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23.王子8―騒ぎの後―

 騒動が一通り治まった後。

 桜子とゆきを追い出し、リビングの大きなソファーに二人で腰掛け、真央兄の手当てをする。


「説明してくれるよな真央兄。いきなり窓割って入ってきて、ゆきに喧嘩売ったりして。桜子まで現れてわけがわからない。怪我してるのに無茶するし」

「……わかった」

 真央兄を問い詰めれば、落ち着いたいつもの声で語り始めた。


 事の起こりは二日前。

 俺の家を訪れた真央兄は、王子がピンク色の便箋を俺の家のポストへ入れる所を見たらしい。


 俺が王子と過去に出会っていて、主人公であるユメの代わりにイベントを起こしてしまっているんじゃないか。

 真央兄は、実は前々からその可能性を疑っていたらしい。

 手紙の差出人である『ゆき』が王子だと気づき、すぐに家に帰って色々調べたらしかった。


「学院内で撮られたはるの写っている写真に、王子が毎回映写り込んでる上、調べてみたらはるの隣の家が王子の名義になってた。それを見て、王子がユメじゃなくてはるに執着してストーカーになってるって気づいたんだ。修学旅行にはるを行かせたら、まずい事になると思ったから、栄養剤だって嘘ついて薬を飲ませた」

 ごめんと真央兄は謝る。

 薬はコリに効くもので、副作用として筋肉が痛み、二・三日熱発してしまうものだったらしい。


「王子を避けられればそれでよかったんだ。けど、『ドキドキ★エステリア学院』の僕のルートが薬を主人公に盛って、修学旅行にいけなくなってしまうっていう内容だったらしくて。何も知らないユメちゃんが、それを阻止しようと桜子と結託して僕を監禁したんだ……本当あの馬鹿帰ってきたら許さねぇ」

 後半はぼそぼそとして聞き取れなかったけれど、真央兄は憤っているようだった。

 ユメ曰く、原作ゲーム内の真央兄は、外面はいいけれど中身は最悪なキャラだったらしい。

 それでユメは慌ててしまったんだろう。


「わざわざ薬なんて盛らなくても、王子がゆきでそういう危険があるって教えてくれたらよかったのに」

「言ったらはるは警戒したかもしれないけど、結局修学旅行に行くでしょ。そしたら怜司と同じ部屋で、王子とも再会して油断する」

 言えば真央兄は、きっぱりとそう断言した。


「油断って。確かに王子はストーカーだったけど、別に何かしてくるわけじゃないし。それに怜司と同じ部屋なのは関係ない気がするけど」

「……ほら、何もわかってない」

 身を起こしてから、やっぱりというように大きく真央兄は溜息を付いた。

 そのちょっと呆れたような態度に、子ども扱いされているような気がしてむっとする。

 元の世界から換算すれば俺の方が年上なのに、真央兄はどうにも俺を子供扱いするところがあった。


「それはともかくだ。予想外に王子が曲者だった。徹夜で調べてみたら、はるをストーカーしてる証拠がわんさか出てくる。俺様としたことがどうして今まで気づかなかったんだと苛立つくらいにな」

 真央兄の言葉がまた荒々しくなる。

 怒った真央兄は、こんな喋り方になるのかと思いながらも、やっぱり違和感が拭えなかった。

 言葉遣いが乱れていたことに気づいたのか、真央兄ははっとした顔になって、ごほんと咳払いした。


「修学旅行中は、ずっと僕がはるに付いているつもりだったんだ。会社に寄って念のため薬の中和剤を手に入れて。それからはるに会いに行ったら、ユメが邪魔をした。しかも、王子が修学旅行じゃなくてはるの所へ行ってしまって。はるをあいつらから守るつもりだったのに、守れなかった」

 痣のできた手に、悔しそうな顔で真央兄が触れてくる。

 

「痛かったよね。ゴメンね」

 湿布の上から労わるようにそこをなぞられた。

「別に真央兄のせいじゃないし、平気だって。ゆきだって、力が入りすぎただけだからさ。あいつは確かに王子で、俺のストーカーみたいになっちゃってるけど、根は悪い奴じゃないんだよ」

「ふーん、庇うんだ?」

 ゆきのフォローをすれば、真央兄の声が不機嫌になる。

 いつもの笑顔はそこになくて、こんな風に感情をそのまま出してくる真央兄は珍しかった。


「はる、王子は本気ではるの事が好きだよ。友情じゃなく、恋愛的な意味で。ユメが起こすはずだったイベントをはるが起こしてしまったから、あいつははるに惚れてしまった。そこのところわかってる?」

 怒ったような口ぶりで、真央兄が問い詰めてくる。


「いやまぁ……なんとなく気づいてはいるんだけど。どうしたらいいと思う?」

「どうしたらいいってどういう意味? 付き合ったほうがいいかどうか、僕に聞いてるの?」

 相談をすれば、真央兄はつっかかってくるような言い方をする。


「真央兄、何か今日変だぞ。いつも冷静な真央兄らしくない」

 女の子ならまだしも、ゆきは男だ。 

 今日の告白まがいの対決といい、こんな風に真央兄がからかってくるとは思ってなかったから、思わず眉を寄せる。


「僕はいつもと変わらない。ただいつもはるに見せてない面を見せてるだけだよ。嫉妬深くて格好悪い、子供みたいな部分をね」

 真央兄に手をひかれて抱きしめられる。


「真央兄?」

「はるはさ、押しとか好意に弱いよね。放っておいたら、誰かに盗られてしまいそうで嫌なんだ」

 戸惑う俺の体をトンと真央兄が押した。

 背中からソファーに体が沈んだところで、上に覆いかぶさるようにして真央兄がのっかってくる。


「王子からはるを守るために、僕が告白するふりをした……そんな風にはるは考えてるんだろうけどさ。さっきの告白本気だから」

 にっこりと天使のような笑みを見せる真央兄なのに、なぜかぞくぞくと悪寒が止まらない。

 片手でシャツのネクタイを外すような動作が妙に色っぽく、しゅるりと外されたネクタイで俺の手を頭の上で結んでしまう。

 この状況を、頭が理解しようとしない。

 

「痣ができてるからあまり動かないでね。痛い思いはあまりして欲しくないから」

 片手で俺の手を抑えながら、空いた手で慈しむように頬を撫でてくる。

 俺を見つめる顔は穏やかでいつもの真央兄だけれど、その瞳の奥にぎらつくような色があって、心をざわつかせた。


「真央兄、冗談だよな?」

「この状況ではるは何を冗談だと思うの? 僕がはるを愛してる事を疑ってるなら、今から証明するし慌てなくても大丈夫」

 焦った声を出した俺に、くすっと真央兄が笑う。

 知らない人のようで、急に怖くなった。


「そこまでにしてもらえますか、相川元生徒会長」

 ふいに声がして、外の方に目を向ければ竜馬が立っていた。

「竜馬!」

「出てくるの遅いよ。もう少しではるを襲っちゃうところだった」

 ほっとして叫べば、世話が焼けるというような口調で真央兄が俺の上から退いた。

 竜馬が手首に巻かれたネクタイを解いてくれる。


「なんで竜馬がここに? もしかしてずっとそこにいたのか」

「はるの家に王子が来てるって教えてくれたのが、一条くんなんだよ。桜子のところから僕を逃がしてくれたのも彼。それなのに自分ははるを助けないで、ずっとそこで突っ立ってたんだ」

 俺の疑問に真央兄が答えると、竜馬はバツが悪そうな顔になった。


「竜馬。とりあえず入ってこいよ。ガラスがあるから靴のままでいいぞ」

 声をかけたのに竜馬は渋るようなそぶりを見せた。

「……でも今は夜だから。来るなって言われたのに、ごめん。どうしても先輩が心配で仕方なかったんだ」

 悪戯が見つかって叱られた子供のように、項垂れながら竜馬が呟く。

 前に夜はもう来るなと言ったことを、竜馬はずっと気にしていて、律儀に守ろうとしてくれたらしい。

 

「ごめん竜馬。俺、お前が心配してくれてたのに、酷いこと言った。朝食を母さんが作ってくれてるって思い込みたかったんだ。馬鹿だった」

「……おれの方こそ先輩の事情に勝手に足つっこんだから。こういう詮索とか自分がされるのは嫌なくせに、ごめん」

 互いに謝れば、真央兄が両方の頭を撫でてくる。


「これで仲直りだね。全く世話が焼ける」

 そう言って笑う真央兄は、俺の知ってるいつもの優しくて頼りになる真央兄で。

「真央兄は、やっぱり俺の味方だな。大好きだ」

 心からそう口にして尊敬の視線を送れば、ありがとうと少し複雑そうな顔で真央兄は呟いた。

今回で王子編終了です!ありがとうございました。

次回は最後のキャラ不良編となります。

できれば4月にはやりたいなと考えてます。

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