表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

違う道

作者: 春雨 轍

わかりにくいかもしれませんが、読んでみてください。

短いし。

無駄に時間が過ぎているとしか思えなかった。漠然とした情熱を失った僕は、以前のように何かに夢中になることもなく、ただいたずらに悶々の日々を過ごしていた、というよりむしろやり過ごしていた。読まれなくなった本にホコリが付着し始めるがごとく、いっそ時が止まってしまってうす汚れることがなくなったらどんなによかったろう。周りの環境も人もなにもかもが僕に同調し、成長し、進むことをやめたようにも見えた。なにか変えなくては、と不安に思っていたのも、もう昔の話だったのかもしれない。

まだ浅い秋の長雨が続いたある日、僕はいつもよりも遅い時間に電車の中にいた。電車のなかはガラガラで、僕の座ってる席の前にも誰もいなかった。車中では無理やり眠るのが常だったが、たまたま向かい側の窓が目に入ってきた。向かい側の窓には僕が座っている後ろの景色がぼんやり映っている。さまざまな色の光の点、マンションの規則正しく並んだ光の粒なんかががなにか急いで走っているように感じられたのだ。その躍動感のある映像の前には蝉の抜け殻のような僕がいた。そのときそのなんでもない映像が僕に、胸がつかえるような、鳥肌が立つような、実に奇妙な感覚を僕に与えたのだ。

電車を降りて、自宅の最寄駅から帰る途中ふといつもと違う道を通ってみたくなった。これも車中でのあの変な気持ちのせいなのだろうか。そうして歩きはじめて数十メートルもいかないうちに、僕の知らない新しいマンションがいつの間にか建っていたことに気がつく。モダンな雰囲気の、コンクリートが露骨に見えるマンションだった。自分はこんなものが建設されていたことに気がつかなかったのか。あんなすぐ近くの道を通っていたというのに。驚きがさめないうちに僕はおもむろに携帯電話をとりだすと、そのマンションを写真に収めた。そして明日からはこのいつもと違う道を通る決心をし、家へ急いだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 表現がとてもお綺麗ですね。電車の車内の情景がとても雰囲気が出ていてよかったです。 しかしなんだか決定打に欠けるなというか、なにが主人公を動かしたかがあまり明確に見えない気がしました。起承転結…
2006/09/23 13:47 退会済み
管理
[一言] これ、すごくいいです。特にでだしから7ぎょうめまでの表現がすごくいいです。がんばってください、期待してます
[一言] 情熱を取り戻す訳でもなく、平坦な毎日の中のちょっとした気分転換。面白いですが若い人には少しつまらない気もします。 雰囲気は良いと思うのですが、私的には物足りないと感じました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ