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第10話

 お坊さんとの話し合いが終わった時、問題はまだ解決していないが、茉央の心は来た時よりも晴れ晴れとしていた。


「恐らく一カ月はかかると思うので、こちらをお渡しします」


 お坊さんが、ピンク色の布に見たことのない梵字が刺繍されたお守りを差し出した。ただのお守りらしからぬ雰囲気を感じた茉央は、大事に受け取る。


「あの、このお守りは?」


「気休めですが、貴方の身代わりとなる人型の紙が入っています。今は静かですが、これから──動くかもしれません」


「……ありがとうございます」


 お坊さんの言葉がとても重くて、ぎゅっと潰さないように握りしめる。日に日に近づいてくる気配は、狙っていると分かる。


 もし神様に連れ去られたら、自分はこの世にはいられないことを悟っていた。


「レオン。貴方も持っていなさい。次に危ないのですから」


「ありがとうございます」


 レオンに青いお守りを渡す際、お坊さんが父として彼を案じる姿に、茉央の胸が締め付ける。当たり前の親子の会話が、耳の奥に残って離れない。


 自分がレオンを巻き込んでいる。罪の意識が皮肉なことに、茉央をこの世に繋ぎ止める唯一の楔となっていた。


 寺から出ると雨が上がり、透き通るようなオレンジの空が、雲ひとつなく広がっていた。


「今日は本当にありがとうございました」


「いえ、少しでも楽になったならば、こちらとしても嬉しい限りです。気をつけてお帰りください」


 お坊さんは心配だからと、駐車場までついて行く。遠のく車のミラーに映るその姿が小さくなるまで、茉央は目を離せなかった。


「いいお父さんだね」


「父は困った人を見かけると、助けたくなる性格なんです。息子としても尊敬しています」


 茉央の褒め言葉に、恥ずかしそうに嬉しそうに小さく笑うレオンの耳の先が僅かに赤いことに、茉央は気づく。


 真っ直ぐで優しい性格は、父譲りなんだろうなと実感すると、つい微笑んでしまう。


 辛い日々ばっかりだったけど、今日は久しぶりに幸せだと、茉央は言い切れる自信があった。


「何かあったらいつでも連絡してください」


「うん、また明日会おうね」


「えぇ、おやすみなさい」


 帰る頃にはすっかり夜になっており、危ないからと住んでいるマンションまで送る。


 寺に行く前よりも柔らかな表情を見せると茉央に、レオンは安堵の表情を浮かべた。


 軽く会話をした後に、走り去っていった車に名残惜しさを感じながら、寂し気に手を振る。


「……まずは一カ月なんとしても耐えなきゃ」


 小さく呟く覚悟は自分の力だけじゃない。頑張って断ち切ろうとしてくれる人達の優しさのお陰なんだと分かっていた。


 マンションの中へと入ろうとする茉央の影が歪に揺らいでいる。そんな彼女の後ろを、赤い目を持つ影はついて行った。

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