカがなでてきた。
「オレなら気心が知れてるし、はるが嫌がることはしない。ただハーレムルートに行かないよう、ルートを確定させるために恋人どうしの……そういうことはすることになるかもしれねぇが。オレは相手がはるなら……茨の道でもかまわない気がしてる」
手を組むなら考えておけとそう言って。
真っ赤な顔でタカはその場を去って行った。
いや、おかしいだろ!
色々間違ってる。何でこうなった。
気づいたらこの世界にいて、生まれ変わっていたってことはどうにか飲み込めた。
元の世界から俺を追いかけてきてくれた幼馴染のユメに、苦しいときに支えてくれた親友のタカ。
それに、俺をいつだって助けてくれる従兄弟の真央兄に、俺を慕ってくれる後輩のヨシキ。俺の寂しさを埋めたいと言ってくれる竜馬に、新しくできた親友の怜司、ストーカー気味だが俺に執着してくれてる王子こと、ゆき。
この世界を否定してきた俺だけど、俺を必要としてくれて、俺が必要としてるものは、この世界に全部あったんだってことに気づいた。
ここで皆と生きていこう。そう思えた矢先にこれか。
恋愛シミュレーションゲームで、まさかの主役が俺。
相手は全員男で、今まで仲良くなった攻略対象ときてる。
好感度は高いか低いかで言うと、高い事くらい自分でも分かってる。
密度の濃い時間を彼らとは過ごしてきたし、その辺りの奴らよりも仲がいいと言える。
短い時間で結んだ絆がそこにあると信じる事ができるくらいに、俺だって彼らの事が好きになっていた。
しかしだ。それはライクであってラブじゃない……はずだ。
あいつらだってそのはず……いや、王子はよくわかんないけど。
そうだと信じたい。
しかも、よりによって18禁……だと?
そんなの。
「絶対おかしいだろうがァァ!」
叫ぶ俺の声は、空に吸い込まれて消えてった。
全員出揃って、次から最終ターンに入ります。
お付き合いいただければ嬉しいです。




