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見えない層
27年9月16日
寮の自室。
湊は、リンクを開いた。
黒い画面。白い文字。
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国家は制度ではない。構造である。
構造は設計できる。
労働は縮減される。
再分配は透明化される。
意思決定は数理モデルに補助される。
人は自由になる。
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スクロール。
幸福度指数の上昇予測。
犯罪率の低下。
GDP安定曲線。
完璧だった。
理論上は。
だが、違和感がある。
「……揺らぎがない」
すべてが整いすぎている。
社会はノイズの集合体だ。
曖昧さがあるからこそ、動的均衡が保たれる。
最下部に一文。
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条理は、反転する。
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その瞬間、別の通知。
差出人不明。
開く。
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君は、どちらを選ぶ。
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無差別送信ではない。
そう感じた。
窓の外、夜風が鳴る。
日本はまだ立っている。
だが、どこかで薄くなり始めている。
制度ではなく、構造として。
見えない層が、静かに重なり始めていた。




