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第六話 個性的な面々

 無人の集落にて、征伐隊と協力する事になった俺達は翌日の早朝間もなく、日が登る前にこの地を後にした。

 俺は寝ぼけているミタモを背負いながら、征伐隊の人達と行動を共にしている。


 出会った当初は夜更けであった事もあって、この隊の長である久矛殿以外の面々の顔をあまり見てはいなかったので、顔触れを改めて確認する。


 まず、一番体格の良い征伐隊の長である久矛殿。

 本名が、天月久矛アマツキヒサホコ

 そんな彼に仕えるのが足のよく見えない人の形をした迅という怪異。

 この隊の率いるだけあって、勿論その実力は一番上。

 何でも、生まれは数百年も続く由緒ある家系の血筋を引いているのだとか………。


 そして、この隊の長を支える側近。

 常に何処か上辺を向き何を考えてるのかよく分からない謎の女。

 九頭凪クトウナギ、久矛殿の懐刀を務める程の凄い人なのだそうだが、なんというか少し変わってる人。

 常に何処かのんびりしているというか、ミタモとは別の方面で自由人みたいな人である。

 そんな彼女の頭の上にはとぐろを巻いた白いヘビ、ぴーちゃんというヘビの怪異を連れ歩いている模様。

 可愛らしい名前を持つヘビではあるが、その名とは裏腹にさっきから寝ているミタモと俺の方をじっと見つめている。

 というかほぼ監視に近い、そして正直怖い。


 あまりの威圧的なぴーちゃんの監視に俺は思わず目を逸らし、もう一人の人物へと視線を向けた。


 「何?」


 「いや、ヘビに睨まれてるのが気になって」

  

 「そう………。

 まぁ、蛇に睨まれるのを好むの方がおかしいか」


 そう言い、俺に無愛想かつ刺々しい反応を示す人物。

 俺の横を監視のつもりで歩いているであろう茶髪の少女がそこに居た。

 いや、そもそも出会い頭から威圧的な態度、昨夜も久矛殿へ直談判していたのがコイツである。


 酒倉井千歳サカクライチトセ、なんとミタモが行きたがってたあの酒倉井を治める長の末っ子なのだそう。

 あの時は暗がりでわからなかったが、コイツは女。

 年はこの隊でも一番下の十四程、花嫁修行の一環としてこの征伐隊に入るよう言われたそうだが……。

 

 久矛殿は俺と同じくらいだとか言ってたが、一回り近く違うんだが……。

 まぁ、社会勉強で各地を巡る征伐隊なら野良の神畏よりは安全な立場なのだろう………。

 

 そして彼女に付いてる怪異は、先程から足元を付いてくるように歩く二つの尾を持った三毛猫。

 久矛殿から確かやっさんの愛称で呼ばれている、山國ヤマクニという猫の怪異である。

 

 「ほら、アイツやっぱり………」

 「だよねだよね、千歳もしかして……」


 「変なこと言うなぁ!!」


 そして、俺の後ろには先程から少し騒がしい男が二人。千歳の機嫌を損ね怒鳴られている始末。

 東雲亥シノノメカイ東雲煉シノノメレン

 双子の神畏という、こな界隈では珍しい存在。

 大体は長男以外とかが後継者争い等で常なのだが、双子で神畏をしているのは珍しく思う。

 この二人、性格や容姿こそ似てはいるが、見分ける方法があるらしい。

 それは久矛殿曰く、嘘付いた時に視線を右に逸らせば亥、逆なら煉なのだそう。

 

 正直出会ってばかりの俺には分からない、とりあえず常に一緒みたいなものだから二人の名前を呼べばいいらしい。

 ちなみに、凪は出会って間もなくすぐに見分けられたのだそう。

 そして、二人を未だに見分けられない千歳は彼等によくからかわれているらしい。

 まぁ妹みたいな扱いなんだろうが。


 そして二人に付いている怪異は、白と黒の熊みたいに大きな犬の怪異である。

 白い方が白風シロカゼ、黒い方が黒風クロカゼ

 この二匹はその恵まれた体格もあって、この隊の荷物持ちをしている。

 とても人懐っこくその愛嬌の激しさ故、世話をするのにとても苦労しているらしい。


 「思ったよりも賑やかな人達だな。

 向こうの奴等は皆が堅苦しい奴等ばかりなのかと思ってた」


 「そんなことないよな、煉?」

 「そうだね、亥。

 そりゃあ仕事なら厳格雰囲気出さなきゃだけどいつもそれじゃ疲れるからね。

 えっと、緋祓殿はこの辺りの生まれだったりする?」


 「ハルカでいい。

 一応、この東ノ国の生まれではあるがもっと北の方だよ」


 「へぇ、じゃあ千歳とは同郷かぁ」


 「同郷って言うほど近くはないだろう?」


 「それもそうか、ねぇ遥?

 このミタモって凄く強い怪異とはどうやって知り合ったの?」


 「色々あって牢屋にぶち込まれていたのを拾った」


 「牢屋って………、それヤバくない?」

 

 「神畏となる人間は、ある程度魂の力が身の丈に合う奴じゃないと務まらない。

 前に組んでた奴が居なくなって、その時の俺の魂の力と釣り合いが取れてたのがコイツだった。

 最初は組めたようなモノではなかったが、利害が一致してお互いの目的を果たすまでは協力すること。

 その条件で、俺は神畏を続けている」

 

 「前に組んでたって怪異はどうなったの?」


 「死んだよ、俺達の目的を果たせるあと少しってところでな………。

 亥、俺の腕のところを少しまくってみろ」


 「ああ………」


 そう言って亥は俺の右腕の方へと歩みより、腕のところに手を掛けた。

 そして、それが見えるとすぐに腕をまくったところをすぐに戻した。


 「コレ、もしかして?」

 

 「強い怪異だった、そして俺だけが生き残った。

 割と長い付き合いだったんだが、俺を庇ってソイツは俺の目の前で息絶えた。

 そして相方を殺された時に、どういう訳か以前よりも力を増して、皮肉にもコイツと組めるだけの力を得たんだよ」


 「そうかい………」


 「俺達みたいな野良の神畏は、余程のモノ好きか色々と訳アリな奴等か、俺みたいに復讐に明け暮れるような奴しか居ないのが常。

 特に、俺みたいなのはその力を変われて復讐の道中にて役所からの依頼を引き受けたりすることもある。

 こちらとしても、生活費はある程度欲しいからな。

 向こうも、俺達みたいな得体の知れない脅威はせめて手元で管理したいんだろうよ。

 そちらが俺やミタモの力を借りるようにな」


 「………なるほど、だからか」


 「何がだ?」

  

 「お前が俺達を信用してないくらい、お見通しだよ。

 まぁ、短い付き合いになるだろうが楽しもうぜ!」


 そう言って亥は俺の肩を軽く叩いてくる。

 そして、丁度ミタモは目を覚まし大きな欠伸を欠いたのだった。



 それからなんと、久矛殿に連れられ他の集落の様子を見回ること数日が過ぎた。

 結果、何も分からず俺を含めて征伐隊の人達は頭を抱えていた。

 

 しかし、この状況の中で唯一反応が異なっていたのが久矛殿とミタモである。

 時折、二人は何かを話している素振りが見受けられたが俺はというと亥と煉に連れられ二匹の犬の一緒に遊ぶよう誘われたりした。


 そして、俺を連れ出したのが久矛殿にバレた二人はというと後からまぁ強いお叱りを受けていた。

 この日の罰が今宵の夕食を抜かれた始末である。

  

 「全く、あの二人いつもあんな感じなのかよ………」


 「そうね、いつも賑やかよ」


 そう返したのは横で食器の片付けをしている、凪であった。

 そして、いつの間にか用意していたのか。

 握り飯四つと漬物数切れを唐突に葉で包み始めたのである。


 「二人の分ですか、ソレ?」

  

 「あの二人、アレでも良い仕事しているのよ。

 あの狛犬がいるから、余程強い怪異じゃない限り下手な邪魔立てはされない。

 だから、結構助かってるの。

 時々サボって遊ぶのが目に余るけど………。

 そういう時は私がこっそり夕食を届けてる、多分あの人はお見通しなのだけど……」


 「なるほど………」

  

 「千歳は多分まだ鍛錬しているだろうから、さっさと入浴を済ませるように伝えておいて。

 あの人達と一緒に入りたいなら別だけど……」

  

 「はいはい、さっさと入るように伝えてきます」


 凪に催促され、俺は外で鍛錬をしているであろう千歳の元へと向かった。

 暗い森の中で、木刀を振るう彼女がすぐに目に入る。

 あの年でよくやるなと関心を覚えるが、しかし力を入れ過ぎて身体の方が限界に来ているように見える。


 「千歳!

 凪さんから入浴さっさと済ませるようにだとよ!」


 「………うっさい!

 私は最後でいいの!

 片付けも自分でやる!!」


 「そうは言ってもなぁ………」

 

 「私を馬鹿にしているの、緋祓遥!

 私が女だから、まだまだ子供だから?!」


 「別に馬鹿にはしてないだろ、ただ俺は……」


 「嘘をつくな!

 体力も体格も実力ない事くらい私が一番分かってるの!!

 無理をしている私を見て、嘲笑ってるんでしょ?

 ねぇ、そんなに滑稽?

 弱い奴が、才能もない奴が、こうやってしがみつくしかできない様がそんなにおかしい?」


 「…………」


 「もういい、私に関わらないで!」


 年頃の反抗期みたいなものか……。

 何に焦ってるのか、俺には分からない……。

  

 が、このまま放置するのもな………。


 「仕方ない………」

 

 あまり気は進まないが、俺は近くにあった堅い枝を拾い上げ千歳の前に立ち塞がった。

  

 「何の真似?」


 「掛かって来いよ、千歳?

 強いんだろ、征伐隊に入ってるくらいなんだ?

 俺みたいな野良の神畏に負けるなんて事はありえない?

 それとも怖いか、酒倉井のお嬢様にはな?」


 「私を馬鹿にするなぁぁぁ!!!」


 そう言って、怒り狂うように俺に木刀で斬りかかる彼女。

 しかし動きは単純。

 感情任せで、そして体力も底を付いたも同然だ。


 だから俺は握った枝を捨て、振り掛かる木刀をいなしそれを彼女から軽く奪う。

 呆気に取られた彼女が体制を崩したのを見計らい足払いを掛けると容易く地面に尻を付いた。


 そして奪った木刀の剣先を千歳に向ける。


 「何で負けたか、分かるか?」


 「………私が、弱いから?」


 「そうだな、弱いからだ」

  

 「…………」


 「ほんと、頭に来る……。

 それだけの強さ、才能、実力………。

 全部持ってて、ほんとに………」


 「覚えてるか?

 最初に出会ったあの集落を出た時、俺が言った事を」


 「ミタモって人が凄く強い怪異だって事?

 それに釣り合ったあなたの力が、魂がとても強かったって事?」


 「違う」


 「じゃあ何?」


 「俺は前に組んだ奴を失ったから、今はこうしてミタモと組んでいるんだ。

 俺は強くない、お前が羨ましいと思うような力があったなら、俺は今ミタモと組んでる訳がないんだからな」


 「…………」

  

 「強さに固執するのは分かる。

 だが、目的だけは見失うな。

 お前にどんな過去や理由があって何の目的を果たしたいかは俺には知ったことじゃない。

 だが、その目的を果たす為に今お前がするべき事は何だ?

 その身体で今のお前で、その目的が果たせるのか?」


 「それは………」

 

 「どうすれば強くなれるか、少なくとも今こうして一人で無茶をするよりはもっと良い方法があるだろう?

 久矛殿や他の征伐隊の面々を頼ればいい、まぁ今はとにかく身体を休める方が先決だ。

 明日も朝が早い、この隊の一人なら最低限彼等の迷惑にならないようにしろ」


 俺は木刀を下ろし、彼女を置いてそのまま立ち去った。

 これから彼女がどうするかは、本人次第。


 さて、これが吉と出るか凶と出るか………

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