夢見るオレンジジュース
隣の席の永嶺結花に恋をした。
それまでの私は恋なんて知らなかったんだ、とか思った。
「……けーこちゃん、聞いてくれたまえ。ユイカちゃん可愛いね!」
「わかるー、って何度も聞いたわソレ。飽きた」
「薄情だなけーこちゃん。分かってよ、今朝も夢に見たんだよ」
学校帰りのファミレス。親友のけーこちゃんに相談する。相談料はチョコアイス。因みに私はオレンジジュースを注文した。
しかしちゃんと聴いてくれてる気がしない。適当にあしらわれてるだけのような。まあいいんだ、唯一の理解者だから。
「夢って、いかがわしい内容なら友達やめるよ?」
「な、わけないよお。ユイカちゃんがむぎゅってしてくれた夢だよ、超健全」
「……はい、倉本さんお疲れ。アイスありがとうさようなら」
「見捨てないでくださいっ! 切実に!」
席を立ちかけたけーこちゃんの腕を掴んで引き止める。苗字呼びとな。なんと言う役者。ヘコむから止めて。
止めた甲斐あって、けーこちゃんは大人しく席についてくれた。
「ミヤってあれだね、ストーカー」
「そんな、家まで張ったこととかないよ! 追っかけで同じ部活には入ったけど」
「ほらね。で、永嶺さんってクラスと部活とで違う?」
「んと、結構一緒。大人しそうな顔して毒舌。豪快。可愛い」
「あー……目立たない気がするけど、ってかよく見てるな」
分かりきったことを言ったあと、けーこちゃんは独り言のようにそうかストーカーだっけ、と納得してた。違うの、そこまで盲目じゃないもん。
「ミヤは、クラスじゃ暗いよ。ゆーとーせーって感じ。地を出せばいいんじゃない?」
「やだぁ、嫌われるかもじゃん」
私は、あまりいい性格をしていない。超絶適当人間でいろんなことを怠りまくり。流石に勉強はしっかりしてるから成績は上位をキープできてるけどね。それに付加して人見知り。皆に偽って生きてるの。適当人間だってバレて、嫌われないためにさ。
「じゃ、ゆうけど。それでは好かれないよ。記憶の片隅に残るだけ」
けーこちゃんの意見に言葉を失う。分かってるよ。尤もな意見なの分かってるよ。
だからって訳じゃないけど、こうやって彼女に恋い焦がれてるだけ。こっそり、本人にはバレないように。それでいいの。
「片想いくらい好きにさせてよ。こんなに夢中になったの初めてなんだから。席が隣なだけで、こんな感情抱かない、し」
語ってるのに夢中で、気付かなかった。いる、ユイカちゃんがけーこちゃんの後ろからこっちに近付いてる。
し、し……私服姿ああああっ! 部活で遊びに行ったとき、彼女はブランドジャージだったけど。勿論それも凄く素敵だったけど。今日のはあれだ、パーカーにスウェットパンツだ! ネイビーにグレーだ、可愛い。
私が硬直していると、けーこちゃんも変に思ったのか後ろを振り返った。ユイカちゃんに気付いたけーこちゃんが、彼女に手を上げて挨拶した。羨ましい。
ユイカちゃんも笑顔で手を上げて近寄ってくる。ああもう可愛いなあ!
「麻井さんと倉本さん、学校帰り?」
「そーだよん。永嶺さんは普通に食事?」
「うん、まあそんなとこー。じゃ、またねー」
「おー、バイバーイ」
緊張で何も話せませんでした、まる。なるべく笑顔で手は振ったけど。けーこちゃん羨ましい。普通に話せて羨ましい。
「だからあんたさー、せめて声を出そうよ」
「む、り。可愛い、すき。だいすき。息苦しい」
いつも一緒にいる篠田さんが居なかったから、よく見る彼女の毒舌っぷりは見れなかった。残念。
でもいいの。むぎゅってしてくれる夢みたし、声も聞けた。簡単な子だと思われていいんだよ、ユイカちゃんが笑顔なら。
緊張で凄く喉が渇いた。自分の注文したオレンジジュースのストローをくわえる。そのまま3分の1位飲み干した。
「あ、ミヤちょっと見てみ」
「ん?」
けーこちゃんの言った方向に目を向ける。そのテーブルにはユイカちゃんがいた。結構近いのか。学校みたいに隣ってわけじゃないけど。
「ちゃんと見た? 永嶺さん、ミヤとおんなじオレンジジュース飲んでる」
「あ……本当だ」
偶然なんだろうな。でも、私の中ではオレンジジュースのその味が、ユイカちゃんと私を結ぶ共通点。私が見ていた一方的な夢とは違って、同じ何かを感じてる。
夢よりも、教室よりも近い距離。
だけど遠い、もっともっと近付きたい。
「……けーこちゃん、ありがとう。私、勇気だして話しかけてみる」
けーこちゃんはびっくりしてた、でも笑って「頑張れ」って言ってくれた。
明日の学校で、ちょっとでも彼女に私が残りますように。
勇気をくれたのは、親友と、そして夢見るオレンジジュース。
この度は「夢見るオレンジジュース」をお読みくださりありがとうございます。思うがままに執筆しましたので、所々至らぬ点はございますがご了承下さい。