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14.魔王様の憂鬱【真央視点・中編】

「はい、はる。たこ焼きできたよ」

真央まおにぃ、悪いな。勉強まで見てもらってるのに、お昼まで作ってもらって」

 皿にたこ焼きを盛って手渡せば、はるが受け取って申し訳なさそうな顔になる。


「気にしないで。前々からこうやってたこ焼き作ってみたかったから、プレート持ってきたんだし。あとこれ、僕の家ではたぶんもう使わないから、はるが貰ってくれないかな?」

「いいのか?」

 俺様の提案に、はるが目を輝かせる。

 先ほどから俺様が買ってきたこ焼きプレートをいいなぁという目で見てたのは、気づいていた。


「もちろん。家の倉庫で埃を被るより、この子もはるに使ってもらえたほうが嬉しいと思うから。他にも色んな種類のプレートがあるんだよ?」

 そもそも最初からはるにプレゼントするために買ってきたものだ。

 本来ははるをデパートの便利調理グッツフェアーに連れて行こうと思っていたのだけれど。

 勉強会があったのでそれは諦めて、はるが好きそうなのを選んでプレゼントすることにしたのだ。


「ユメちゃんの分も焼いたから、部屋に持っていくね」

 ユメのために特別に作ったたこ焼きを持って立ち上がる。

「ごめんな真央兄。あいつ、本当真央兄がきたとたん部屋に引きこもっちゃって」

「いいんだよ。それより、はるは部屋の片付けの続きをやるといいよ」

 少し怒った口調のはるをなだめながら、隣にあるユメの家へと向かった。


 食い意地の張ったユメが引きこもっているのは、これから俺様に嫌がらせされるのがわかっているからだろう。

 足音を立てず気配を消して、ユメの部屋のドアの鍵をピンを使って開ける。

 これくらいは何でもできる俺様にとって、造作もないことだった。


「ひぃっ!」

 ドアを開ければ、大きなリュックを背負って、ユメが丁度窓から逃げようとしてるところだった。

 登山用くらい大きなバックを背負っていて。

 それが相当重いらしく、よろめいていた。

 一体この馬鹿はどこに行くつもりなんだろうな?

 もちろん逃がす気はないので、バックを掴みそこに正座させた。


「おい下僕。なんで御堂怜司が接触してきたのに、連絡を怠った」

「いや忘れてたわけじゃないんですよ! ただ魔お……真央兄に電話しよっかなと思うと、とたんに掃除したくなったり、急に用事思い出したりして、後回しになってただけで。今から電話しようかなって思っていたところです!」

 問いただすと、ユメは床に頭をつけて土下座する。

 プライドとかないのかと思うくらいの低姿勢。

 ユメは俺様に電話するのが嫌で仕方なかったらしい。

 本当いい度胸だ。


「まぁいい。これから俺様とゲームをして、勝てたら今回の件はお咎めなしにしてやるよ」

「本当ですか!?」

 俺様の提案にユメは食いついてきた。

 目の前にさっき焼いたたこ焼きを置いてやる。


「ゲームは一人ロシアンルーレット。新薬の開発中に、人体に無害だが物凄く苦い物体ができあがってな。それをパーティの罰ゲームグッツとして売り出す計画をしてるんだが、分量を変えてこの中に入れてある。それ以外を選んで食べることができたらユメの勝ちだ」

 にっこりと微笑みかけて、つまようじを手渡す。


「ちなみに当たりを見つけるまで食べ続けてもらう。当たりは二個だけで、最後までわからなかったら罰ゲームだ」

「ハズレの方が多くないですか!」

 ユメが涙目になる。

 けどこのゲーム、実は当たりを見つけるのは簡単だ。


 ユメの目の前には十個のたこ焼き。

 ハズレの八個は見た目普通のたこ焼きで、おいしそうにみえるやつ。

 当たりは唐辛子をふんだんに入れた見た目真っ赤なたこ焼きと、わさびをこれでもかと練りこんだ緑のたこ焼きの二つだ。


 俺様の性格を考えれば当たりがどれかわかりそうだが、当たりイコール普通のたこ焼きと思い込んでいるユメは、はずれのヤツにどんどん手をつけていく。

 しかし食べるたびにリアクションが面白いな。

 誰にだって一つは良い点があるというが、ユメのたった一つの良い点はこのリアクションの面白さと顔芸の豊かさだと思う。


「ちょっと待ってください魔王様! 当たりなんてひとつもないじゃないですか!」

 八個ハズレを食べ終わった時点で、ユメが抗議してくる。

「薬入りじゃないヤツが当たりだ。そこにあるだろ、赤いのと緑のやつ。それが当たりだ」

「どっちもハズレのようなものじゃないですか! 魔王様のドS! 鬼悪魔!」

 全部食べ終わってから言うあたり、芸人の鏡みたいなやつだ。その前に気づけばいいのに。

 本当ユメは、こういう期待を裏切らない。


 予想通りの反応をしてくるユメに、罰ゲームとして当たり二つを食べさせる。

 一通りユメで遊び終えたところで、はるの元へ戻った。

 もちろん逃亡できないようユメも一緒にだ。

 しかし、御堂を迎えに行った一瞬の隙に、ユメは庭に面したリビングの窓から脱走していた。


『探さないで下さい。皆の勉強が終わった頃に帰ります。夕飯はちゃんと残して置いてください。ユメ』

 そんな書置きが残されていた。

 それと同時に、リビングの隅にあった俺様の荷物が荒されているのに気づく。

 はるを驚かせようと思って、有名店のあんぱんを購入してきたのだけれど。

 ……それが、ごっそりなかった。


 代わりに中にはノートの切れ端と、雑に破られたビニール袋。

『外から犬が入ってきて、あんぱんを食べていきました。ユメは抵抗したのですが、無理でした。ごめんなさい』

 あんぱんが個別に入っていた透明なビニールは、まるで犬に食いちぎられたかのように偽造工作されている。


 これで嘘がばれないとでも思ってるんだろうか。

 馬鹿にしてるのか、それとも本気でやってるのか。

 どちらにしろユメが馬鹿なのには変わりない。

 毎回俺様にお仕置きされてるのに、ユメはこういう事をさらりとやってくる。

 本当学習能力がないというか、懲りないというか。


「慌てて出て行ったみたいだし、心配だなぁ。道に迷って帰ってこられない……なんて事にならないといいけど」

 ユメを気遣うような顔をしてそんな事をいいながら、廊下へと移動する。

 俺様からはるへのプレゼントを食べつくすなんて、行儀の悪い駄犬だ。

 とっ捕まえて、俺様の家で朝まで特別調教コース行きだな。


 そう思って電話したが、ユメは取らなかった。

 確認すればユメの部屋に携帯電話は置きっぱなしだ。

 GPSを使って簡単に捕まえようと思ったのに、これじゃ人で探すしかない。

 従順な犬である鈴木にユメを探すよう指示して、それからはると御堂のいるリビングに戻った。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 御堂との勉強会は問題なく進んだが、ユメの捜索が思いのほか難航していた。

「まだユメは見つからないの? 前みたいにマンホールの中とか、ビルとビルの隙間に挟まってるかもしれないよ?」

「すいません。車の下までちゃんと見たのですが……見つかったら連絡します」

 一度ユメを見つけたけれど、鈴木たちは見失ってしまったようだった。


 しかたないので、はるには俺様の家でユメを保護したと嘘をつく。

 そうしないとはるは、ユメが心配でいてもたってもいられなくなるだろう事は予想がついたからだ。

 

 その日の深夜、ユメが隣の県で見つかったと報告があった。

 あの馬鹿はなんでそんなところにいるんだ。

 折角はるの家でお泊りして、幸せなひと時をすごしていたのに。

 呆れながらもはるを起こさないようにして家を抜け出し、迎えに行く。


 ユメは肥溜めに落ちたらしく酷い姿をしていた。

 どうやら俺様の『犬』たちから逃げようとして、隣の県へ行くバスの直行便に隠れて乗り込み、それで見つかって途中で降ろされてしまったらしい。 

 たどり着いた先はド田舎。

 お腹が空いたので近くにあった畑の野菜を取ろうとして、肥溜めにはまってしまったとのことだった。


 なんでそう毎回無計画かつ、残念なんだ。

 俺様が手を下さなくても、勝手にドツボにはまっている。 

 親切な農家の人に助けられ、泣きながらもしっかり振舞われた郷土料理をおかわりしていた。


「魔王様ぁ……」

 相当心細かったのか、俺様を見つけてほっとしたようにユメの瞳が潤む。

 全くしかたのない駄犬だ。

 脱力してしまい、見つけたらお仕置きだと思っていた気持ちすら消えうせる。


 昔から俺様が何かしてもしなくても、ユメは大体こんな感じだ。

 勝手にトラブルに巻き込まれるというか、自分でトラブルを作り出して、こっちを予想外に手間取らせる。

 

 埋蔵金の番組を見て、お宝探しをすれば人骨を掘り出し。

 銀行に行けば、高確率で銀行強盗が入ってきて人質にされる。

 落し物を拾えば、それがとんでもないものだったりして、面倒事に巻き込まれる。

 その度にはるが迷惑を被り、俺様が裏で色々動くのが幼い頃からのパターンになっていた。


「魔王様、逃げてごめんなさい。それと、あんぱんユメが全部一人で食べました」

 しゅんとした様子でユメが謝ってきて、俺様の上着の裾を掴んでくる。

 まぁこうやって謝ったところで、またこいつは懲りずにやらかすんだろうが、本気で反省しているように見えた。


「……帰るぞ」

 本当に面倒くさい。

 どうしてはるはこんなのがいいのか。

 そう思うのに、結局こいつがはるの側にいるのを許してしまうのは……どうしてなんだろうな。


 唯一俺様の上辺に騙されない、変な生き物。

 俺様を怖がるくせに、酷い仕打ちをされても、次の瞬間にはケロリとしてまた懲りずに罠に引っかかる駄犬。

 予測できない行動ばかりだし、理解もできない。

 

 普段あんなに俺様を嫌がるくせに、肩に頭を乗せてきて、ぐーすかイビキを立てている。

 警戒心があるのかないのかよくわからない。

 女としての魅力ゼロの寝顔は、子供のようで涎が垂れかかっていて。

 この俺様の肩を借りて寝るなんて、普通出来ないことを平気でやってのける。


 振り払うのは簡単だったが、そんな気になれず溜息を付く。

 ――俺様は案外、ユメを気に入ってるのかもしれないな。

 ユメがいると、良くも悪くも俺様の退屈な日々がぶち壊される。


 俺様を振り回すことができるのは、はるとこの馬鹿くらいのものだ。

 それがどんなに特別かなんて、この馬鹿は気づいてすらいないんだろう。

 帰りの車の中で、眠るユメを見ながらそんな事を思った。

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