出会い
『いやぁぁ、危ないところでしたね。こんな山奥で何してたんですか?』
少年は目を輝かせながら訪ねてきた。
顔をよく見てみると中々のイケメンで、爽やかな空気を身にまとっている。
「えっ、あっと…」
彼の質問に応えようとするが、言葉がうまく出てこない。
いろいろなことが起こりすぎて頭が混乱している。
そんな様子を察してか、少年は
『こんなところで立ち話もなんですし、うちに寄っていきます?』
と提案をしてきた。
「はい…お願いします…」
少年の後を追う。
森の中は薄暗く、今にも何かが出てきそうだ。
風で揺れる枝。鳥の鳴き声。落ち葉を踏む音。
すべてが不気味に思えてくる。
しばらくすると、遠くの方が明るくなっていることに気がついた。
木々の間から木漏れ日が差してくる。
どうやら森を抜けるらしい。
鬱蒼とした木々の間を抜けると、そこには草原が広がっていた。
そよ風が吹き、草がゆらゆらと揺れている。
あたりを見渡してみると、遠くの方に小さな家がある。
どうやらあれが少年の家のようだ。
『さぁぁ、つきましたよ』
やっと少年の家までたどり着いた。
近くで見てみると、いろいろなところが傷んおり、だいぶ年季が入っているようだ。
「おじゃまします」
少年の後に続き、家の中に入る
『どうぞ、この椅子に座ってください』
「はい…」
座ると体が鉛のように重くなっていく。
今まで緊張で気づいていなかったが、そうとう疲労が溜まっているようだ。
自然とあくびが出てしまう。
『私の名前はアレンです。よろしくおねがいします』
「あっ、ソウタです…助けていただきありがとうございます。」
『いえいえ、いいんですよ。困ったときはお互い様ですから。それで、何があったか話していただけますか?』
「はい…」
俺は今までに起きたことを話した。
トラックに引かれたこと。気づいたらこの森にいたこと。緑色のバケモノに追いかけられたこと。
始めは簡単に話すつもりだったが、少年の顔を見ているとなぜだか、言葉が止まらなくなっていった。
胸の奥から熱いものが湧き上がってくる。
声が震える。
言葉がうまく出てこない。
「あぁぁ…あぁぁ…」
俺は声を荒げて泣いていた。
もう、胸が張り裂けてしまいそうだった。
体の震えが止まらない。
少年に泣き顔を見られまいと、手で顔を覆う。
その間、少年は何も言わずに微笑んでいた。
一通り話し終えると、少年は台所からシチューのようなものを取り出し、僕の前に差し出してきた。
『どうぞ食べてください。』
「!?」
『話を聞く限り、帰る場所もなさそうですし、しばらくはうちに泊まっていただいていいですよ』
突然の提案に俺は驚いた。
開いた口が塞がらない。
「そんな迷惑かけられませんよ!!あっ…でも…」
『いいんですよ。家の手伝いをしてもらえれば、こちらとしても助かりますから』
『さぁさぁ、熱いうちに食べちゃってください』
「ありがとうございます…いただきます」
木でできたスプーンでシチューをすくい、口に運ぶ。
「おいしいです。」
『それはよかったです』
少年は満面の笑みでそう答えた。
食べ終わると、少年はとある話を始めた。
『今までの話を聞く限り。おそらく君は迷子というやつなのかもしれません。』
「・・・んっ?」
突然の言葉に俺は呆気にとられた。
いやまぁ確かに、迷子と言われれば迷子だけれども、もうそういう規模の問題でもないと思うのだが。
『迷子っていうのは有名な昔話のことで…
ざっくりいうと
ある日突然現れて、人の願いを叶えるたらいつの間にか居なくなってた。
みたいな話ですね』
願いを叶える?いつの間にか居なくなる?
『まぁ、ただの言い伝えなんで深く考えなくてもいいですよ。それよりも今日は寝ましょうか…』
窓の外に目線を向ける。
いつの間にか空が暗くなっていた。
『そこのベッド、使ってください』
少年の指差す方を見ると、そこには白い毛布と枕が置かれていた。
「ベッドまで貸してもらうってのは流石に…泊めさせてもらってる身ですから」
『いえいえ、うちにはベッドがもう一つあるんで気にしないでいいですよ。』
「あっ、そうでしたか…」
『なにか困ったことでもあれば声をかけてください。それじゃおやすみなさい』
「おやすみなさい…」
ベッドの中に入る。始めは冷たかった毛布がだんだんと暖かくなっていく。
その日。俺は気絶するかのように一瞬で眠りについた。