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二度目のゼロ  作者: なの子
第二章 「再会する」
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二、友人に会う

【前回までのあらすじ】

 魔法学校の教師である魔法使い:獅子路陽介(ししろ・ようすけ)は、宇宙人と闘って死亡した。別人の姿(赤毛の少年)でよみがえった原因を探るため、自分が暮らしていた町に戻ってきた。兄に正体を明かすも信じてもらえなかった。とぼとぼ歩いていると、目の前に友人が現れた。


※この世界における「魔法」とは、体内エネルギーである「シン」をコントロールすることです。

「今朝はどうも。こんな時間に一人で出歩くと危ないよ」

 そう言う古代の服装は朝と同じだった。しわだらけのワイシャツに、干からびた魚のようなネクタイ。上着もズボンもごわごわで、目も当てられない状態だ。黒髪には寝ぐせが残っている。切り落としたくなるから、あまり見ないようにしよう。メガネも超ダサイ。なんてひどい格好だ。俺だったら自宅近所のコンビニにだって恥ずかしくて行けないぞ。三十歳という若さのわりには外見がくたびれているこの男が、シンで武器を錬成する専門家だとは誰も思わないだろう。まったく人は見た目によらない。


「君はうちの学校の生徒じゃないんだな」

 俺は相手から視線を外し、曖昧な反応をした。確かに生徒ではない。

 そうだよなあ、と古代。

「こんな目立つ子に気づかないわけがない。年は十三、四歳くらい? 飛び級で入学したってことになるもんな。それにその髪! 君が一キロ先の人ごみに紛れていても見つけ出す自信があるよ。で、俺のオフィスに何の用だったんだ?」

「それは、うーん……」そう言えば、どうしてこいつのオフィスなんかに行ったんだ。魔法が復活した嬉しさで頭のねじが外れていたかもしれない。もしくは、理由をあとづけさせてもらうと、深層心理がそう望んだから。自分が真にあるべきところは魔法学校なのだと。でも自分のオフィスは片づけられているはずだ。人目につきにくく、かつ馴染み深い場所としてあそこが選ばれた、とか?


「じゃああの魔法は? どこで覚えたんだ?」古代が言っているのは『空間移動』のことだろう。「あれはすご~く難しいんだ。学校の先生が何年もかけて勉強して、やっと身につけるレベルの。俺が知っている限り習得しているのは一人だけだ。獅子路陽介。本来はああいう人が使うものなんだよ。君はどうやった? 誰かに教えてもらったのか? まさか独学だなんて言わないよな」

 そうそう、俺はこういう話をしたかったんだ。頑固な兄とは違って古代はものごとを柔軟にとらえる男だ。魔法による俺自身の証明が期待できそうだ。


「君のシンは獅子路とよく似てる。と言うか……」

 『そのもの』だと古代の顔は言いたがっていた。でも彼にしてみれば、それはあり得ない。獅子路陽介はもう死んでいるのだから。俺はにやっとした。


 古代も口の端を上げて笑った。「俺が突然目の前に現れても驚かない。こうなると予測していたのか? 俺が君のシンを感じ取り、会いにくるって? ますます不思議な子だなあ。一体どこから来たんだ。今までどこにいたんだ」

「ひと月前までは魔法学校にいた」と俺。「お前のとなりの部屋だよ。俺はデスクが片づいていないと仕事に集中できないたちで、お前はぐちゃぐちゃでも気にならないタイプ。俺たち、よく周りに比べられたよな。古代と獅子路を足して二で割ったくらいがちょうどいいってさ」

 話が進むにつれて古代の目元はけわしくなっていった。俺の真意をはかりかねているようだ。しかし相変わらず笑っているので、複雑な表情に見える。


「自分でもさっぱり事情がつかめていないんだ。宇宙人にとどめをさしたのは覚えてる。その次に目が覚めたらこんなことになってた。しばらくは親切な人のところで世話になっていたけど、やっと体調が良くなったんでここに帰ってきたってわけ。なあ、マジで謎が多すぎる。一人じゃ無理なんだ。古代、手を貸してくれ」

 沈黙。夜道にはほかに人の気配はない。とても静かだ。建物の窓は真っ暗。街灯の白い光が控えめにあたりを照らしているだけ。ここには俺たちしかいなかった。


「って言うか」俺は右手にシンを集中すると、剣の形に実体化させた。「お前なら、こっちの方が手っ取り早いな」

 古代は露骨に嫌そうな顔をした。

「今日の俺が何時間労働したと思ってるんだ。そんな元気ないよ」

「ちょうどいいじゃねえか」

 古代の専門分野で勝てるとはそもそも思っていない。構わず俺は飛びかかった。


 古代の反応は速かった。脇に抱えていたカバンを路上に投げ、またたくまに体勢を整えた。視界のすみで、古代のシンが光を帯び変形していく。

 何を錬成した? 剣か? 銃か?


 俺の得物は片刃の剣だ。右手で持ち、左下から振り上げる。きぃん、と刃物が当たる音。古代が両手で握るのは長剣だ。俺は峰にそえた左手に力を込め、前に踏み込んだ。しかし相手は動じない。力の差があり簡単に押し返されてしまった。古代が振り下ろした剣の先を、俺は後ろに下がって避けた。続けて古代からの攻撃。俺の顔の高さで一、二回と斬りかかる。俺は『跳躍』魔法で左右に飛んでこれをかわした。その最中、右手にある武器の形態を少し変える。大人だった頃の調子で錬成したせいで今の自分には大きすぎ、扱いづらかったからだ。

 着地する寸前、古代が猛然と攻めてきた。俺は峰で受け、弾き返す。そして前転をしつつ再び飛び上がり、相手から離れた位置に降りた。


 古代は攻撃の手を止めている。しかし両手で剣の柄を握り、構えの姿勢を崩してはいない。五メートルほどの距離を保って俺たちは向かい合った。相手は少し肩で息をしているか? 俺は全っ然平気だ! 何となく体も軽い。これが若さか。こんな姿でお先真っ暗だと落ち込んでいたが、とうとうメリットを発見した。なんだか嬉しくなってきた。古代も笑っている。


 俺は歩き出した。ゆっくりと、そして徐々に速度を上げて。古代は腰を落として待ち構える。俺は剣を大きく振り上げ、勢いよく落とした。もちろん見切られている。両者の刃が衝突して甲高い音が響いた。白い火花が散った。押し合いではやはり俺が腕力で劣っている。押されるが、下半身で踏ん張ってこれに耐えた。不利だ。俺は魔法で筋力を補い、どうにか持ちこたえる。さらに数秒が経過。


 古代がにやりとした。嫌な予感。目の前にある古代の刃から、鋭い針のようなものが飛び出してきた。

「うわっ」

 びっくりして俺はしりもちをついた。もう少しで目がつぶれるところだ。押し合いの最中に古代が自分の武器を変形させたのだ。俺がやったみたいに自身の体格に合わせた調整なら分かる。しかしこれはなんだかずるい。基本の形に特殊な装備を加えることを、俺たちは『オプションをつける』と呼んでいる。

「そのオプションは卑怯だ! 正々堂々と勝負しろ!」

「なにが卑怯だ。ちょこちょこ魔法でフォローしていたお前が言うな」

 古代が手にしていた剣の造形が不明瞭になり、あとかたもなく消滅した。シンを再び自分の中におさめたのだ。俺も武器を仕舞った。


 古代が手を差し出してきた。俺はそれを握り、彼の腕力を借りて立ち上がった。

「あーあ」と嘆きながら、古代がカバンをひろいに行った。先ほど路上にぶん投げたやつだ。かわいそうに、革製のそれにはちょこっとだけ傷がついている。手で念入りに砂を払い落としてから、改めて古代は俺を見た。

「本当に?」

 俺は肩をすくめた。これ以上の説明はいらないようだ。

(2014/5/10)

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