教室の蛍光
28年3月2日
冬の朝。
地方都市の小学校。
教室の蛍光灯が、いつもより白く、静かに灯っている。
昨年まで、夏は蒸し暑く、冬は底冷えしていた。
古い空調は音ばかり大きく、効きは弱かった。
だが今年、更新された。
決定までの過程は、アプリのログに残っている。
評価スコア。
討論履歴。
議会修正理由。
反映率八二%。
数字は簡潔だ。
けれど教室にいる子どもたちは、
その数字を知らない。
「今日、寒くないね。」
誰かが言う。
担任が微笑む。
「そうだね。」
窓の外には霜。
だが教室の空気は、穏やかだ。
⸻
研究室。
湊はその自治体のデータを再確認している。
「空調更新後、保健室利用率が少し下がってる。」
凛が画面を覗く。
「出席率も微増。」
高城が言う。
「地味だけど、効いてるな。」
湊は呟く。
「数字の向こうに、温度がある。」
凛が小さく頷く。
「温度は、体感できる民主主義。」
⸻
その日の午後。
その学校で、簡単な授業が行われる。
「町の予算はどうやって決まるのか」
黒板に書かれる。
“税金”
“議会”
“話し合い”
そして、担任が付け加える。
「みなさんのお父さんやお母さんも、
町のことについて意見を出せる仕組みがあります。」
子どもたちは首を傾げる。
「どうやって?」
「スマートフォンで。」
笑いが起きる。
だが、何人かは真剣に聞いている。
⸻
夜。
グループチャット。
【高城】
空調の件、地味に感動した。
【凛】
体感できる結果は強い。
【湊】
参加率は四二%に戻った。
【高城】
信仰は続いてるな。
【凛】
祈りが、蛍光灯に変わった。
少し沈黙。
【湊】
蛍光灯は、祈らなくても灯る。
既読。
【高城】
でも、
誰かが決めないと灯らなかった。
凛が続ける。
【凛】
選択が、光になった。
⸻
研究室の窓から見える夜景。
ビルの灯りが点在している。
一つ一つは小さい。
だが集まると、街を形づくる。
湊は思う。
民主主義は、
壮大な理念ではなく。
冷暖房の効き。
通学路の安全。
橋の補修。
そんな細部の積み重ねでできている。
数字は抽象だ。
だが、その結果は具体だ。
凛が静かに言う。
「制度が残るかどうかは、
理念じゃなく、体感で決まる。」
高城が笑う。
「蛍光灯、強いな。」
湊は窓の外を見る。
遠くの町で灯る光。
参加率四二%。
反対もある。
摩擦もある。
報道は少ない。
それでも。
教室の蛍光灯は、
確かに明るい。
子どもたちは、その明るさの理由を知らない。
けれどいつか、知るかもしれない。
誰かの選択が、
この光を灯したことを。
小さな自治。
可視化された揺れ。
抵抗と祈り。
そのすべてが、
一つの教室の温度に繋がっている。
蛍光灯は、ただ光る。
静かに。
確かに。
そしてその光の下で、
次の世代が育っていく。




