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第八話 ぴーちゃん

 翌朝、連日のように朝早くからの移動。

 しかしいつもと違うのは、千歳の故郷である酒倉井への移動を決行した事である。

 

 征伐隊を率いる久矛殿自ら、俺達に向けてそう告げると細かい理由の説明もないまま向かう事になった。

 彼の表情には何処か余裕がなく、焦りすら感じたが昨日の段階でそんな素振りは見られなかった。


 いつものように仕事をして、亥と煉に説教をしたりと……。

 何処となく不機嫌に見えたのか、昨日怒られた当人等は久矛殿の顔色を怯えながら伺っている始末。


 「ほんと、急にどうしたんだあの人は?」


 「分からない。

 顔を合わせた時からあんな調子だったから」


 と、彼の右腕ともいえる凪がそう答えた。

 やはり、いつもの彼らしいとは思えない不審さに征伐隊の面々の調子が狂っている模様である。


 しかし、あの人の事だ。

 きっと何か考えのあっての事だろう。

 

 そして、もう一つ気になったのが例の如く監視ついでに俺の横を歩く千歳である。

 昨夜のアレもあって、出会い頭に罵倒も覚悟していたくらいだが、実際はというと妙に落ち着いていた。


 むしろ、ミタモを起こしに向かって遅れた俺とミタモの朝食を届けてくれたくらいである。

 一体何があった?

 まさか、手加減したつもりが当たりどころが悪くなって………。


 「何です、私の方をそんな深刻そうな表情で?」


 「身体は大丈夫なのか?」


 「ええ、あなたの言う通りちゃんと休みましたので」


 「そうか……」


 そう言って、俺の方を何回か視線向けたり逸らしたりする始末………。

 やはり、頭でも打ったのかもしれない………。


 「うっ………気持ち悪い……」


 そして、例の俺に背負われてる二日酔いの女狐。

 寝坊以前に、二日酔いで絶賛体調不良を起こしている。


 ほんと、大丈夫なのかこの人達で………。

 まともに動けるのが俺と凪くらいか………。

 久矛殿も多分大丈夫………だと思いたい。


 しかし、いつになく険しい剣幕の彼に話し掛ける度胸がある奴は居る訳が………。


 「ぴーちゃん」


 と、凪の一声で久矛の右肩目掛けて白蛇が噛みついたのである。


 「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 何とも大きな悲鳴を上げて、先頭を歩いていた久矛殿が倒れ地面をのたうち回り始めた。


 「ちょ、凪さん?!!」


 「大丈夫よ、急所を狙ったから」


 「狙っちゃ駄目でしょ!!」


 「久矛、説明しなさいって言ってるの?

 分かる?」


 怖い、表情の変化がない分余計に………。

 多分、本気で怒ってるよな?

 千歳や後ろの男二人まで顔を青ざめて引いている程。

 いや、この人……ほんとに何考えて………。


 「ちょっと凪さん!!

 落ち着いて、ね、ね!」


 そう言って、亥と煉が凪を立ち塞がるように立ち久矛を庇う。


 「そうですよ、一応この人俺達の長ですよ?」


 その言葉に対して、凪は……


 「この人が死んだら、私がやればいいわ」


 おいおい、とんでもない発言をしやがったぞ……。


 「ちょっ、ソレ本気で言ってます?!!」

 

 この状況は不味い……。

 いやでも、部外者の俺にどうしろと………。


 「説明しなさい、久矛?

 説明しないと、もう一発打ち込むわ。

 次は致死量、ちゃんと私達に伝えなさい」


 次は致死量って、この人まじで毒打ったのかよ!!

 あり得ない、普通やるか?

 いきなり過ぎて、怖過ぎる……。

 

 普通やるにも何度か言葉を挟むよな、いきなりぴーちゃんって……ほんと何考えてるだこの人?!


 「分かった!分かったから!!

 言います、説明しますよ!!

 だからぴーちゃんだけは、ほんとにやめて!!

 ほんと死ぬ、コレ以上はほんとに死ぬから!!」


 久矛殿が錯乱状態、毒なのか恐怖なのかこれ以上ないくらい怯えている。


 「そう」


 一言そう答えると凪は久矛の方へと歩み、懐から取り出した解毒薬と思われる注射器のソレを取り出して彼の首へと打ち込んだ。


 そして、見たことないくらい怯えてる久矛殿の様子に凪さんを除く全員が引いている始末。

 ミタモいつの間にか、起きており事の状況を察したのか俺の後ろに隠れている模様だ。

 

 「小童、何があった?」

 

 「いや、その………なんというか……。

 久矛殿の説明不足に凪さんがご立腹で……ぴーちゃんをその………襲わせて……ええ……」


 「………鬼か、こやつは?

 いやまだ鬼の方が慈悲深いぞ………」


 ミタモがそう言うと、凪が俺達の方を見やり見たことない怪しい笑みを浮かべていた。

 そして、彼女の肩に乗ったぴーちゃんは獲物である俺達をじっと見つめている。


 「「ひっ…………」」


 そして、俺達はその場の地面にて即正座し。

 久矛殿から説明を受ける事になったのだった。



 事の経緯としては、幾つかの集落で起きた失踪事件は千歳の故郷である酒倉井の上流にある硫黄の採掘への人手の為に駆り出された可能性が高いとのこと。


 硫黄の採掘を素人が行うのは危険であり、時は一刻も争うからとの事で久矛殿は焦りを覚えていたようだが………。


 「確かに、ちゃんと説明しなかった俺が悪かった。

 でもな、いきなり背後からぴーちゃんを仕掛けるのは不味いだろ、凪?」


 「私達にとっても命に関わる事よ。

 あなたの過失で、私達が死ぬかもしれない。

 それが身に沁みたでしょう?」

  

 そう言って、腕に巻き付いてるぴーちゃんを久矛殿の方へと向ける。


 「……そうですね、はい」


 なるほど、彼女がこの隊の右腕を任された理由の一端がわかった気がする。

 やり方は少し問題だが………。


 「とにかく、

 それくらいの説明なら、さっさと私達にすることね。

 では行きましよう、一刻を争うのよね?

 連れ去った奴等の正確な場所は?」


 「酒倉井の上流と睨んでは居るが、正確な位置は分からない。

 ほとんどなミタモ殿から聞いた話だからな」


 「………そう。

 ミタモさん、場所は覚えてる?」


 「アレが硫黄を採っていたのが何時の時代じゃと思っておる?

 そもそもあの場所を知っているのは、当時あの採掘場を崩した黒鼬本人じゃ……。

 だから妾は知らんよ」


 そう言って、ミタモは呆れたようにうなだれ、俺の背中に纏わりついてくる。


 「ミタモ、離れろ……」


 「まだちょっと、気持ち悪いんじゃぁぁ………」


 「………はいはい、そうですか……」


 と、そんなミタモの様子に呆れた凪は僅かに思考し口をゆっくりと開いた。

 

 「では、とにかく酒倉井を目指しましょうか。

 かの地を拠点に、集落の人間の捜索及び硫黄の採掘場をなんとかするわ。

 と、この指示を本来あなたがするのよ、久矛?」


 「はい………仰る通りです」


 と、正座していた俺達は立ち上がり移動を再開。

 ひとまず、誰の犠牲も出なかっただけマシだと思いたい。

 あの人だけは絶対に怒らせないようにしないとな……


 

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