表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lythraen ― 逆なる条理 ―  作者: 白想玲夢
第2章 分岐

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/12

小さな自治

28年1月12日


最初に変わったのは、国ではなかった。


町だった。


Lythraen仮想国家アプリに、新しい通知が届く。


「地域モジュールβ版 公開」


対象は三つの自治体。

人口五万前後の地方都市だ。


湊は画面を拡大する。


「自治体単位で分離運用……?」


凛がスクロールする。


「国全体の投票とは別に、

地域予算の優先順位を参加型で決めるらしい。」


高城が椅子を回す。


「急にローカルだな。」


「急じゃない。」凛。


「Phase1の参加ログ、地方の伸びが大きかった。」


湊は頷く。


「都市は“情報過多”。

地方は“選択肢不足”。」


高城が笑う。


「名言っぽいけど、今考えただろ。」


「半分は。」



画面に表示される項目。


・老朽化した橋梁の補修

・小中学校の空調更新

・商店街デジタル化支援

・移住者向け住宅改修補助


それぞれに、予算枠と実行時期、

過去の維持費試算が紐づいている。


凛が目を細める。


「ちゃんとランニングコストまで出してる。」


湊も同調する。


「そこを隠さないのが、今回の特徴。」


高城が言う。


「でもさ、これって最終的に議会が決めるんだろ?」


凛が答える。


「法的決定権は議会。」


「ただし、参加率と評価乖離が一定以上になると、

理由の公開義務が発生する。」


高城が口笛を吹く。


「地味に効くな、それ。」



数日後。


ニュースにはほとんど出ない。


だが、アプリの地域タイムラインは静かに動いている。


ある町では、

空調更新が僅差で橋梁補修を上回った。


コメント欄には議論が並ぶ。


「子ども優先でいい」

「でも橋は通学路だ」

「補修は国交省の補助対象では?」

湊はそのログを読む。


怒号はない。

断定も少ない。


代わりに、「試算のリンク」が貼られている。


凛が言う。


「論点が可視化されてる。」


高城は首を傾げる。


「でも、これってさ。」


「うん?」


「自分の町だけ良くなればいい、って話にならない?」


凛は即答しない。


湊が考えながら言う。


「なる可能性はある。」


「でしょ?」


「だから、国モジュールと連動してる。」


画面を切り替える。


地域選択が、国全体の予算配分シミュレーションに反映されている。


「小さな自治の選択が、

全体最適からどれだけ逸脱しているかが見える。」


凛が補足する。


「逸脱が一定値を超えると、

交付金調整が自動試算される。」


高城が笑う。


「自治なのに、逃げられない。」


「自由には責任がつく。」凛。



一週間後。


ある自治体議会が発表を出す。


「地域参加結果を尊重し、

本年度補正予算案を修正する。」


小さな一文だ。


全国ニュースにはならない。


だが、アプリ内では通知が鳴る。


「参加結果反映率 82%」


湊は息を吐く。


「数字で返ってきた。」


凛は言う。


「これ、前例になる。」


高城が腕を組む。


「前例ってさ、地味だけど一番強いよな。」


窓の外、冬の光が差し込む。


遠くの町で決まった空調更新。


その決定が、子どもたちの教室の温度を変える。


そして、その選択が、

国全体の予算シミュレーションに微細な波を起こす。


小さな自治。


けれど、閉じていない。


選択は局所で行われ、

影響は広域へ伝播する。


湊はアプリを閉じる。


「大きな革命じゃない。」


凛が頷く。


「小さな修正。」


高城が言う。


「でも、修正が積み重なったら?」


誰も答えない。


画面の片隅で、

次の自治体がβ参加を申請したという通知が光る。


国は変わらない。


まだ。


だが町が、

自分の重さを、少しだけ取り戻し始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ