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ある者の語り

ある聖女の証言

作者: ヒイラギ
掲載日:2026/07/06

「王よ」

「発言をお許しください」

「日本からやって来た彼の者は」

「勇者と呼ぶには、あまりにも危うき存在でした」

「ですので、魔王討伐直後」

「わたくし、聖女と」

「魔法使い、戦士の三名の独断で」

「王命に背き」

「彼の者が日本へ還ることを、引き留めませんでした」

「彼は、殺戮への忌避があまりにも薄く、魔物を斬ることに喜びすら覚えているようでした」

「ええ、魔王討伐までならそれで問題ありません」

「しかし、魔王が消えた今、その刃を人々に向ける危険性がありました」

「魔王を討伐した勇者をまつりあげ」

「各国への抑止力にするおつもりだったのでしょう」

「しかし、彼はこの国さえ滅ぼす恐れがありました」

「魔法使いも、戦士も、同じ判断です」

「彼の者を、この世界に留めるべきではないと」

「では」

「こちらをご覧ください」

「…………」

「王の御前です、お静かに願います」

「……この肩の傷は彼によってつけられました」

「彼はわたくしを囮にし」

「わたくしごと魔物を斬りました」

「この傷は聖女であっても癒すことができないのです」

「もう一度、勇者召喚の儀を行えば」

「彼を呼び戻すことはできましょう」

「しかし、彼はこの世界にとって脅威となり得ます」

「王よ、どうか賢明なご判断を」

「…………」

「聞き入れてくださり感謝します」

「……まだ異論がある方もいらっしゃるようですね」

「勇者という戦力を失うことへの危惧ですね?」

「しかし、伝承によると、今後千年、魔王が誕生する可能性は低い」

「そして、勇者とて後数十年もすれば、今の力を保てません」

「力による圧力は、得策とは言えないのではありませんか?」

「わたくしどもが魔王を討伐したことは変わりません」

「その成果をもって、友好的に外交を進めていくのはいかがでしょうか?」

「また、勇者召喚に用いた宝具は、封印、あるいは破棄すべきかと存じます」

「魔王討伐の旅の途中で、古い文献を見つけました」

「魔法使いの解読では」

「そこには、異界より招かれた勇者が、いくつもの国を滅ぼしたと記されておりました」

「ですので、彼の者を再び呼び戻すことも」

「同じような存在を呼び寄せることも」

「この国にとって、あまりに危険です」

「魔王を討伐し、なおかつ危険な勇者を手放した国として」

「その判断を各国に示すことも、外交上の利となりましょう」

「……まだ」

「信用できないと仰るならば」

「誓約魔法を使っても構いません」

「……皆様、ご存知のようですね?」

「この魔法を使えば」

「嘘を吐いた瞬間に」

「全身を焼かれるような痛みに襲われ」

「やがて命を落とす」

「今からわたくしは命をかけて真実を述べます」

「この国の未来のために」

「――至高なる光の主よ」

「我が命の灯火を、あなたに委ねます」

「今より語るは、あなたの御名に恥じぬ純然たる真実のみ」

「我が言葉に一片の虚飾も交えぬことを誓う」

「『聖誓』」

「……それでは」

「わたくしの証言を、お聞きください」

「勇者は」

「悪です」

「この国を滅ぼす危険な存在です」

「…………」

「これで証明されましたでしょう」

「後のご判断は、国王陛下に委ねます」

「わたくしどもは、これにて失礼いたします」

「まだやり残したことがあるのです」

「発見した文献では」

「魔王消滅後も瘴気が残るとのこと」

「わたくしと戦士、魔法使いの三名は」

「直ちに魔王城へと向かいます」

「国王陛下に、光のご加護がありますように」

「皆様、失礼いたします」

「…………」

「…………」

「……っぁ!」

「……ありがとう、二人とも」

「……せめて王宮を出るまでは」

「…………」

「……はぁ」

「…………」

「……はぁ」

「…………」

「……ここなら」

「……じゃあ」

「あとはよろしくね」

「……泣かないでよ」

「…………」

「勇者」

「ごめんなさい」

「あなたの偉業を」

「穢しました」

「それ、でも……」

「私は……」


そこで言葉は途切れた。

聖女は、戦士と魔法使いと共に魔王城へ向かった。

そういうことになった。

数ヶ月後、聖女の死が国中に広まった。

魔王の残した瘴気を祓うため、命を落としたのだと。

これ以降、勇者がこの世界に呼ばれることはなかった。

勇者は危険な存在である。

その認識は、各国の共通認識となった。

けれど、民の間では、一つのおとぎ話が語られる。

語ったのは、二人組の旅人だった。

一人は大きな剣を背負い、もう一人は古びた杖を手にしていた。

それは、泣き虫で、優しくて、それでも最後まで剣を握った勇敢な、勇者と呼ばれた少年の話。

そして、気高く、仲間思いで、誰よりも美しい、聖女と呼ばれた少女の話。

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