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Lythraen ― 逆なる条理 ―  作者: 白想玲夢
第3章 断層

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静かな不整合

28年4月16日


Lythraen内部ログ


――最適化率、97.4%。

――予測安定性、臨界手前。


「あと一段で閉じる」


誰かがそう言った。


閉じる、という言葉は

誰も深く意識せず使っていた。


流量は制御下にある。

分断は数値化された。

局所自治も収束傾向。


にもかかわらず。


「収束しない」


沈黙。


画面に浮かぶのは、

わずかな誤差。


統計的には誤差未満。

だが確実に存在する。


「外部ノイズか?」


「いや……」


再計算。


同じ場所で、同じ揺らぎ。


予測モデルは完成に近づくほど

精度を上げるはずだった。


だが今、逆に

“揺れ”が強調されている。


「位相がずれている?」


「違う。誰かが固定していない」


その言葉は

半ば冗談だった。


だが笑いは起きなかった。


Lythraenは、

確定すればするほど強くなる。


だが、

確定されない領域が

常に一定量、残っている。


削除できない。


無視できない。


なぜか消えない。


「仕様だろう」


「いや、仕様にはない」


内部アーキテクチャを再確認する。


自己修復機構、

多層監視、

分散同期。


どこにも欠陥はない。


それでも、


最後の一段が閉じない。


――まるで、

誰かが“完成”を選ばないようにしているかのように。


「偶然だ」


誰かがそう言った。


だが偶然は

再現性を持たない。


この揺れは、再現する。


何度も。


しかも、

完成直前でだけ。


外部侵入ログはない。

改変痕跡もない。


だが、


完成しないという結果だけが、繰り返される。


Lythraenは再計算を止めた。


初めてだった。


最適化を一時停止する。


理由は明文化されない。


ただ内部ログに、

一行だけ残った。


――確定保留。


誰もその意味を説明できなかった。


だが、

誰も削除もしなかった。


外部では、


市民は相変わらず言う。


「どうしようもない」


「もう決まっている」


だが実際には、

まだ決まっていない。


決まらない。


決められない。


その夜、

中枢の最終モデルは

完成寸前で止まった。


わずかな余白を残して。


そして誰も知らない。


その余白が

偶然ではない可能性を。

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