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2.年下ワンコ系に弁当でアピールします【後編】

「主人公が残念すぎて、サポートしきれませんでした【後編】」とほぼ同じですが、ヨシキと合宿に行ったのが、『冬』ではなく『夏』になっています。

 ヨシキはバスケ部だった。

 そこで少しでも接点を増やすため、ユメをバスケ部のマネージャーとして入部させた。

 もちろんユメだけじゃ不安すぎるので、俺もバスケ部に入部した。


 俺は先輩だけど新人という微妙なポジションだったが、元々人数が少ない弱小バスケ部。

 それに元の世界でバスケ部だった俺は、その経験と人当たりのよさを武器に、すぐに馴染むことに成功する。

 それに、たった一人の新人だったヨシキは、俺の存在に安心したようだった。


 

「今日さ、俺の家に遊びにこないか?」

「あっ、行きます!」

 俺はヨシキとすぐに仲良くなった。

 幼馴染であるユメも家に呼んで、二人の接点を増やしていく。


 ヨシキルートの後半には、ヨシキとその弟も一緒に夕飯を食べる展開もあったとユメから聞いていた。

 なので、慣れてきたころに俺からヨシキたち兄弟を夕飯に誘う。

 もちろんユメも呼んで、だ。

 わいわいとにぎやかな食卓に、ヨシキは終始笑顔だった。


 そんな俺の努力の甲斐あって、まさにヨシキの好感度はうなぎのぼりだった。


相川あいかわ先輩! 一緒にランニングに行きませんか?」

「相川先輩! この映画見たいって言ってましたよね。チケット貰ったんですけど、二人で行きませんか?」

 ……主に、俺に対する好感度が。



 いやいやそうじゃないから。

 お前が主人公であるユメと仲良くしてくれないと困るんだよ。

 じゃないと、この乙女ゲームの世界がクリアできないし、元の世界にも戻れない。


 しかし、そんな俺の心をヨシキがわかるはずもなく。

 ヨシキは、ユメにはまだよそよそしいのに対し、俺にはかなり懐くようになっていた。

 いい奴だし、犬っぽいし、慕われて悪い気はしないんだが違うだろ。


月島つきしま先輩って、相川あいかわ先輩のことをはるちゃんって呼びますよね。どうしてですか?」

 ある日、ヨシキがそんな事を聞いてきた。

 この世界の俺の名前である相川あいかわ透哉とうやに、はるって字がどこにも入ってないことを疑問に思ったんだろう。


「俺が春生まれだからだ」

「そんな理由なんですか?」

「あだ名なんて、そんなものだろ」


 春生まれなのは本当だが、ユメが俺のことをはるちゃんと呼ぶのは、元の世界での癖みたいなものだ。

 元の世界での俺の名前は春斗はるとで、はるちゃん。

 それだけのことだったりする。


「じゃあ、オレもはる先輩って呼んでいいですか? オレのこともヨシキって呼び捨てにしてくれていいんで」

 慣れなれしいですかね、と不安そうにヨシキが俺の様子を窺ってくる。


 部活では終始一緒だし、経験者であるオレはバスケ未経験のヨシキによくつきっきりで教えていた。

 よく保育園にも一緒にお迎えにいくし、遊びにもよくでかける。

 かなり仲がいいといえた。


「いいぜ」

 こういう名前呼びイベントって、普通主人公との間に起こるものじゃないのか。

 そう思いながらも、好意を示されて悪い気はしないのでオッケーする。

 

「本当ですか! 嬉しいです!」

 目に見えないしっぽをぶんぶん振りながら、ヨシキが笑う。

 俺はなんだかんだで慕われるのが嫌いじゃなかった。


 家に帰って、このことをユメに報告すると、なぜかむくれられた。

「はるちゃんって呼ぶの、わたしの特権なのに! 最近、はるちゃんは沢渡さわたりくんばっかり構ってずるい!」

「お前が全然ヨシキを落とそうとしないから、俺が頑張ってるんだろうが。文句いうなら、ちょっとは女を磨く努力をしろ! またお前面倒だからって体洗う石鹸で顔まで洗っただろ。カピカピじゃねーか!」

 

 ユメはユメで、俺が情報収集も兼ねてヨシキとばかり遊ぶものだから、不満顔だった。

 誰の恋路を応援するために、俺が頑張ってると思ってるんだこいつは。


 とりあえずユメに顔を洗顔料で洗わせて、化粧水のパックをしてやりながら、俺は溜息をついた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 そうこうしている間に、季節は夏になった。

 なのに、ヨシキとユメの仲は全く変わっていない。

 むしろ、ユメがヨシキに対して、意味のわからない対抗心を燃やしているため、悪化しているような気さえする。


 ユメはバスケ部のマネージャーのくせに、部活着を洗濯させたらそこら中を泡だらけにし、ボールを磨かせたらいくつかボールを紛失し。

 窓を閉めてとお願いしたら、その窓に指を挟んで怪我をして。

 一応手当てはヨシキに頼んだけれど、呆れた顔をしていた。

 使えないにもほどがあるので、すでにユメは幽霊マネージャーと化していた。


 その分俺がフォローするしかないとヨシキを家に連れていけば、ユメは俺の隣をキープしだす。

 そうじゃない、ヨシキの隣をキープしろよといくら言っても聞いてはくれなかった。


「月島先輩って、はる先輩の幼馴染だからって、慣れ慣れしくありませんか」

 そして、ヨシキのユメに対する好感度は低下の一途を辿っていた。

 お昼の弁当もいらないですなんて言われた日には、俺は焦った。

 折角作ってるんだから、貰ってやってくれと頼み込んで、どうにか納得してはもらったが。



 このままじゃいけない。

 そう思った俺は、バスケ部の夏合宿に勝負をかけることにした。


 幽霊マネージャーであるユメを召喚する。

 俺の作戦としてはこうだ。

 男だらけでは合宿の料理もうまくいかない。

 ここで、ユメが素敵な料理を作ってふるまうのだ。


 これで、多少好感度は上がるはずだ。

 もう取り返しがつかないんじゃないかとか、ワンパターンじゃないかなんて思ってはいけない。

 微かな望みでも、可能性があるのならやってみるしかないのだ。

 たとえヨシキを騙してるっていう罪悪感が、俺の心に生まれてきていたとしても。


「こんなに大量なの無理だよぉ……」

 いきなり泣き言を言うユメ。

 

「大丈夫だ。俺が手伝いということになってるし。いつものように俺が作ってやるから。ほら、包丁貸せ」

 トトトトと手際よく野菜を切っていく。


「料理してるときのはるちゃんって格好いいよね。わたし、好きだな」

「見とれてないで、これくらいはできるようになれ」

 合宿といえばカレーだが、ここは腕の見せ所。

 一味違うってところを見せて、さらに好感度をあげるくらいわけない。


「あれ?」

 料理に集中していたら、鍋をかき混ぜているユメが窓の外を眺めて首を傾げた。

「どうした?」

「今そこに誰かいたような」

「気のせいだろ。他の連中は練習中だし。早く夕飯の支度を終わらせて、俺たちも戻るぞ」

 ユメは納得がいかない様子だったけれど、おとなしくずっと鍋をかき回していた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 合宿で振舞った特製カレーは好評だった。

 そうだろう、そうだろう。


「月島にも、できることがあったんだな」

「人間何か一つくらいとりえがあるものだよな……」

 部員達のユメを見る目も、ちょっと変わった気がする。

 なんだか残念な評価も聞こえたけれど、そこは聞かなかったことにした。


 しかしそんな中、ヨシキだけが浮かない顔をしていた。

「どうした? カレー美味しくないか?」

「いえ。とても美味しいんですけど……はる先輩、あとでちょっと時間貰っていいですか?」

「かまわないけど」

 なんだかヨシキは深刻そうな顔をしていた。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


「あのカレー月島先輩が作ったわけじゃありませんよね」

 合宿所の裏手まできたところで、ヨシキがそう切り出してきた。


「何言ってるんだ。あいつが作ったに決まってるだろ」

「オレ、練習中に抜け出して見たんです。はる先輩がカレー作ってるところ。月島先輩はずっと鍋をかき回してるだけでした」

 なんてことだ、見られていたなんて。

 俺は青ざめた。


「はる先輩が夕飯に呼んでくれた時の料理、月島先輩が作ったなんていってましたけど、あれも嘘ですよね。あと弁当も全部はる先輩が作ったものだ」

 ヨシキは確信を持っているようだった。


「はる先輩がどうしても食べてやってくれっていうから、月島先輩から毎回弁当を受け取っていますが、あの人の手は家事をしている人の手じゃありません。それに、はる先輩の家に夕食を食べに行くときも、どうしてあの人だけナチュラルに座って手伝わないんですか?」

 ヨシキはよく見ていた。


 ユメの手は子供のようにぷにぷにで、一切荒れてない。

 ユメが家事をしてないというのもあるが、俺がまめにケアしてるというのもある。


 あと、ヨシキは誤解しているが、ユメが夕食の用意を手伝わないんじゃない。

 俺が手伝わせていないだけだ。

 あいつに手伝わせたら、皿を割ったり、料理をぶちまけたりして、余計に手間が増えてしまう。

 しかし、そんな事情をいうわけにはいかず俺は黙りこんだ。


 わざわざ練習中に抜け出して、確認するほどだ。

 結構前からヨシキはその事を疑っていたんだろう。

 なら、今更繕っても無駄だ。


「ごめん。俺、ヨシキを騙してた。弁当もあの夕食も全部俺がつくったものだ」

 俺は頭を下げた。

 元の世界に帰るためとはいえ、ヨシキの気持ちを操ろうとしたのだ。

 我ながら酷いことをした自覚はあった。


 最初ヨシキ自体に近づいたのも、そのためだし。

 一緒にいるうちに、慕ってくるヨシキを友達のように思っていた。

 なのに、こんな風に今まで騙し続けていた。

 罪悪感は仲良くなるにしたがって、俺の中で大きくなっていた。


「別にはる先輩を責めてるつもりはないんです。顔を上げてください」

 こんなのいい気分はしないだろうに、ヨシキは俺を許してくれるつもりみたいだった。

 

「きっとはる先輩は、男が料理好きなんて恥ずかしいと思ってるだけなんですよね。だから月島先輩経由で、俺にお弁当の作り方を教えてくれた。毎日月島先輩にお弁当を届けさせるのも、オレがパンばかり食べてるのを心配してくれたからなんでしょう?」

 うまい具合に、ヨシキは解釈してくれているようだった。


 まぁ間違ってはいない気がしたので、訂正はしないことにする。

 ここは乙女ゲームの世界で、攻略対象キャラであるヨシキを主人公のユメに落とさせようと画策してました……なんて説明よりも、よっぽど説得力があった。


「はる先輩の気持ちもわかります。でも、オレは直接はる先輩から弁当を貰いたいんです!」

 ヨシキが熱っぽく潤んだ眼差しを、俺に送ってくる。


 あれ、なんかおかしな方向になってきてないか?

 そう思ったとき、俺の腰に衝撃がはしった。


「だめーっ! はるちゃんは、わたしのなんだから!」

 どこからか現れたユメが、俺の腰に抱きついてきたのだ。

「月島先輩、覗き見ですか。前々から言おうと思ってましたが、はる先輩の幼馴染だからって、くっつきすぎです!」

 すっぽんのように俺にしがみつくユメを、ヨシキが引き剥がそうとする。


 何これ。

 なんで俺は取り合いされてるの?


「この際だから言っておくけど、はるちゃんが沢渡くんに優しいのは、わたしのおかげなんだからね!」

 ユメはヨシキにそんなことを言い放つ。

 主人公と攻略対象キャラをくっつけるためという意味では間違ってないが、ヨシキはわけがわからないというような顔をしていた。


「あなたこそ、はる先輩が優しいのは幼馴染という立場だからってことを理解してください。そしていい加減、離れてくれませんか」

 ヨシキはヨシキで、ユメを睨みつけて、俺に抱きつくような形を取る。


「あのなぁ、お前らいい加減に……」

「なにその言い方。これって全部、はるちゃんが思わせぶりだからいけないんだよ!?」

「はる先輩が、月島先輩を甘やかしすぎるからいけないんです」

 喧嘩を諌めようとしたら、二人に逆ギレされる。

 その迫力は、思わず謝ってしまいそうになるほどだった。


「はるちゃん。こうなったら決めてよ。わたしとこいつ、どっちをとるの?」

「そうですね、はる先輩に決めてもらいましょう。オレと月島先輩、どっちを取るのか。まぁオレだとは思いますけど」

 二人が火花を散らす。


「どうしてそんなに自信満々なのよ!」

「先輩は最初の頃からオレに親切で、こっそり弁当まで渡してくれてたんです。部活も一緒、帰りも一緒なんですよ」

 喰ってかかるユメに対し、ヨシキは余裕の表情だ。


「そんな事いったら、わたしなんて毎日のように夕飯ご馳走になってるもんね。髪もとかしてもらって、服だって選んでもらってるもの!」

「それ、女として意識されてないってことじゃないですか?」

「そ、それは……」

 はっとヨシキが鼻で笑い、悔しそうにユメが唇を噛む。


「でもでも、いっぱいわたしアプローチしてるもの! 毎回好きだって言ってるし」

「言葉だけでしょう? オレははる先輩のためなら、掃除も洗濯も料理もできます。先輩が求めるなら、もっと凄いことも……ね? あなたに先輩を満足させる自信があるんですか?」

「……くっ、勝てる気がしない!」


 そこは勝つ気でいけよユメ。

 そしてヨシキ、落ち着け。もっと凄いことってなんだ。

 なんでこんなに好かれちゃってるの、俺。


「それではる先輩はどっちを選ぶんですか?」

「はるちゃぁん。わたしを見捨てないよね?」

 選ぶのは、もちろんオレ(わたし)だよね? って目で、二人が俺を見てくる。



 元の世界に帰りたい。

 ただそれだけで頑張ってきたのに。

 どうしてこんなややこしい事になってしまったんだろう。


「どっちも選ぶわけないだろうがァァ!」

 俺は泣きたい気分だった。


 当初ゆめとはるをくっつけて恋愛もの頑張ろうと思ったんですが、出来上がったユメが残念すぎて思ったようにいきませんでした。タイトルまんまです。

 あと、ヨシキが暴走しました。こんなオチですいません。

 ★3/23 誤字修正しました。

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