27.最後のキャラは……だったようです4
俺がタカを追う、その後をユメが追ってくる。
何故そうなったのかはわからないが、そんな状態が何日か続いた。
ユメは体力がないので早々にヘタって、結局は俺とタカのふたりっきりになるのだけれど、ユメは諦めず俺とタカが接触しようとするのを邪魔してこようとする。
ユメは何か隠してるのに、問い詰めても全然口を割ろうとしなかった。
「ちょ、ユメ離せ!」
「やだ! タカちゃんのとこ行っちゃ駄目!」
腰にしがみついてくるユメを引きずりながらタカを追いかける。
逃げられてしまうと思っていたら、タカが俺とユメのとこに戻ってきた。
「おい馬鹿ユメ。お前はあの日、オレたちからのプレゼントを受け取ったのか」
タカに話しかけられて、ぴくりとユメが反応する。
俺の腰から離れてタカの前に進み出る。
まるでタカから俺を守ろうとするみたいに見えた。
「……うん。受け取ったよ」
「そうか。じゃあ全部知ってて、わざわざここにきたんだな。本当あいかわらず馬鹿だな、お前は」
苦しそうな今にも泣き出しそうなユメの声。それに対するタカの声も暗く、どこか諦めたような雰囲気があった。
「……」
「心配しなくてもあの事を言うつもりはねーよ。悪かったなって、それだけ言いたかったんだ。じゃあな」
無言のユメに、タカはそう言って去っていく。
その会話の意味は、俺には理解できなかった。
けど二人の間では確かに会話が成立していたようで。
「何の話だユメ」
「なんでもないよ、はるちゃん」
俺の声にふりむいたユメは、泣きそうなそれでいてほっとしたような顔をしていた。
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「タカ今日はどこ行くんだ?」
「うるさい、ついてくんな。帰れ」
ユメはタカの一言で俺を追い回すことをやめたが、俺は未だにタカを追い掛け回していた。その態度は相変わらず冷たい。
「ストーカーかお前は。いいかげんにしろよ、相川透哉」
立ち止まって振り向き、タカがわざと俺を傷つけるかのようにキャラクター名を口にする。
学校でも外でも。最近のタカは俺を諦めさせるためか、元の世界にいた時のように『はる』と俺を呼んでくれなかった。
「……俺は真壁春斗だ」
でも堪えてないふりをして、真っ直ぐ目を見て言葉にする。
「おぉ? 久しぶりじゃねーか、須賀。前は世話になったな」
柄の悪い不良たちが、タカを見て近づいてきた。
「ちっ。嫌な奴らに会った」
「おいおい、失礼だなぁ。借り返してねーのに、最近街で会わねぇから、びびって逃げたのかと思ってたぜ?」
舌打ちしたタカに、なぶるような視線を不良たちが送ってくる。
「はる、どこか行け。オレはこいつらと用がある」
こんな時だけ、俺の事をはると呼んで、庇うようにタカは前に立つ。
「んなの、行かせるわけないだろ!」
俺が腕を掴めば、タカに乱暴に振り払われてしまう。
「へぇ、もしかして須賀のお友達か。丁度いい。俺らと遊ぼうぜ」
後ろから不良グループが俺の体を羽交い絞めにしてくる。
「やめろ。そいつは関係ない」
「そんなことはどうでもいいんだよ。お友達が痛めつけられたくなかったら……わかるよな、須賀?」
焦ったような声を出すタカに、不良の一人がにぃっと笑ってタカを見た。
「……わかった好きにしろ」
「そうこなくっちゃな」
溜息一つついてそう口にしたタカに、不良たちが下卑た笑いを浮かべていた。
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連れてこられた廃ビルで、タカが不良たちに嬲られる。
「やめろ! タカ、俺なんてどうでもいいからっ!」
タカは手出しせずに殴られていて、口の端から血が出ていた。
避けていた俺のために、タカがどうして体を張るのかわからなかった。
くそっ、このままじゃ俺のせいでタカが。
「っ! 痛っ! こいつ噛みやがった!」
俺を拘束してる男の腕に噛み付いて、タカの元に走る。
「やめろ、タカにこれ以上手出しすんな!」
タカを蹴り飛ばしてる男にしがみついたけれど、振り切られて突き飛ばされてしまった。
背中が床にたたきつけられて、息が詰まる。
「はる……やめろ」
それでもタカに攻撃を加えようとする不良の足にしがみつけば、タカが辛そうに顔をゆがめて声を出す。
「邪魔だなお前」
不良の足が俺の頭の上に落とされようとして。
ぎゅっと目を瞑ってそれに耐えようとしたけれど、その衝撃はいつまで経ってもこなくて代わりに頭上で骨を砕くような鈍い音がした。
「俺、こういう野蛮な事向いてないんだけどな」
「ゆき?」
ゆっくり目を開ければ、そこに王子がいた。
なんでここにというのは無粋だろう。いつものように俺をストーカーしていたに違いなかった。
「はる、大丈夫か!」
「遅いよ。おかげで慣れないことするはめになった。こういうのはあんたに任せる」
真央兄もかけつけてきて、王子が嘆息する。
どうやら王子が連絡を入れて真央兄を呼んだらしい。
「あぁ? なんだてめーら」
いきなり現れた二人に戸惑いと苛立ちを隠せない不良たちを、真央兄が殴り飛ばす。
人質がいないことで枷のなくなったタカも暴れだして、すぐに不良たちは床に沈められた。
「真央兄を呼んでくれたのか。ありがとな」
「うん。だって、俺こういうの得意じゃないし。遅れてごめんね」
王子に礼を言えば、ふふっと爽やかに笑う。
「ここ電波なくてさ。連絡とってる間に、春斗を投げ飛ばしたやつがいるみたいだね……どうしてくれようかな?」
不良が持っていたものなのか、落ちてたナイフを拾い上げる王子目の奥には……不穏な闇が渦巻いているようにみえた。
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「なんで俺なんかを庇ったんだ」
「うるせぇ、オレの面倒事に巻き込んだから責任とっただけだ」
色々後処理があるからという王子と真央兄を残して、先にタカを連れて、真央兄の秘書である鈴木さんの車に乗り込む。
車の中で手当てをしてる間も、タカの態度は普段と変わらなかった。
「一応礼は言っておく。けど本当にもう頼むから、オレに関わるのはよしてくれ!」
お願いだというように、タカは叫ぶ。
「理由がないと納得できない。俺を庇ってくれたってことは、俺の事嫌いになったわけじゃないんだろ。それなのに、どうして避けるんだよ!」
何度も繰り返した会話。
「ちっ……止めてくれ。ここでいい」
戸惑う俺の顔を見て、タカは舌打ちをして車を止めた。
「待てよ! まだ話は!」
「明日からお前を避けたりしない。だからあんな無茶はもうすんな……わかったな?」
車を降りようとするタカの服を掴めば、真っ直ぐ目を見つめられて、そんなことを言われた。
「……あぁ! 約束だからな!」
嬉しくなって笑顔で頷けば、本当しょうがないなというように、溜息を付きながらタカは俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
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「はいこれ、タカにやる。クリスマスプレゼント」
「いらねぇ……ったら、捨てるんだろ。ちっ、勿体ねぇから貰っといてやるよ」
クリスマスイブの放課後。
手編みのマフラーを手渡せば、タカは悪態をつきながら受け取ってくれた。
あれからタカは俺から逃げなくなった。
相変わらず態度はそっけなくて突き放すようだけれど、前ほどではなくなっていて。
俺は毎日のようにタカにつきまとって、また友達になれるようにアタックしていた。
「何にやにやしてやがる」
「いや、受け取ってくれて嬉しいなって」
つい顔がにやけていたらしい。
俺の顔を見て、むっとしたようにタカは眉を寄せた。
「っ! 勘違いするな。丁度マフラーを買い換えようと思っていて、偶然オレが昔してたお気に入りのマフラーと同じ柄で、今日が雪降ってて寒いから貰ってやるだけだ」
「この柄って、俺が昔編んでお前にあげたやつと同じ柄だよな。気に入っててくれたんだ?」
「……ッ! うるさいうるさい! いいからもう構うなって言ってるだろ!」
ツンと顔を逸らしたタカにそう言えば、耳元を赤くして早足で歩き出す。
微笑ましくなって、つい笑いが漏れる。
やっぱりタカは『須賀浩介』になっても、俺の知ってるタカだ。
照れ屋で、からかうと面白くて。
それでいてとても優しい俺の親友だった。
「なぁ、タカ。今日俺の買い物に付き合ってくれないか。ユメの誕生日プレゼントを買いに行くんだ」
薄っすらと雪が降ってくる中、先を歩くタカに誘いの言葉を掛ければ、足が止まった。
「乙女ゲームを買ってやろうと思うんだけど、最近新作とか調べてないからわからなくて。それで、できればお前にオススメを教えて……あれ、何かこの会話前にもしたような」
ふいにデジャブのような感覚に陥る。
ちょうど今日みたいな雪の降る日。
俺はタカとこんな風に歩いて買い物に行った気がする。
目の前で画像が重なるような気がして、ツンと目の奥が痛む。頭痛の前触れのような感覚を覚えていたら、いつの間にかタカがこっちを振り返っていた。
「ユメは……誕生日プレゼント欲しいって言ったのか」
「それが、何も欲しくないって。あのユメがありえないだろ? 絶対に乙女ゲームの新作が欲しいって言うと思ったんだけどさ。何故かこの世界に来てから、ユメは誕生日のプレゼントだけはいらないって言うんだよな。サンタも信じてないなんていうんだ。あのユメが。信じられないだろ?」
タカの質問に答えながら首を傾げる。
元の世界でもこの世界でもユメの誕生日は一緒だ。乙女ゲームの中には何故か誕生日を設定できるやつが意外と多い。
この乙女ゲームの世界『ドキドキ★エステリア学院』もそのタイプだった。
元の世界のユメは、高校生までサンタを信じているようなやつだったのだけれど、この世界にきてからのユメはそうじゃなかった。
サンタからのプレゼントも、誕生日のプレゼントも。
この世界に来てから、ユメは何故か欲しがらなかった。
特に今日のユメは様子がおかしくて。
プレゼントなんかいらないから、絶対に外に出るなと俺に何度も言ってきた。
まぁ、書置きを残して外に出てきたのだけれど。
「……じゃああげる必要ねーだろ。欲しくないって言ってるんだから」
「俺があげたいんだよ。まぁいいや俺一人で探しにいく」
最初から付き合ってもらえるとは思ってなかったのでそういえば、がしっと手をつかまれた。
「ちっ。しかたねーから、オレも着いていってやるよ」
そう言ってタカは俺の前を歩き出した。
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「これでいいだろ。さぁ行くぞ」
適当にタカが選んで、俺に渡してくる。
「いや駄目だって。昔ユメが十八歳になったら絶対十八禁の乙女ゲームが欲しいって言ってたから、その中で選んで欲しいんだ。これ一人で選ぶのが恥ずかしくてさ」
「……はる昔も思ったが、そのプレゼント色々とおかしいと思うぞ」
タカに言えば、呆れた顔をされた。
元の世界にいるとき、ユメはそれが欲しいとずっと前から言っていた。
内容がアレなのはわかってるし、子供の教育上よろしくない。
けどようやく十八歳なんだよと、かなり前から待ち遠しそうにしてるユメを見たら、与えてやりたくなったのだ。
サンタは今年までと決めていたから、尚更だった。
――あれ、そういえば。
元の世界で、俺はユメにそのプレゼントを買ってあげたっけか。
そもそも俺は高校のいつに、この世界に来たんだろう。卒業した覚えはない。でも高校三年生までは過ごした記憶がある。
これでいいだろとタカがぱっと選んでくれて、それを買う。
少しはずかしいなと思いながら、レジを通す。
なんだか前にもこんな事があった気がした。
あの日も雪が降っていて。
「おい、はる」
呼ばれてはっとする。
店を出て、俺は立ち尽くしていた。
ふと目に映るのは、立ち止まって俺の方を見ているタカ。
「――っ!」
その瞬間、目の前に色んな映像が流れた。
俺を呼ぶタカの背後に、トラックがいて。
驚いたときには遅くて。タカの体が視界の隅に飛んで、俺の目の前にトラックが迫ってきて。
その後は――。
「おい、おいはるっ! しっかりしろっ!」
必死なタカの声で我に返る。
いつの間にか俺はタカの腕の中にいた。
空から降ってくる雪のカケラが、頬に触れて水になる。
「そっか、俺……」
――元の世界で、今日この日。
タカと一緒に死んだのか。
そんな事を、俺は今更思い出した。




