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Lythraen ― 逆なる条理 ―  作者: 白想玲夢
第2章 分岐

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13/18

波は海を超えて

28年2月22日


最初に動いたのは、日本ではなかった。


海外の政策研究フォーラムに、一本の論文が投稿される。


タイトルは控えめだ。


“Distributed Civic Feedback Models in Mid-Sized Democracies”


Lythraenの名は、脚注にある。


だが、グラフははっきりと示していた。


参加率の推移。

地域モジュールの効果。

専門評価との乖離幅。


凛が英語記事を読み上げる。


「“参加率が四割を超えて安定した例は稀”…」


高城が目を丸くする。


「稀って言われてるぞ。」


湊は静かに言う。


「比較対象があるってことだ。」



数日後。


海外メディアのテック欄に小さな記事が出る。


「東アジアで進む“静かな民主主義アップデート”」


センセーショナルではない。


だが、冷静に分析している。


・アルゴリズム透明性の課題

・不正検知問題

・専門家との摩擦

・地域間温度差


凛が言う。


「外からのほうが整理されてる。」


高城が笑う。


「距離があるからな。」


湊は記事の一文に目を止める。


“The experiment’s greatest strength may not be participation itself, but the normalization of visible disagreement.”


「可視化された不一致の常態化、か。」


凛が頷く。


「対立を消さない設計。」



その夜、チャット。


【高城】


海外で褒められてるの、ちょっとむず痒い。


【凛】


まだ評価段階。


【湊】


同時に、警戒もされてる。


リンクが共有される。


海外の政治評論家の投稿。


「もしこのモデルが成功すれば、

既存の中央集権的構造に圧力をかける可能性がある。」


【高城】


圧力って。


【凛】


影響力の再配分。


【湊】


輸出されるかもしれない。


少し沈黙。


【高城】


逆に、取り込まれるかもな。


【凛】


どういう意味?


【高城】


表面だけ真似して、

中身はブラックボックスのまま。


湊は考える。


形式だけの参加。

数値だけの透明性。


それは、もっと扱いやすい。



数週間後。


アジアの別の国で、

「市民評価アプリ」の導入が発表される。


だが仕様は非公開。

アルゴリズムも不明。


凛が言う。


「早すぎる。」


高城が言う。


「成功例ってより、流行だな。」


湊はつぶやく。


「理念が輸出されるとは限らない。」



一方、日本国内。


政府関係者の一部が、

海外論文を引用し始める。


「国際的にも注目されている試みです。」


皮肉なことに、

外からの評価が、内側の空気を変える。


高城が言う。


「逆輸入かよ。」


凛は小さく笑う。


「正当性は、しばしば外部から与えられる。」


湊はヒートマップを開く。


参加率、四三%。


微増。


海外からの流入IPも、わずかに増えている。


見学か、研究か、それとも別の意図か。


波は、海を越えた。


だが、海は穏やかではない。


輸出される理念。

輸入される評価。

真似される形。


本質が保たれる保証はない。


それでも。


静かな実験は、

もはや一国の内政ではなくなった。


高城がチャットに書く。


【高城】


波ってさ、

どこからが海なんだろうな。


凛が返す。


【凛】


境界は、地図の都合。


湊は最後に打つ。


【湊】


でも、波紋は消えない。


通知がまた一つ増える。


「海外研究機関との公開ディスカッション開催」


小さな自治から始まった揺れは、

いつの間にか、国境を越えていた。


波は静かだ。


だが確実に、

海を渡っている。

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