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第九話 酒倉井

 ぴーちゃんの一件から4日が過ぎた頃。

 征伐隊は酒倉井の地がようやく視界に入るところまで足を踏み入れていた。


 「千歳、久々の故郷はどうだ?」


 「緊急時で無ければもう少し気分が良かったかも知れません。

 いざとなったら私から父上に話を通します」


 「そうか、頼りになる。

 と、ここまでやって貰って悪いんだが千歳と遥君達は酒倉井にて待機して欲しい」


 「久矛殿、一体何を考えて?」


 「ここからは我々の仕事という意味も踏まえているが、あの集落を拠点に置く以上、何かあった際の連絡手段として誰かしらは此処に残しておくべきだと思ってね。

 特に千歳は、ここ酒倉井の治める長の娘。

 危ない仕事をわざわざ親達に見せつけるのは、流石に君の親から色々といわれそうだからね」


 「………、わかりました」


 そう言って千歳は大人しく彼の命令に従う。

 まぁ、集落の長の跡継ぎ云々の身で荒事に手を出す場面を見せるのはかなり危険。

 こればかりは懸命な判断だ。


 「本当にいいのか、久矛殿?

 俺達まで此処に置いてさ。

 敵は恐らくかなり強いんだろ?」


 「おいおい、仮にも俺達は征伐隊だぞ?

 これでも強い精鋭ばかりだ、余計な心配は無用だよ」


 「そうか………」


 「それと……」


 そう言って、久矛殿は一つの封を俺に手渡す。

 

 「もしもの時に備えてコレを託す。

 こちらが1週間が過ぎても戻らぬ場合、コレを開けてその内容に従うこと。

 出来るか?」


 「ソレ、俺に託していいものか?」


 「何で私じゃないの、久矛殿?」


 そう言って、封を受け取ろうとする俺の手を跳ね除けた千歳。

 彼女の反応に久矛殿は僅かに悩みながらも、重い口を開いた。


 「コレは遥君のやるべきこと。

 ならば千歳、君のやるべきことは分かるかい?」


 「それは………」


 「まぁ、その辺りはミタモ殿から伝えてくれる。

 とにかく遥君、コレは君に託す。

 頼んだよ」


 「承知した、確かに受け取ったよ……」


 久矛殿から受け取った封を懐にしまう。

 千歳は気が進まないようだが、久矛殿の言葉を飲んで大人しく俺の横を再び歩き始める。


 そして間もなく、俺達は千歳の故郷である酒倉井に足を踏み入れたのだった。


 

 酒倉井、これまで訪れた小さな集落と違ってかなり栄えている大きな集落。

 名産品である酒の販売や、その他商店、更には旅人向けの宿などが至るところに並んでいる。

 しかし、俺達がただの旅人ではなく神畏の集まりだと知ると町の住人の見る目が変わった。

 しかし、すぐに彼等の中に居る千歳の存在に気づくと、その警戒心は僅かに柔らくなり、何事かと疑問に感じる程度で落ち着く。


 千歳が居た事で、ここでの滞在に関してはなんとかなりそうである。

 しかし、なんというか集落の雰囲気が何処かおかしい。


 そして異変に同じく気付いたのか、ミタモの方も顎に手を当て考え更けている。


 「なるほど、やはりそういう……」


 「何か気付いたのか、ミタモ?」

 

 「………ああ、警戒を怠らん方がよい。

 妾の当初予想していた状況とは大きく変わっておる」


 「どういう意味だよ?」


 「そのままの意味じゃよ。

 しかし上流で硫黄の採掘は行われているのは確実じゃったが、どうやらここの酒の異変とは無関係の様子。

 となると、既に……いや、あるいは」 


 「何かに気付いたのか、ミタモ殿?」

  

 久矛殿もミタモの言葉に疑問を抱いたのか、問いかけてきた。


 「ここの問題は妾達でなんとかしよう。

 観光ついでに、妾の仮説を検証しようかのう」


 「………、任せていいんだな?」


 「ああ、硫黄の採掘の一件はお主達に任せたぞ……」



 「長旅ご苦労さまです、征伐隊の皆様。

 この街の者を代表し、歓迎の意を………」


 そうしてこちらに頭を下げる小太りの男。

 酒倉井秋重サカクライアキシゲ、この酒倉井を治める者であり、千歳の父親である。

 男手一つで彼女を育てたのか、母親の姿はない。


 「こちらこそ、受け入れに感謝を」


 「構わん構わん、娘が世話になっているだろう?

 神畏となった娘の活躍話を聞くのが楽しみだな」


 「父上、恥ずかしいのでやめて下さい!!」


 「そうかそうか。

 まぁ好きなだけ泊まっていくといいさ。

 それで、久矛殿と言ったか?

 この地には何用でお越しに?」

 

 「元々、千歳殿の帰省を兼ねての長旅だったのですが状況が変わりましてね………。

 近隣の村で人が攫われた被害を目の当たりにした次第です

 よって秋重殿には原因解明の為、この地の上流を調査に協力を申し立てたいのですが構いませんか?」


 「ほう、人が攫われたとな………。

 それと、我が領地に何の関連が?」


 「かつて戦乱の世にて悪虐の限りを尽くしたと言われる厄六と呼ばれる者の一人が、この地に古くから存在した硫黄の採掘をしているとの可能性が浮上したのです」


 「硫黄とな………?

 なるほど、確か古くからの伝承でそんな話を祖父から聞いた事がある……。

 そういう話なら構わん、我が領地を汚す愚か者を滅してくれるのであれば我々も協力は辞さない」


 「協力に感謝します」


 「こちらからも人手を出そう。

 しかし準備に多少時間が掛かる。

 準備を終えるまでの間はここで長旅の疲れを休めるといい。

 この街一番の宿を用意しておく上に、明日の朝には出れるように手配しておく」


 「多大なる協力に感謝致します」


 「それで、そこの二人も神畏か?

 征伐隊の者とは異なる者のようだが?」


 「この方は緋祓遥殿とミタモ殿です。

 道中、強力な怪異の被害にあった集落を救って見せた腕の立つ者達。

 彼等の協力もあって、我々もこの地に来れたものです」


 「なるほど、征伐隊の者でなくとも君達にも千歳が世話になった礼をせねばな。

 君達にも彼等と同じ宿に部屋を用意しよう。

 酒や美味い食事も同様にな……」


 「誠か!!」


 酒と聞いて、ミタモが真っ先に反応する。

 またこうなるのかよ………。


 「千歳、彼等を琥珀壮コハクソウへ案内しろ。

 部屋は私の方で手配している

 後で向こうでの話を父に聞かせてくれ」


 「承知しました、父上。

 では皆さん、私が宿へご案内します」


 そう言って、千歳の案内の元長の屋敷を後にする。

 千歳に宿へと案内されるまでの間、俺は彼女に話し掛けていた

 

 「いい父親だな。

 気前も良いし話が分かってくれる相手で」


 「ええ、そうですね。

 父上は身寄りを無くした私を引き取って、育ててくれた人です。

 父上は結婚して間もなく妻を失って、子供が居ないなら私のように身寄りを無くした者を引き取っては実の子のように育ててくれたりと、この街にとってあの人の存在はとても偉大なんです……。

 本当に素晴らしい御方で、心の底から尊敬している」


 千歳は、自らの父親に対してそう得意げに話す。

 なるほど、根っからの人格者ということか………。


 これ程の御方なら街の皆からもきっと慕われているんだろうと、俺はそう感じた。

 外の者も怖じけず受け入れる胆力、中々の器だ。

 ここまでやる人間はそう居ない……。


 しかし、何故か先程まで酒と聞いて浮かれていたミタモの表情に先程までの笑顔はなかった。

 

 何か思うところでもあったのだろうか?

 一体何だ、この違和感は?

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