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最終話 道が再び交わる日まで

 「よーし、みんなおつかれ様!

 今回の遠征、無事完了です!」

  

 久矛さんの言葉に、煉と亥は喜びを両手を上げて喜びを全身で表現する。

 

 「「よっしゃー、遠征終わりぃぃ!!」」


 「相変わらず騒がしいわね。

 全く、その元気でもう少し真面目にやってくれたら」


 「あはは……」


 酒倉井での出来事から二ヶ月後、私達はようやく出発地点であるミヤコへと無事帰還することが出来た。

 故郷での事件以来、他の集落にも幾つか立ち寄ったが、以前のような大きな案件に関わることはなく私達はミヤコへと戻ることになった。

 

 「報告書は俺が代わり出しとく。

 あーそれとだ………」


 すると久矛さんは懐から財布を取り出し、金貨を三枚程取り出すとそれを凪の方へと手渡したのだった。

 金貨三枚なんて、それだけあればこの隊が一ヶ月は食うに困ることがない大金である。


 「凪、これであいつらと好きなだけ食ってこい。

 お金の管理は任せる、釣りは要らない」


 「いいの、私に任せて?」


 「頼む、俺はちょいと行くところがあるんでね」


 「……分かった。

 じゃあ貴方達、どうやら全部彼持ちらしいから厚意に甘えて好きなだけご馳走になりましょう?」


 久矛さんと凪さんの言葉に、後ろの二人はより騒がしくなっている。

 道のど真ん中で、犬二匹も交えて騒ぎ始めていた。


 「貴方達、いい加減しなさい!!

 ぴーちゃんに噛ませるわよ!!」


 凪さんの気迫に怯え、男二人と犬二匹は一目散に逃げていく。

 そして二人の後を私も追う。


 「みんな待ってよぉぉ!!!

 置いてかないで!!!」


 ひとまず旅の一つが無事終わった。

 次の遠征は何処へ向かうのだろう。

 そう遠くない内、でも以前ような私じゃない。 

  

 今の私ならきっと乗り越えられる。

 いや、乗り越えなくちゃ私は彼等に追いつけない。


 彼等は今、何処で何をしているのだろうか?



 ミヤコの通りをふらふらと歩きながら、俺はお目当ての場所へと向かう。

 遠征帰りどころか、暇さえあれば毎日のように通う食堂へと足を運ぶ。


 連日大盛況の人気店。

 今日はこの後すぐに役場で遠征の報告をしなければならないから、持ち帰りで団子を三串注文。

 凪達に金を渡して少々懐が寂しいのが辛いが、まぁ今日くらいは良いだろう。


 団子の入った包み持って役場へと向かう中、後ろから誰かの視線を感じた。


 「…………居るんだろ、タマモさん?」


 「へぇ、流石。

 もう私に気付いたんだ?」


 声の方向を振り返ると、子供の背丈程度の小娘がそこに居る。

 しかし、妖狐特有の獣の耳とか普通の人間にはない尻尾とか色々と特徴的なモノが垣間見える。


 「そりゃ、あれだけ暗躍されて貴方の存在を疑わない訳がありませんよ」


 「ふーん………」


 「この団子を一本分けますので、少々お話を伺っても良いですかね?

 流石に説明の一つや二つは欲しいので」


 「………いいよ、あの店の団子に免じてね」


 それから近くの長椅子に腰掛け、団子を一串彼女に渡すと真っ先に一つ口に含んだ。


 「このお店のお団子美味しいよね?

 他のも勿論美味しいんだけど、私は昔からこのお団子が特に好きなんだよね」


 「どこがそんなに気に入っているんです?」


 「あのお店って、実はミカちゃんの母親が残したお店なんだよ、知ってた?」


 「ミカの母親のお店ですか………」

 

 「そ、私がミカちゃんをお役目に誘った後にあの子の母親はいつかあの子が戻ってきた時の為に何かを残してあげたいと考えていたの。

 その時、たまに夕飯とかご馳走になってた私が料理が美味しいから食堂とかやってみたらどうって言ったの。

 要は、あの子がいつ戻ってきても生まれ育った我が家の味を残してあげたかった。

 そんな願いが、今もこうして残ってた訳。

 このお団子とか、昔から何一つ味が変わってないよ。

 作り方を当時から何一つ変えてないみたいだから」


 「そうですか………」


 「それで、貴方の質問は何かな?」


 「酒倉井の件、どれくらい貴方の予定通りでしたか?

 硫黄の件も、ミカの件も大方そちらで何か企んでやったことでしょう?

 全く、随分と悪趣味なことをしますね?」


 お互いに団子を頬張りながら、そんな軽口を叩き合う。思うところは当然あったが、俺が何か言ったところでこの女狐に響くとは思えない。

 戯言の一つで流されるのがオチだろう。


 「あれしか無かったってのが本音かな。

 私の目的を果たすこと、ミカちゃんや千歳ちゃん、秋重ちゃんに水獺ちゃん。

 それぞれの目的を果たす為に最善の策だった。

 ミカちゃんは、酒倉井からお役目を消したかった。

 千歳ちゃんの為にね?

 秋重ちゃんは、酒倉井の財政について取引先に弱みを握られていたのと、これまでの余罪の一切の責任を取るとのことで、私が送った使者との取引及び彼の命を担保に取引をした。

 水獺ちゃんの方は、私の目的を果たす為に利用価値があったから側に置いてたってところ。

 自分勝手に部下を切り捨てたり妹ちゃんを手助けしていた問題行動もあったみたいだけどさ………」


 「なるほど、あの商人はその為ですか」


 「彼に会ったんだ?

 で、今回の事件のご感想は?」


 「最悪ですよ、全く。

 悪趣味にも程がある」


 「言うと思った。

 まぁ、仕方ないよね」

 

 そう言うと団子を食べ終えた彼女は、食べ終えた串をこちらに手渡しゆっくりと立ち上がる。


 「ふぅ、休憩終わり!

 私、今ちょっと立て込んでてね。

 ほんとはおサボしてる余裕なんてないんだけど」


 「はぁ、一応聞きますけど。

 今度は何を企んでいるんですか?」


 「今度さ、高天原タカマガハラで行われる巫女の選定祭があるって言えば分かる?

 私、今とある子のマネージャーやってるの」


 「巫女の選定祭ですか、もうそんな時期に……」


 「半年後だけどね、忙しいんだよほんとに。

 選定祭が終わっても、全国巡礼もあるわけだし?

 だから予算とか人手やら、何かしらの後ろ盾が沢山欲しかった訳なんだ」


 「なるほど………、それで酒倉井へ商人を送ったと」


 「正解、とりあえず財源とかスポンサーは取れた。

 あとは、日程の調整とか巫女の特訓に付きそうとか色々と大変なんだよ私?」


 「みたいですね」


 「そうそう。

 あっ、そうだ?

 ミタモちゃん達に、例の封筒は渡したよね?」


 「確かに渡しましたよ。

 あの中には、何が書かれているんです?

 まさか本当に片腕の動向に関しての記述が?」


 「さあ、どうでしょ?」


 すると、タマモを探していたのか彼女の部下と思われる者の一人がこちらへと近づいてくる。

 狐の面を被った女だ、例の商人とは別人のようだがあの背格好や体格、声……見覚えがある


 「探しましたよ、タマモさん。

 全く、こんなところで何を………あ……」


 「ん………君は、俺を知っているのか?」


 「あー、その………えっと………」


 すると、タマモは彼女の方へと歩み寄り狐の面を彼女から無理やり剥ぎ取り素顔を露わにした。

 そこには、ミカが居た。

 そう、あの時………ミタモが確かに殺したはずのミカのかおが確かにそこに存在しているのである。


 「な………何故……ミカがこんなところに……?

 いや、お前は確かにミタモが殺したはずでは」


 「あの、そのえっと……これにはその」


 「えっとね、久矛ちゃん。

 この子はミカの本体、正真正銘本物さんだよ。

 例の封印があったでしょ?

 アレの中に残っていたみたいなんだよね?

 戦いの最期、その封印の力が弾けて一時的とはいえ空間が全部水で満たされたでしょ?

 あの時、千歳ちゃんの力とミカちゃんの力が上手いこと働いて封印されていた厄介な怨念達が上手く中和されて純粋な怪異の力の依り代として機能した。

 その結果、元々封印内部に存在したミカちゃんの自我と依り代が組み合わさって、復活した訳?」


 「なるほど………。

 つまりその、あの時のミカ様は死んでなかったと?」


 「うーんその辺りはえっとね………」


 「えっと、私から直接説明しますね」

 

 そう言って、ミカ本人がわざわざ説明をしてくれた。

 

 「私はその、厳密に言えば千歳さんの母親だったあの方とは別の人格と表現するのが正しいですかね。

 別の人格なので、勿論表に出てくることはあると思いますが主人格として私が存在していますので………。

 今は私がミカとして表で活動しています。

 向こうの彼女は時が来るまでは大人しくしたいらしいですね。

 私もその、酒倉井では死んじゃったことにされたので住む場所も困ってたところをタマモさん拾われて、現在に至っております」


 「あはは……なるほどな、

 なんでもありってわけか、流石怪異。

 いや、畏れが強いから出来る荒技か」


 「そういうこと、それじゃ私はお仕事に戻るね。

 それじゃ、久矛ちゃん?

 また何か分かったらよろしくね」


 立ち去ろうとする彼女に、俺は再び呼び止める。


 「最期に一ついいいか?」


 「何かな?」


 「ミタモのことは聞かないのか?

 一応、身内のことだろう?

 ほんの少しも心配はないのか?」

  

 その問い投げた瞬間、これまでの余裕そうな表情が一変し冷めた視線をこちらへ向けてくる。

 その気迫のあまり、俺は手に持っていた団子の包みの落としてしまった。


 「例の封筒が渡ったのなら無事なんでしょ?

 それが分かれば十分。

 私に追いつけなきゃ、あの子は自分の目的も何も果たせやしないんだからさ?

 わざわざ回り道して、片腕のあの子から逃げてるんだから本当に救いようのない馬鹿な女狐。

 それが答えかな、それじゃまたね」


 そう言って、タマモ達は俺の目の前から去っていく。

 

 「全く、腹の底が見えない奴だよ。

 はぁ、団子が一つ無駄になったな」


 落ちた包みと団子を拾い上げ、肩を下ろすと地面の砂が付いてないところだけでも食べれないか僅かに悩むが、俺はすぐにその考えを振り払う。


 遠征の報告の為に、俺は役場へと足を急ぐのだった。


 

 日は沈んでいく。

 寝床の確保の為に近くの集落に赴いたものの外の神畏である俺達は門前払いを受けた。


 しかし、わがままをゴネる女狐に押され、適当な空き屋、この際馬小屋でもいいから寝泊まりさせてくれないかと額を地面に擦り付けて頼み込んでどうにか今日の寝床を確保した。


 幸い、俺達の事情汲み取って今晩限りということで空き家での宿泊が許可された。

 五日振りの風呂や温かい布団に包まれ、まさに至高の一時すら感じていた。


 同じ部屋で並んで布団を敷いていることにも慣れた。

 最初こそ緊張した頃が懐かしい。


 今ではコイツのイビキが煩いと文句を垂れる余裕すら出てくる。


 「はぁ………今日も手掛かり無しか」


 「この先で本当に合ってるのか、小童よ?」

 

 「地図的には合ってる。

 奴の予想経路からして、このまま南西に向かって進むのが正解だろう。

 だが、気掛かりがある」


 「向こうに何かあるのか?」


 「このまま進むと高天原タカマガハラなんだよ。

 俺の記憶だとアレは鬼の里だ」


 「鬼か………厄介だな。

 アレはまさに恐怖と力による、怪異の中でも随一の弱肉強食至上主義のところじゃ。

 しかし、高天原と呼ばれておるのは初耳じゃ。

 そもそも高天原なぞ、神の居る天上の楽園みたいなところを指す場所じゃろ?

 何故鬼の里なんかに」


 「そんなの鬼の里に決まってるからだろ?」


 「何を言っておる?

 鬼と言えば、楽園は愚か地獄の番人そのものじゃ」


 「だから、いつの時代の話だよ、それ?

 鬼の里って言えば、俺達の時代じゃ芸能関係の聖地。

 何なら、外の国と繋がって異国の文化を取り入れてミヤコに勝るとも言える発展を遂げた一大都市だ。

 弱肉強食至上主義だなんて、お前いつの話をしているんだよ?」


 「………何かの冗談じゃろ?」


 「冗談だと思うなら、ついでに見に行くか?」


 「ふん、そこまで言うなら受けてやろう!!

 もし本当にお主の言う通り高天原での滞在中は酒を一切口にしないで過ごしてやるわ!」


 「はいはい、ご勝手に。

 もう今日疲れたんだ、明日も早いんだぞ」


 「ああ、そうじゃな」


 そう言って会話が途切れるが、しばらくして声が聞こえてきた。


 「起きてるか?」


 「いい加減、寝ろ」


 「お主に言われたくない」


 「そうですかい………」


 全く、コイツは一体何がしたいのだろう?

 正直、何年と過ごして分からないことが多い。


 厄六とか、見廻り組だとか、それこそこの間の酒倉井の件だとか色々と聞きたいことは山程ある。


 「…………。

 なぁ、どうして俺について行くと決めたんだ?」


 「さあな、そんなの知らん」


 「…………」


 「生意気じゃ、全く……あやつも、お主もな」


 度々、ミタモは俺にそんな言葉を漏らす事がある。

 以前組んだ神畏としての頃の話。

 殺した相手の事を、今もたまにふと呟くことがある。

 

 いつか、それを知る時が来るのだろうか?


 それとも、先に復讐を果たすのが先なのか?


 俺が先に死ぬのが先なのか?


 それはその時じゃなきゃ分からない。


 いや、そういや同じなのかもな………。

 俺も、俺自身のことを何一つミタモには言っていないのだから。


 「………、そうだな。

 生意気なのかもな、お互い……。

 んじゃ、今度こそおやすみ」


 そして、俺達はそのまま眠りについたのだった



 この世には人と人ならざる者、怪異が居る。

 

 怪異は人に恩恵を与える。

 故に人は怪異を信仰した。


 怪異は人に厄災を与える。

 故に人は怪異に恐怖した

 

 人と怪異が一対を成した存在は神畏と呼ばれた。

 

 神畏とは、世の理を守る者。


 これは、そんな神畏達の物語の一幕に過ぎない。


 

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