ある聖女の証言
「王よ」
「発言をお許しください」
「日本からやって来た彼の者は」
「勇者と呼ぶには、あまりにも危うき存在でした」
「ですので、魔王討伐直後」
「わたくし、聖女と」
「魔法使い、戦士の三名の独断で」
「王命に背き」
「彼の者が日本へ還ることを、引き留めませんでした」
「彼は、殺戮への忌避があまりにも薄く、魔物を斬ることに喜びすら覚えているようでした」
「ええ、魔王討伐までならそれで問題ありません」
「しかし、魔王が消えた今、その刃を人々に向ける危険性がありました」
「魔王を討伐した勇者をまつりあげ」
「各国への抑止力にするおつもりだったのでしょう」
「しかし、彼はこの国さえ滅ぼす恐れがありました」
「魔法使いも、戦士も、同じ判断です」
「彼の者を、この世界に留めるべきではないと」
「では」
「こちらをご覧ください」
「…………」
「王の御前です、お静かに願います」
「……この肩の傷は彼によってつけられました」
「彼はわたくしを囮にし」
「わたくしごと魔物を斬りました」
「この傷は聖女であっても癒すことができないのです」
「もう一度、勇者召喚の儀を行えば」
「彼を呼び戻すことはできましょう」
「しかし、彼はこの世界にとって脅威となり得ます」
「王よ、どうか賢明なご判断を」
「…………」
「聞き入れてくださり感謝します」
「……まだ異論がある方もいらっしゃるようですね」
「勇者という戦力を失うことへの危惧ですね?」
「しかし、伝承によると、今後千年、魔王が誕生する可能性は低い」
「そして、勇者とて後数十年もすれば、今の力を保てません」
「力による圧力は、得策とは言えないのではありませんか?」
「わたくしどもが魔王を討伐したことは変わりません」
「その成果をもって、友好的に外交を進めていくのはいかがでしょうか?」
「また、勇者召喚に用いた宝具は、封印、あるいは破棄すべきかと存じます」
「魔王討伐の旅の途中で、古い文献を見つけました」
「魔法使いの解読では」
「そこには、異界より招かれた勇者が、いくつもの国を滅ぼしたと記されておりました」
「ですので、彼の者を再び呼び戻すことも」
「同じような存在を呼び寄せることも」
「この国にとって、あまりに危険です」
「魔王を討伐し、なおかつ危険な勇者を手放した国として」
「その判断を各国に示すことも、外交上の利となりましょう」
「……まだ」
「信用できないと仰るならば」
「誓約魔法を使っても構いません」
「……皆様、ご存知のようですね?」
「この魔法を使えば」
「嘘を吐いた瞬間に」
「全身を焼かれるような痛みに襲われ」
「やがて命を落とす」
「今からわたくしは命をかけて真実を述べます」
「この国の未来のために」
「――至高なる光の主よ」
「我が命の灯火を、あなたに委ねます」
「今より語るは、あなたの御名に恥じぬ純然たる真実のみ」
「我が言葉に一片の虚飾も交えぬことを誓う」
「『聖誓』」
「……それでは」
「わたくしの証言を、お聞きください」
「勇者は」
「悪です」
「この国を滅ぼす危険な存在です」
「…………」
「これで証明されましたでしょう」
「後のご判断は、国王陛下に委ねます」
「わたくしどもは、これにて失礼いたします」
「まだやり残したことがあるのです」
「発見した文献では」
「魔王消滅後も瘴気が残るとのこと」
「わたくしと戦士、魔法使いの三名は」
「直ちに魔王城へと向かいます」
「国王陛下に、光のご加護がありますように」
「皆様、失礼いたします」
「…………」
「…………」
「……っぁ!」
「……ありがとう、二人とも」
「……せめて王宮を出るまでは」
「…………」
「……はぁ」
「…………」
「……はぁ」
「…………」
「……ここなら」
「……じゃあ」
「あとはよろしくね」
「……泣かないでよ」
「…………」
「勇者」
「ごめんなさい」
「あなたの偉業を」
「穢しました」
「それ、でも……」
「私は……」
そこで言葉は途切れた。
聖女は、戦士と魔法使いと共に魔王城へ向かった。
そういうことになった。
数ヶ月後、聖女の死が国中に広まった。
魔王の残した瘴気を祓うため、命を落としたのだと。
これ以降、勇者がこの世界に呼ばれることはなかった。
勇者は危険な存在である。
その認識は、各国の共通認識となった。
けれど、民の間では、一つのおとぎ話が語られる。
語ったのは、二人組の旅人だった。
一人は大きな剣を背負い、もう一人は古びた杖を手にしていた。
それは、泣き虫で、優しくて、それでも最後まで剣を握った勇敢な、勇者と呼ばれた少年の話。
そして、気高く、仲間思いで、誰よりも美しい、聖女と呼ばれた少女の話。




