報道しない自由
28年2月15日
最初に気づいたのは、高城だった。
「……あれ?」
研究室のモニターに並ぶ、主要ニュースサイトのトップページ。
経済。
海外情勢。
芸能。
スポーツ。
Lythraenの文字は、どこにもない。
凛が言う。
「昨日、不正検知レポート出たよね。」
湊が頷く。
「参加率も四二%で安定。
地域モジュールも拡張決定。」
高城が画面をスクロールする。
「なのに、ゼロ?」
小さな専門紙には短い記事がある。
だが、全国ネットは沈黙している。
⸻
午後。
ニュース番組の特集。
「最近増える“参加型アプリ”の落とし穴」
具体名は出ない。
だが、画面のUIはどこか似ている。
コメンテーターが言う。
「アルゴリズムに依存しすぎる社会は危険です。」
別の出演者。
「市民の声を装った操作も可能でしょう。」
高城がテレビを消す。
「名前出さないで批判か。」
凛は冷静だ。
「法的リスクを避けてる。」
湊は考える。
「それだけじゃない。」
「何が?」高城。
「“扱わない”ほうが影響を抑えられる。」
⸻
その夜、グループチャット。
【高城】
これ、意図的?
【凛】
意図というより、編集判断。
【湊】
何をニュースにするかは自由。
少し間。
【高城】
でも、
何を“ニュースにしないか”も自由だよな。
既読。
【凛】
報道しない自由。
【湊】
それ自体は悪じゃない。
【高城】
でも、
可視化された民主主義が広がると困る層はいる。
凛が打つ。
【凛】
困る、というより
既存のフレームで語れない。
湊は思う。
テレビは“対立”を求める。
勝者と敗者。
賛成と反対。
スキャンダルと責任。
だがLythraenは、
摩擦を数値で並べるだけだ。
劇的ではない。
だから、映えない。
⸻
翌日。
研究室で湊がデータを映す。
「報道量と参加率の相関。」
高城が身を乗り出す。
「ある?」
「ほぼ、ない。」
凛が言う。
「口コミ比率が高い。」
アプリへの流入経路。
・友人紹介
・地域説明会
・自治体通知
・SNSリンク
テレビ経由は、わずか数%。
高城が笑う。
「つまり、メディア通さず広がってる。」
凛は言う。
「だからこそ、扱いづらい。」
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夕方。
一つの地方紙が特集を組む。
「小さな自治が変える町」
教室の空調更新が決まった学校の映像。
子どもたちが笑っている。
湊は記事を読む。
大きな理論はない。
批判も賛美もない。
ただ、決定の過程が書かれている。
凛が言う。
「全国紙より、地方紙のほうが相性いい。」
高城が頷く。
「自分ごとだからな。」
⸻
夜。
チャット。
【高城】
これさ、
そのうち“無視できない規模”になったらどうするんだろ。
【凛】
そのとき初めて、
物語化される。
【湊】
今はまだ、現象。
少し間。
【高城】
でもさ。
報道されないのに広がるって、
ちょっと不気味だな。
【凛】
静かな変化は、いつもそう。
湊は窓の外を見る。
街はいつも通りだ。
誰もデモをしていない。
誰も叫んでいない。
それでも、参加率は四二%を保っている。
報道されない。
批判も、称賛も、大きくはならない。
だが。
“扱われない”という選択もまた、
一つの編集だ。
Lythraenは炎上しない。
代わりに、
生活の隙間に入り込む。
テレビが沈黙している間に。
変化は、
物語にならない速度で進んでいく。




