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25.最後のキャラは……だったようです2

 あんぱんアイスを好きな同士を見つけたと思ったら、攻略対象最後の一人・須賀すが浩介こうすけだった。

 金髪にピアス。いかにも不良と言った感じだが、顔の造詣は乙女ゲームのキャラだけあって整っている。

 顔を見合わせて互いに固まっていたら、先に動いたのは浩介だった。

「このアイスお前にやる。じゃあ、オレはこれで!」

 まるで怯えたようにオレにアイスを押し付け、浩介は慌ててその場を去っていく。

 その態度が妙に気になって後を追いかけた。


「ちょっと待てって、何で逃げるんだ」

「別に逃げてねーよ。近づくな!」

 声をかければ、警戒するように浩介がそんな事を言う。全力疾走だ。

「俺お前に何かしたか?」

「してない。してないから気にするな! あんぱんアイスはくれてやるから、オレに構わすさっさと行け!」

 そういわれても、逃げられると気になってしかたなくて。

 追い掛け回して、気づいたら浩介のマンションの部屋まで来てしまっていた。


「まじふざけんな……オレはお前と関わりたくねーんだよ。けどまぁ、茶くらいなら飲んでけ」

「悪い」

 悪態をつきながら、浩介はお茶を入れてくれた。

 その湯のみは、ユメが大好きこの世界の乙女ゲーム『トラピア♪ラビリンス』のイケメンキャラをイメージしたものだ。同じシリーズのキャラ違いバージョンをユメが持っていたから知っていた。


「……トラピア♪ラビリンス好きなのか」

「お前、これがトララビのグッツだって、わかるのか?」

 俺の言葉に浩介が驚いている。

 キャラクターごとにトランプの柄がモチーフになっており、グッツはその柄でデザインされている。

 何でもかんでもアニメキャラの顔がついてるやつをユメは買おうとするので、これくらいにしとけと俺が買い与えたりしていた。普段使いしても問題ないタイプだ。


 乙女ゲーム『ドキドキ★エステリア学院』の攻略対象、須賀すが浩介こうすけ

 彼は不良キャラで、主人公が猫を助けて木から下りれなくなったところを助けてくれる。

 そんな出会いから始まるストーリの持ち主だ。

 しかし、ユメはそもそも木に登れず、浩介は「何あいつ」という目線でユメを一瞥して出会いイベントは終了した。


 いきなり押しかけてきた相手に文句いいながらお茶を出してくるあたり、不良な外見をしてるけれど悪い奴ではなさそうだ。

 しかし見たところ一人暮らしっぽいのに、どうして男の浩介が乙女ゲームのグッツなんて持っているのか。

 まぁ、そういう趣味の男がいないわけではないとは思う。

 実際に元の世界での俺の親友・タカは、女の子向けのイケメンがいっぱいいるゲームが好きだった。妹が好きなんだとかいいながら女の子向けのゲームを買っていたけど、あれは絶対あいつがやっていたと思う。


「あのゲーム面白いよな。どのキャラを選ぶかで、主人公の立ち位置が変わってくるっていうかさ。謎解き要素もあって楽しめた」

「お前もあのゲーム好きなのか!」

 俺の言葉に、キラキラと浩介が目を輝かせる。

 この世界『ドキドキ★エステリア学院』をクリアするために、俺は色んな乙女ゲームをクリアしていた。

 決して趣味ではないけれど、中には楽しいゲームもあったことも事実だった。

 口にすれば浩介がその魅力を語ってくる。とてもそのゲームが好きらしい。


「オレはジョーカーとスペードの組み合わせが一番萌えると思うんだ。お前は……って、やっぱいい。お茶飲んだらさっさと帰れ」

 嬉々として語ろうとしていたくせに、浩介は途中ではっとしたように表情を変えて、俺を睨んでくる。

「誰もが皆主人公になびくと思うな、相川あいかわ透哉とおや。オレは攻略されるつもりはないし、ハーレムの一員なんてゴメンだ。それに、二次元と三次元は別物だからな」

「……攻略? ハーレム?」

 浩介の言葉に、思わず目を見張る。


「もしかして、お前はこの世界が……ゲームの世界だって知ってるのか?」

「やっぱりお前もオレと同じ転生者か。薄々そうじゃないかと思ってたんだ。まぁそのわりには、他のやつらの攻略に最初手間取ってたみたいだけどな」

 俺の言葉に、はっと浩介が吐き捨てる。

 まさか自分とユメの他にこの世界にきていた奴がいるなんて思ってなかった。あまりの事に呆けていたら、浩介が立ち上がった。


「わかったならとっとと帰れ。オレは攻略なんてされない」

「ちょっと待ってくれ。折角同じ元の世界からきた奴に会えたんだ。話くらいさせてくれないか。頼む……俺、もうどうしたらいいか、わからないんだ」

 冷たく言い放つ浩介に、懇願する。

 元の世界に戻りたいのに、戻れない。この苦しさを、分かち合えるやつが欲しかった。

 こいつなら、俺の気持ちをわかってくれるんじゃないかと思った。祈るような気持ちを込めて見つめれば、うっと浩介がたじろいだ気配がした。


「……なんでそんな顔するんだ? それも作戦なのか。ハーレムエンドを目指す悪女っていうか、そういう奴じゃないのかお前は」

 よくわからないが、浩介は俺に対して警戒心を抱いているようだった。

 疑り深い視線を向けながら、俺から距離をとって座りなおす。

「……話だけなら聞いてやる。けど、オレはお前になびかないからな」

「ありがとう」

 ほっとして笑えば、眉をひそめてそれからふいっと浩介は視線を逸らしてしまう。


「俺は気づいたらこの世界に、相川透哉として生まれていた。元の世界からの幼馴染の月島ユメが、このゲーム『ドキドキ★エステリア学院』の主人公で、俺はユメを攻略対象とくっつけようと頑張ってきたんだ。ゲームをユメがクリアすれば、元の世界に帰れる。そう思っていた」

 ここまで聞いて、浩介が目を見開いて、何かを言いたそうに口を開いた。

 何か言いたそうな顔をしていることに気づいて、首を傾げたら話を続けるように顎で促される。


「けどユメが残念すぎて上手くいかなかった。メインヒーローとの幼い頃の出会いは引きこもっていたから発生しなくて、優等生には劣等生すぎて相手にされず。年下の攻略対象にもいまや女として見られてる節がなくて、手間のかかるペットくらいに思われてる感じなんだ。従兄弟の攻略対象にも、お手上げだって言われた」

 ユメはそもそも、元の世界に帰りたくない。

 こっちの方が居心地がいいからだ。それはしかたないとわかっているのだけれど、やっぱり俺には未練があった。


「このままじゃ、ゲームがクリアできないんだ。今は九月で、あと半年しかないのに。もう詰んでる。このままじゃ、俺は元の世界に帰れない。ここで一生相川透哉として暮らすしかないんだ。お前だって元の世界からきたなら、帰れないのは苦しくないのか?」

 訴えるようにして言えば、浩介が少し俯く。

 そこに俺と同じような気持ちの揺れを見つけて、仲間がいると思えた。

「オレだって、帰れるなら帰りたい。けどな、お前はどうなのか知らないが、オレは現実の世界で死んだ記憶がある。だからそこのところは……諦めてんだよ」

 悔しそうに浩介は呟く。


「そう……なのか?」

「あぁ。高校三年のクリスマス前に、この『ドキドキ★エステリア学院』の続編を友達と買いに行ったんだ。そしたらダンプカーに撥ねられて死んだ。で、気づいたら不良キャラの『須賀浩介』として生まれてたんだ。転生ってやつだな」

 俺の呟きに答える浩介は、自分のこの状況を受け入れているように見えた。一度死んだという自覚があるから、今の『浩介』としての自分に違和感がないんだろう。


「それでちょっと確認したいんだが。その月島ユメってやつは、元の世界からの本名か?」

「あぁ、そうだ」

 浩介に尋ねられて頷く。

 ユメの名前は元の世界から変わらない。

 乙女ゲームってやつは、大抵主人公の名前が変換可能になっているやつが多い。ユメは自分の名前をそこに入れてプレイするタイプだった。

 だから俺と違ってユメは、今も元の世界でも『月島ユメ』なのだ。


「まじか。名前が同じだし、見た目はともかく、なんとなくあいつとよく似てるとは思ってたんだ。かかわりたくねぇなって思ってたオレの勘は正しかったってことか」

 浩介が嫌そうな顔をする。まるでユメのことを元々知っているかのような態度だった。

「……ユメを知ってるのか」

「オレの知ってる奴と一緒なら、な。とんでもないトラブル女だった。あいつといるとロクな事がない。銀行強盗と一緒に人質になったり、人骨掘り出したり、殺人事件にまきこまれたり、孤島に閉じ込められたり。何でオレは生きてるんだろうなって思えるほどだ」

 浩介が思い出したくもないというように口にする。

 それは間違いなくユメのようだった。


 浩介が元の世界で、ユメの起こすトラブルに巻き込まれていたということは……だ。

 こいつは俺の知り合いでもあるんじゃないか?

 トクトクと心臓の音が、期待で早くなる。

「あいつが本物の月島ユメだとしたら……お前、もしかして真壁まかべ春斗はるとか」

 浩介が口にした俺の名前に、とくりと心臓が鳴る。

 ――こいつは、俺を知ってる。

 本当の俺を、『真壁春斗』を知ってる人間だ。

 そう思うと、不安で苦しくなっていた心から何かがあふれ出すようで、息がつまって言葉がでなかった。


「おい、ちょ……何で泣くんだ!?」

「あれ……本当だ」

 慌てたように浩介が手をおろおろと動かす。言われて、自分の目から涙が出ていることに気づいた。

「悪い。泣くつもりは無かったんだ」

「謝らなくていいから泣きやめ! ど、どうしていいかわかんねぇだろっ! あーもう、ちょっと待ってろ!」

 そう言って浩介は席を立って、それから俺にタオルを投げつけてきた。

「これで拭け!」

 その動作は荒かったけれど、やってることは優しい。礼を言って受け取って、涙を拭いていたら、浩介はおかわりの温かいお茶を注いでくれた。

 結構いい奴だ。


「ったく、さすがのオレも、まさかはるまでこの世界にきてるとは思わなかった。しかもよりによって相川透哉だなんて。くそっ、なんでこんなことになってるんだ」

 浩介は悪態をつきながら、自分の髪をわしゃわしゃと掻いた。

「お前は、俺の……知り合いなんだよな。一体誰なんだ?」

「タカだよ。オレの事、まさか忘れてるなんていわねーよな?」

 溜息混じりに、浩介は俺に目線を寄越してそう言った。


「タカ? お前、本当にタカなのか!?」

「あぁそうだ」

 俺の言葉に、にっとタカは笑う。その目には懐かしむような色があった。

 タカは俺の友人で、中学時代からのクラスメイト。

 妙に気があってよく一緒につるんでいた。

 俺といるためユメと関わることも多く、よくトラブルに巻き込まれていて。

 少々口が悪くぶっきらぼうなのだけれど、悪態をつきながらも付き合ってくれる一番仲のいい友人だった。


 タカとはずっと同じクラスで。

 最初はクラスメイトに派手な金髪の奴がいるなぁと思っていた。元の世界のタカも、結構不良っぽくてぶっきらぼうな感じで、今の『須賀浩介』と雰囲気が似ている。

 あまり接点もなかったのだけれど、あれは中学二年のクリスマス前の事。

 サンタに乙女ゲームをお願いしたユメのために、俺は女性用のゲームコーナーへと向かっていた。

 ユメの誕生日はクリスマスで、俺はサンタ代わりにサンタを信じているユメに毎度プレゼントをあげていたのだ。


 そして、そこのゲームコーナーで、真剣にパッケージを吟味しているタカに出会った。

 妹のゲームを買いにきたというタカに、詳しいならどれをあげたらいいか教えてくれと頼んだところ、『ドキドキ★エステリア学院』を薦められたのだ。

 本人は隠しているつもりだが、タカは女の子向けのゲームやアニメが好きだ。

 それ以来仲良くなって、ずっとつるんでいる。ユメとも趣味が近いためか、悪態をつきながらもわりと仲はよかった。


「オレやユメはともかく……なんでお前までこの世界に来てるんだ? 別にエステリア学院をお前がプレイしてたわけじゃないだろ?」

「それはそうなんだけどな。気づいたらここにいたんだ」

 タカは困惑しているようで、俺にそんなことを尋ねてくる。

「……そうか、もしかしたら。そういうことか」

 それから何か一人納得したように、呟きだした。


「なんだよ。何か思い当たることがあるのか?」

「……」

 尋ねた俺に対して、眉間にシワをよせて目を細めタカは黙り込む。腕を組んで、唇に親指を当てる考えるときの癖が見えて、本当にタカなんだなと思えた。

「いや、なんでもねーよ。今日はとりあえず帰れ。それで、オレに近づくな」

 突き放すような言葉に傷つく。

 折角会えたのに、それはないんじゃないかと思った。


「俺はタカに会えて嬉しかったのに、お前はそうじゃないのか?」

 やばいと思う。また涙が出てきそうで、それを悟られたくなくて俯く。

 こんなに弱い奴になった覚えは無いのに。

「んなわけねーだろ。オレだってはるに会いたかったに決まってる。でも、この世界で会いたくはなかったんだ」

 怒りすら滲むような固い声に、そちらを窺えばタカも泣きそうな顔をしていた。テーブルの上で握り締められた手は白くなっていた。


「この世界で会いたくなかったってどういう意味だよ」

「それは……」

 俺の質問に、タカは口をつぐんだ。

「俺不安なんだ。攻略対象は皆ユメを見てなくて、なぜか全員と俺は仲良くなってしまってる。皆俺に、この世界で過ごす事を受け入れろって言ってるみたいで。苦しいんだ。もうどうしたらいいかわかんないんだよ……」

 胸の内の苦しみを吐き出せば、目の前のタカが痛々しくて見てられないというように、俺から目を逸らす。

 それから一つ息を付いて立ち上がり、俺の側にくると抱きしめてきて、肩をぽんぽんと叩いてきた。


 こうやってタカに慰められたことが、前にもあった。

 ふいに記憶が蘇る。

 黒い服を着た大人たち。

 起きた状況が何も理解できなくて、ただ立っていた俺に、中学の学ランをきたタカが近づいてきて。

 こうやって抱きしめて、背中を叩いてくれた。


「しかたねぇな、はるは……今日だけだかんな。我慢せずに泣いていい」

 溜息混じりにいいながら、背中を叩くタカの手は優しい。

 あの時と同じ言葉を言われて、俺の目から涙が零れていた。

 それと同時に思い出す。

 元の世界の両親は、すでにいないってことを。


 あれは中学三年生の時。俺の両親は事故で帰らぬ人となった。

 元の世界に両親がいないってことを、俺は完璧に忘れていた。どうしてこんな事も覚えていなかったのかと思って、都合が悪いから忘れていたんだと気づく。

 この前まで朝食を母親が作っていると、思い込みたかったのと同じ理由だ。

 元の世界に、待っている人がいると俺は思いたかったのかもしれない。


 高校にあがって、家で一人で暮らすようになって。

 いつもユメやタカが遊びにきてくれていた。

 だからそれほど寂しくなんてなかった。

 でも、ユメとタカがここにいるなら。

 もう、元の世界に俺を待っている人はいるんだろうか――そんな事を思った。

最終回近いのでシリアスターン多くてすいません。

3/29 誤字修正しました。

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