違う道
わかりにくいかもしれませんが、読んでみてください。
短いし。
無駄に時間が過ぎているとしか思えなかった。漠然とした情熱を失った僕は、以前のように何かに夢中になることもなく、ただいたずらに悶々の日々を過ごしていた、というよりむしろやり過ごしていた。読まれなくなった本にホコリが付着し始めるがごとく、いっそ時が止まってしまってうす汚れることがなくなったらどんなによかったろう。周りの環境も人もなにもかもが僕に同調し、成長し、進むことをやめたようにも見えた。なにか変えなくては、と不安に思っていたのも、もう昔の話だったのかもしれない。
まだ浅い秋の長雨が続いたある日、僕はいつもよりも遅い時間に電車の中にいた。電車のなかはガラガラで、僕の座ってる席の前にも誰もいなかった。車中では無理やり眠るのが常だったが、たまたま向かい側の窓が目に入ってきた。向かい側の窓には僕が座っている後ろの景色がぼんやり映っている。さまざまな色の光の点、マンションの規則正しく並んだ光の粒なんかががなにか急いで走っているように感じられたのだ。その躍動感のある映像の前には蝉の抜け殻のような僕がいた。そのときそのなんでもない映像が僕に、胸がつかえるような、鳥肌が立つような、実に奇妙な感覚を僕に与えたのだ。
電車を降りて、自宅の最寄駅から帰る途中ふといつもと違う道を通ってみたくなった。これも車中でのあの変な気持ちのせいなのだろうか。そうして歩きはじめて数十メートルもいかないうちに、僕の知らない新しいマンションがいつの間にか建っていたことに気がつく。モダンな雰囲気の、コンクリートが露骨に見えるマンションだった。自分はこんなものが建設されていたことに気がつかなかったのか。あんなすぐ近くの道を通っていたというのに。驚きがさめないうちに僕はおもむろに携帯電話をとりだすと、そのマンションを写真に収めた。そして明日からはこのいつもと違う道を通る決心をし、家へ急いだ。