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セクハラ野次

都議会で、ある女性議員が少子化対策について演説を始めようとしていたときのことだった。


議場の空気は重く、彼女の声はかき消されるようにして、男たちのヤジが飛び交った。


「お前が結婚すればいいだろ!」


「産めないのか!」


その女性議員の名は竹内由美子。


三十代半ば、端正な顔立ちで、かつてテレビにも出演したことがある。


秋田県出身の’あきたこまち’で、東京の女子大を卒業し、都議会へと進出した。


所属は少数政党「みんなが女性党」である。


みんなが女性党はこのヤジを問題視し、録音から発言者の特定を始めた。


世論は沸騰し、連日ワイドショーで取り上げられた。


一週間も経たないうちに、「なんちゃって民主党」の40代の男性議員が名乗り出た。


その名は国枝幸助。


彼は深々と頭を下げた。


「先生のご立派な経歴も知らず、不規則発言をしてしまいました。どうかお許しください」


由美子は静かにうなずき、謝罪を受け入れた。


拍手が起こり、カメラのフラッシュが一斉に光った。


その後、「みんなが女性党」は「なんちゃって民主党」に吸収された。


世間は事件の真相に飽き、話題は次のスキャンダルへと移っていった。


3年が経ち、「なんちゃって民主党」は、由美子を参議院選挙の東京選挙区から擁立した。


もはやあのヤジ事件を正確に覚えている都民はほとんどいない。


人々は、あれが政権与党「痔が痛い民主党」の仕業だったと勘違いし始めていた。


新聞も党名を明記せず、由美子も沈黙を貫いた。


彼女は6人区の4位で当選を果たした。


夜の選挙事務所で万歳の声が響く中、由美子の目に国枝幸助の姿が映った。


彼女は満面の笑みを浮かべて駆け寄る。


「ありがとうございました!」


国枝は笑いながら手を差し出した。


「いやぁ、まさかあのセクハラヤジが芝居だったとは、誰も気づきませんでしたね」


「みんなが女性党の党首が不祥事で辞任して、吸収される予定だったなんて、誰も知らなかったですから」


由美子は軽く笑った。


「僕も潔さが買われて、都議選で再選できましたよ」


国枝がそう言うと、由美子は彼の手を強く握りしめた。


「3年も経てば、ヤジは痔が痛い民主党の仕業だと思われてる。ご協力、感謝します」


由美子は彼に抱きつきそうになったが、妻子ある身だと気づき、慌てて身を引いた。


「冗談抜きで、君は結婚しないの?」


「そうなんです。気になる人はいるんですけど、なかなか振り向いてくれなくて」


「やっぱりね。君ほどの美人が独身なんておかしいと思ってた。僕の後輩ならいつでも紹介しますよ。6年後は、もうこの手は使えませんからね」


やがて由美子は、国枝の紹介で一流企業の男性と結婚した。


議員としての6年間、特筆すべき成果はなかったが、与党「痔が痛い党」の凋落に助けられ、再選を果たした。


再選後のある晩、彼女は新しい議員バッチをつけて、ひとり議員会館の窓際に立ち、静かに東京の夜景を見つめた。


街の灯りは、あのフラッシュと同じように、虚ろに瞬いている。













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