数字の裏
28年2月14日
参加率は四三%。
前週より、わずかに回復。
ニュースは静かだ。
市場も荒れていない。
だが、湊は違和感を覚えていた。
「増え方が、均一すぎる。」
研究室のモニターに、時間帯別の参加ログが表示される。
凛が拡大する。
「午前二時台に、山。」
高城が椅子を回す。
「夜型の民主主義?」
「それにしては、波形が整いすぎ。」凛。
湊はさらにフィルターをかける。
デバイス種別。
IP分布。
操作時間。
高城が目を細める。
「同じ操作時間が連続してる。」
「平均三秒未満。」凛。
湊は小さく言う。
「読んでない。」
沈黙。
⸻
グループチャット。
【湊】
深夜帯、同一パターンの連続投票。
【凛】
自動化の可能性。
【高城】
え、ボット?
【湊】
断定はできない。でも自然じゃない。
【凛】
地域偏在は?
【湊】
ほぼ都市部。
既読が並ぶ。
【高城】
参加率下げるため?
【凛】
逆。
特定項目の評価を押し上げてる。
湊は、対象項目を送る。
「専門評価乖離が大きい政策」
高城が送る。
【高城】
うわ、タイミング良すぎ。
⸻
翌日。
アプリに小さな告知が出る。
「不正操作検知アルゴリズム更新」
短い一文。
詳細は公開されない。
凛が言う。
「対処は早い。」
高城が眉を上げる。
「裏でかなり見てるな。」
湊はデータを再取得する。
深夜の山は、消えている。
参加率は、微減。
「補正かかった。」凛。
高城が言う。
「でもさ。」
「うん?」
「これって、怖くない?」
湊が見る。
「何が?」
「“正しい数字”がどこにあるのか、
運営側しか完全には知らない。」
凛が静かに言う。
「透明性のシステムが、
透明じゃない部分を持ってる。」
⸻
その夜。
再びチャット。
【高城】
仮にさ、
不正検知の基準が恣意的だったら?
【凛】
それを疑う人は必ず出る。
【湊】
だからログ公開がある。
【凛】
でもアルゴリズム自体はブラックボックス。
少し間。
【高城】
つまり、“信頼”が前提。
【湊】
どんな制度も最後はそこ。
既読が並ぶ。
⸻
翌週。
参加率は安定して四二%。
だが、議論ログが増えている。
「不正検知の基準を公開すべき」
「完全公開は悪用される」
「透明性と安全性は両立するのか」
研究室で凛が言う。
「数字の裏に、設計思想がある。」
高城が続ける。
「設計思想の裏に、人がいる。」
湊はホワイトボードに書く。
数字 → アルゴリズム → 設計者 → 意図
「どこまで可視化するか。」
凛が言う。
「可視化しすぎると壊れる。」
高城が笑う。
「しなさすぎると疑われる。」
沈黙。
⸻
その夜、湊は一人でアプリを開く。
検知レポートの概要が更新されている。
「自動化疑いアカウント:1.8%
影響除外後のスコア変動:±0.7%」
小さい数字。
だが、ゼロではない。
湊は思う。
完璧な数値は存在しない。
守られた数字も、
補正された数字も、
誰かの判断を通っている。
それでも。
歪みを放置するよりは、
揺れを認めたほうがいい。
凛からメッセージが届く。
【凛】
信頼は、ゼロか百じゃない。
誤差を共有できるかどうか。
湊は返信する。
【湊】
誤差を隠さないことが、
次の信頼かも。
既読がつく。
数字は嘘をつかない、と言われる。
だが本当は。
数字の裏には、
必ず人間の選択がある。
Lythraenは、
その裏側まで見せられるのか。
それとも。
見せすぎて、壊れるのか。
画面の隅で、参加率がわずかに揺れた。
ほんの、〇.一。




