"白玫瑰"
案内人は私よりも頭一つは低い身長をした、少年だった
雪が降っている
この辺の雪は珍しい性質をしているらしい
上着に付いた雪を拭うと、衣服に白い跡が残った
そのせいかは解らないが、少年の肌も雪に溶けてしまいそうに白く、陽の差さない灰色の空の下では、彼が陽光である様にすら思えた
ばかりか、視れば少年の服は短く、膝も肩も吹雪に晒されて居るが、傷一つ無い
『彼が人間で無い可能性も視野に入れよう』、私は最後の休憩地点である小屋の軒で煙草に火を付けると、口には出さずそう思って居た
「探検家の方を案内するのは、初めての事です」
私に言う少年の口の端は、常に少し上がって居る
『油断ならないな』と感じた
「この辺りの雪は、みんな白いのか?」
聞き方が不味かったかとも思ったが、少年は空を覆う吹雪に視線を向けながら、「白いものを含んで居ますからね」と答えた
「海に流れた白いものが雲になって、地に降り注ぐんですよ」
解ったような解らないような答えだ
私は煙を物憂げに吐き出すと、少年の視線の先を視た
「あれは」
「人か?」
いつの間にか視界の遙か先、海に通じる崖の所に人間の列が歩いて居た
子供達の一団に視える
私は荷物から双眼鏡を取り出すと、レンズを行進する人々へ向けた
子供達は絶望的な顔をして、雪の中を裸のような姿で歩いて居た
靴を履いている者すら少ないが、手錠は全員に嵌められて居る
皆、少年だ
彷徨って居るのでは無い
進む先自体は明確な様子だった
視れば、彼らの後ろには銃を持った男達が立って居る
『視るべきでは無い』と理性が言って居たが、何故か私は、眼を離す事が出来なかった
崖の上に少年達が整列させられる
並び終わるや否や、数え切れない程の銃声が響く
その時になって初めて、私はこの場所が吹雪の音以外は完全な静寂の場所だった事に気が付いた
双眼鏡の先で、華が咲く様に血が飛び散っていく
男達は銃を撃ちながら、銃口を水平に滑らせ続けていく
不思議な事に、飛散する血液の、その総てが雪のように白かった
ものの数秒で子供達の中に動いている者は一人も居なくなり、男達は確実に息の根を止める為、倒れた少年に時折銃弾を撃ち込みながら、崖の下に屍躰を蹴落として居った
「この辺りでは」
「人間の血は、白いのか?」
案内人を視る
彼はこの間ずっと、私を視て口の端を上げていた様だった
「白いものを含んで居ますからね」
「そして海に流れた白いものが雲になって、地に降り注ぐんですよ」




