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Lythraen ― 逆なる条理 ―  作者: 白想玲夢
第2章 分岐

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12/16

報道しない自由

28年2月15日


最初に気づいたのは、高城だった。


「……あれ?」


研究室のモニターに並ぶ、主要ニュースサイトのトップページ。


経済。

海外情勢。

芸能。

スポーツ。


Lythraenの文字は、どこにもない。


凛が言う。


「昨日、不正検知レポート出たよね。」


湊が頷く。


「参加率も四二%で安定。

地域モジュールも拡張決定。」


高城が画面をスクロールする。


「なのに、ゼロ?」


小さな専門紙には短い記事がある。

だが、全国ネットは沈黙している。



午後。


ニュース番組の特集。


「最近増える“参加型アプリ”の落とし穴」


具体名は出ない。


だが、画面のUIはどこか似ている。


コメンテーターが言う。


「アルゴリズムに依存しすぎる社会は危険です。」


別の出演者。


「市民の声を装った操作も可能でしょう。」


高城がテレビを消す。


「名前出さないで批判か。」


凛は冷静だ。


「法的リスクを避けてる。」


湊は考える。


「それだけじゃない。」


「何が?」高城。


「“扱わない”ほうが影響を抑えられる。」



その夜、グループチャット。


【高城】


これ、意図的?


【凛】


意図というより、編集判断。


【湊】


何をニュースにするかは自由。


少し間。


【高城】


でも、

何を“ニュースにしないか”も自由だよな。


既読。


【凛】


報道しない自由。


【湊】


それ自体は悪じゃない。


【高城】


でも、

可視化された民主主義が広がると困る層はいる。


凛が打つ。


【凛】


困る、というより

既存のフレームで語れない。


湊は思う。


テレビは“対立”を求める。


勝者と敗者。

賛成と反対。

スキャンダルと責任。


だがLythraenは、

摩擦を数値で並べるだけだ。


劇的ではない。


だから、映えない。



翌日。


研究室で湊がデータを映す。


「報道量と参加率の相関。」


高城が身を乗り出す。


「ある?」


「ほぼ、ない。」


凛が言う。


「口コミ比率が高い。」


アプリへの流入経路。


・友人紹介

・地域説明会

・自治体通知

・SNSリンク


テレビ経由は、わずか数%。


高城が笑う。


「つまり、メディア通さず広がってる。」


凛は言う。


「だからこそ、扱いづらい。」



夕方。


一つの地方紙が特集を組む。


「小さな自治が変える町」


教室の空調更新が決まった学校の映像。


子どもたちが笑っている。


湊は記事を読む。


大きな理論はない。

批判も賛美もない。


ただ、決定の過程が書かれている。


凛が言う。


「全国紙より、地方紙のほうが相性いい。」


高城が頷く。


「自分ごとだからな。」



夜。


チャット。


【高城】


これさ、

そのうち“無視できない規模”になったらどうするんだろ。


【凛】


そのとき初めて、

物語化される。


【湊】


今はまだ、現象。


少し間。


【高城】


でもさ。

報道されないのに広がるって、

ちょっと不気味だな。


【凛】


静かな変化は、いつもそう。


湊は窓の外を見る。


街はいつも通りだ。


誰もデモをしていない。

誰も叫んでいない。


それでも、参加率は四二%を保っている。


報道されない。


批判も、称賛も、大きくはならない。


だが。


“扱われない”という選択もまた、

一つの編集だ。


Lythraenは炎上しない。


代わりに、

生活の隙間に入り込む。


テレビが沈黙している間に。


変化は、

物語にならない速度で進んでいく。

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