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Lythraen ― 逆なる条理 ―  作者: 白想玲夢
第2章 分岐

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14/19

誰が為のイノリ

28年3月1日


最初にそれが話題になったのは、

宗教欄でも、政治欄でもなかった。


オピニオン欄だった。


「参加型民主主義は“信仰”になり得るか」


凛が記事を読み上げる。


「……“人は、目に見えないものを信じるとき、

 祈りという形式を選ぶ。

 では、可視化された数値は祈りを奪うのか。”」


高城が苦笑する。


「重いな。」


湊は画面をスクロールする。


記事は断定していない。


ただ問いかけている。


参加ボタンを押すことは、

意思表示か。

それとも儀式か。



数日後。


ある宗教団体の代表が会見で言う。


「数値によって善悪を測ることには慎重であるべきだ。」


敵意はない。

だが距離がある。


凛が言う。


「価値判断をアルゴリズムに預けることへの警戒。」


高城が腕を組む。


「祈りは多数決じゃない、ってことか。」


湊は静かに言う。


「祈りは、結果を求めない。」


研究室に沈黙が落ちる。



夜。


グループチャット。


【高城】


参加ボタン押すのって、

祈りに近いと思う?


【凛】


祈りは不可視の存在に向ける。

これは可視の制度に向けてる。


【湊】


でも、結果がどうなるかは個人には見えない。


少し間。


【高城】


じゃあ半分祈りだな。


凛が打つ。


【凛】


問題は“誰のための祈りか”。



地方自治体で、小さな出来事が起きる。


ある政策が、市民評価で高得点を得た。


だが議会は採択しなかった。


理由は財源不足。


アプリには、議会側の説明が公開される。


丁寧で、理路整然としている。


それでも、コメント欄には書き込みが増える。


「私たちの声は届かなかったのか」


「参加は意味があるのか」


湊はログを読む。


怒りより、失望が多い。


凛が言う。


「ここが分岐点。」


高城が聞く。


「何の?」


「参加が“儀式化”するかどうか。」


湊は呟く。


「祈りに変わるか。」



その夜。


湊は一人でアプリを開く。


過去の政策一覧。


反映率。

乖離理由。

再検討予定日。


数字は冷静だ。


だが、その裏にある感情は揺れている。


凛からメッセージ。


【凛】


祈りは、報われなくても続く。


【高城】


でも制度は、報われないと壊れる。


湊は少し考えて打つ。


【湊】


だから説明がある。

だから再検討がある。


既読。


【凛】


説明は、祈りを対話に変える。


【高城】


それでも、

祈りたい人はいる。



週末。


ある寺院で、若い住職が語る。


「祈りとは、未来を委ねる行為です。

 しかし、未来に関わろうとすることもまた、祈りの一つかもしれません。」


ニュースにはならない。


だが、その言葉はSNSで静かに共有される。


凛がリンクを送る。


【凛】


面白い視点。


【高城】


参加=祈りの拡張版?


【湊】


祈りを、他人任せにしない形。



参加率は四一%。


わずかに下がる。


だが、急落はしない。


失望はある。

反発もある。


それでも、ログは増え続けている。


湊は思う。


制度は万能ではない。


数値は神ではない。


それでも人は、

何かに願いを託す。


未来が少しでも良くなることを。


その願いが、

可視化されたとき。


それは祈りを奪うのか。


それとも。


祈りに、責任を与えるのか。


夜の画面に、静かな通知が灯る。


「再検討案件:公開討論日程決定」


祈りは、

まだ対話に変わる余地を持っている。


誰が為のイノリか。


その問いは、

制度よりも人間に向けられていた。

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