転生したら金がすべての陽キャでしたが、私だけを愛しすぎる氷の騎士が離してくれません!
目が覚めたら、天井がやたら高かった。
そして私の第一声は、極めて現実的だった。
「……ここ、宿? 素泊まり? 朝食付き?」
――どうやら私は、異世界に転生したらしい。
名前はミリナ・カッツェ。年齢十八。平民出身。金が好き。とても好き。
前世の私は日本でブラック企業に勤め、給料日前日にコンビニで値引きシールを見つめながら力尽きたらしい。記憶はそこまでだが、「金は命」という信念だけは異世界でも健在だった。
「よっしゃ! 異世界! チャンスしかないじゃん!」
鏡に映った私は、赤毛のポニーテールに快活な笑顔。目が合うだけで元気を振りまく、いわゆる陽キャ顔だ。
しかもこの世界、魔法あり、ギルドあり、ダンジョンあり。稼ぐ手段が山ほどある。
「まずは冒険者登録! 初期投資は必要経費!」
こうして私は、スキップしながら冒険者ギルドの扉を開いた。
◆
「……登録料、銀貨三枚?」
受付のお姉さんの言葉に、私は一瞬だけ真顔になったが、すぐに笑顔を取り戻した。
「安い安い! 未来への投資だもん!」
周囲の冒険者たちがざわつく。
平民の娘が銀貨三枚を即決? 普通は渋る額だ。
「ミリナ・カッツェ、職業適性……商人寄りですが、戦闘補助魔法が少々」
「おっけー! 死ななきゃなんでもいい!」
結果、私はEランク冒険者としてスタートした。
魔物討伐は最低限、主に素材回収と露店販売で稼ぐスタイルだ。
そんな私の周囲に、いつの間にか一人の男がいるようになった。
◆
彼の名はルシェル・ヴァイス。
銀髪碧眼、長身、無表情。氷の騎士と呼ばれる若き剣士だ。
「また会ったね、ルシェル!」
「……ああ」
私が話しかけると、彼は必ず短く答える。
他の冒険者には視線すら向けないくせに、なぜか私には付き合いがいい。
「今日も護衛ありがと! おかげで怪我ゼロ! 修理費浮いた!」
「君が無事なら、それでいい」
淡々とした声。
でも、私が魔物に近づかれた瞬間、彼の剣は容赦なく唸る。
――あとで知ったのだが、彼はSランク冒険者。
普通、Eランクの私と組む理由はない。
「ねえルシェル、なんで私とパーティ組んでるの?」
ある日の帰り道、何気なく聞いてみた。
「……君は、笑うから」
「え?」
「金の話をしている時も、危険な時も。君は前を向く。……それが、気に入った」
「なにそれ、照れるじゃん!」
私は笑って流した。
この時はまだ、彼の“重さ”に気づいていなかった。
◆
私の商才は順調に花開いた。
安く仕入れて高く売る。回復薬を小分けにして露店で売る。ダンジョン帰りの冒険者に温かいスープを売る。
「ミリナ、また儲けたのか」
「ふふん! 金は裏切らないからね!」
気づけば、私は平民ながらかなりの貯蓄を持つようになっていた。
その一方で、奇妙な噂も耳にする。
「最近、ミリナに絡んだやつ、全員パーティ解散してるらしいぞ」
「依頼中に事故が多発してるって……」
首を傾げていると、ルシェルが静かに言った。
「……君に害をなす者は、排除した」
「は?」
思わず足を止めた。
「ちょ、ちょっと待って? 排除って……」
「命までは取っていない。社会的に再起不能なだけだ」
淡々と告げるその横顔は、氷のように冷たい。
「それ、普通にヤバい人の発言だから!」
「……嫌か?」
初めて、彼の声が揺れた。
不安と執着が混じった、重たい感情。
私は少し考えて、笑った。
「うーん、やりすぎはダメ! でも……守ってくれるのは、嬉しいかな」
「……そうか」
その瞬間、彼の周囲の空気が一気に和らいだ。
◆
決定的な事件は、王都からの勧誘だった。
「ミリナ・カッツェ。あなたの商才を王国で活かしませんか?」
条件は破格。安定収入。地位。
普通なら即決だ。
「……でも、今の自由な生活も捨てがたいんだよね」
悩む私の横で、ルシェルの気配が凍りつく。
「行くなら……止めはしない」
そう言いながら、彼の手は震えていた。
私は気づいた。
彼は私を縛りたいわけじゃない。ただ、失うのが怖いだけだ。
「ねえルシェル」
「……何だ」
「一緒に来る? 私の専属護衛兼、共同経営者として」
彼の目が見開かれた。
「……いいのか」
「もちろん! 利益は折半! 働いた分だけ報酬あり!」
「……君は、本当に金の話になると輝くな」
「でしょ!」
そして私は、最後にこう付け加えた。
「それにさ。私だけをそんなに想ってくれる人、手放すほど安くないよ?」
彼はしばらく黙り込み、そして静かに膝をついた。
「……一生、君の傍にいる」
「重っ! でも、嫌いじゃない!」
◆
こうして私は、異世界で金を稼ぎ、恋をして、今日も笑っている。
激重ヤンデレの騎士は、私以外には相変わらず冷たいけど。
私の前では、少しだけ不器用に笑う。
「明日の売上、期待していい?」
「ああ。君の望む未来のためなら、何でも斬ろう」
「犯罪はダメだからね!」
後味?
そりゃもう、最高にスッキリだ。
だって私は――
金も愛も、がっちり掴む女なのだから。
――完。




