表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/54

第五十二話 その手、想い、繋ぎ

 意識が現実から遠ざかっていく。

 身体の力が抜けていき、思うように動けない。

 目の前には確かに存在する、自身の母はかつての自我を失い獣のように暴れていた。


 そして、外から来た神畏の一人が、今まさに母上を止める為に決死の覚悟で戦いに挑む姿。


 家族だったはずのその人はもう居ない。

 あの時の優しき面影を失い、植え付けられた意識に従って暴れ続ける。


 僕はソレを目の当たりしても止められない。


 僕は弱い、あの時から何も変わってない。


 故に、僕はまた失敗するのだろう。

 

 かつて父を手に掛けたように、取り返しのつかない失敗をまた繰り返してしまうのだ。


 「…………僕は………」


 かつて実の父親を手にかけた報い。

 コレがそうなのか?

 いや、それ以前にも母親を救いたいが為に人を殺しその肉を与え続けたこと……。


 他にも思い当たるような悪行を数え始めたのなら、それこそキリがないだろう。


 自分の運命、いずれは死ぬ。

 ろくな最後を遂げない事など分かっていたが……。

 それは結局、自分の命だけで済むだろうと甘い考えをしていたからこその愚かな考えだ。


 「カエシテカエシテカエシテカエシテ……!!!」


 何度も目の前の母上はそう叫んでいる。

 結局、あの人が返して欲しいモノとは何なのだろう?

 

 黒の怪異?

 それとも、昔の酒倉井の民?

 僕が殺した、父親である黒鼬?

 それとも自ら手をかけた、兄上の秋重か?


 僕には分からない。

 母上が結局、何を望んでいた分からない。

 何がしたかった分からない。


 「…………僕は……」


 腹を貫かれても、それでも僕はその身体を無理やり動かそうと抗うしかない。

 これは報いだ、僕の責任だ。

 僕の罪だ。

 

 だから、果たさなきゃいけない。

 母上を止めなくてはならない。


 「母上を守る為に……」


 そうだ、守らなきゃいけない。

 何百年と母上が守ろうしたこの地を、僕は守らねければならないんだ。


 手を伸ばした、そして再び刃を手に取る。

 そして、敵をその目で捉える。


 「母……上………、僕は……必……ず……」


 踏み込もうとするも、力は上手く入らずそのまま倒れてしまう。

 意識が遠のく中、何処からか力が流れ込んでくる感覚を僕は覚えた。


 何処から来ている?


 そんな疑問を晴らす為に辺りを見渡すと、僕の近くに歩み寄る見知った少女の姿がそこにはあった。


 「もう誰も失いたくない。

 後悔したくない、だから……死なないで……」


 「どうして、お前が………?」


 此処に居るはずのない者が其処にはいた。

 

 「私は母上を助けたい。

 だから、私に、私達に力を貸して下さい……」


 「ああ、そうだな………。

 僕も………同じだ、共に母上を助けよう、千歳………」



 「くそっ!!

 何なんだよ、コイツ等は!!!

 ミタモ、こんなの聞いてないぞ!!」


 ミカからの猛攻が激しくなる中、突如として彼女の周りから傀儡と貸した死体の落ち武者達が現れ始めたのだ。

 ミカへの反撃の兆しが見られた直後、その内の一体に注意が逸れて間もなく、正面から囮に向かったミナウセがミカの攻撃に身体を貫かれ致命傷を負ったのである。


 そして、まだ倒れている久矛や凪が目覚める気配もなく徐々に例の落ち武者達に囲まれていく。


 「ミタモ!!!」


 「妾のことはいい!!

 後ろの輩は妾がなんとかする、じゃからお主は少しでも時間を稼げ!!」


 「稼げって言われてもなぁ!!」


 そう、今はミタモから受けた力が残っている。

 しかしそう長くは保たない。

 既に本来なら尽きている程の時間が経過している。

 力の補充をしなければ、いつ解けてもおかしくない。

 

 そうなれば、確実にここで俺は死ぬ。

 生身の身体ではミカは愚か、ミナウセにすら劣ってしまうのだから。


 俺一人の力はせいぜい人間の内での括り。

 他の怪異と比べれば、程度が知れている非力な存在。


 分かっている、だから神畏になる道を選んだ。

 

 怪異と戦う為に、己の目的を果たす為に。


 「くそっ!!!」


 何が起こっているのか俺には分からない。

 ミカ本体だけでなく、アレを取り巻くように現れた死体の兵達……。

 酷い腐敗臭を放ち、それでも俺達に対する敵意は強く襲い掛かってくる。


 一体一体の力は弱い、それでも数が多い。

 

 何か手立ては無いのか?

 このまま戦い続ければ押し切られる。


 ミタモは前線で戦うのは厳しい、力の補充にもここからでは距離がある。

 向かうまでに、ミカに対しての警戒が逸れれば敵に主導権は全て渡ってしまう。


 即ち、その時点で俺達は仲良くお陀仏だろう。


 「正直ここで死ぬのは嫌なんだがな………」


 刀を構え直し、ミカの方を見据える。

 すると自我を失いながらも、憎悪の感情をその身から昂らせ全身瘴気を放ちながらこちらを睨んできた。


 「…………ふぅ………」

 

 肺に残った微かな息を吐き、俺は深く息を吸い精神を落ち着かせ、全身の神経を研ぎ澄ませていく。


 「落葉一刀流………」


 ミタモから受けた力の残量からして、あと二回分。

 そこから、どうやってこの状況を打開する?


 「カエシテ!!!」


 怪異の叫びと共に、その手から攻撃が飛んでくる。

 ゆっくり、僅かに身体を右に揺れるように踏み込みその攻撃を回避する。


 「ワタシノコドモヲカエシテ!!!」

 

 叫びと共に、取り巻きと化していた死体の兵達が一斉に俺に向かって飛び掛かるも、攻撃が集まった好機を逃さず、己の技を一つだけ振るう。

 

 「堕刃散々……」


 技の名を告げた頃、俺は全ての動作を終えミカの目前へと間合いを詰めていた。

 程なくして、俺を殺そうとした兵達は、枯ちた木の葉の如く木っ端微塵に血肉が四散した。


 落葉一刀流の持つ最奥の技。

 堕刃散々(オチハサンサン)。


 自身を中心に周囲七歩前後を対象として放つ七十七の絶技の太刀。

 ミタモからの助力を受けなければ放つことの出来ない、俺の奥の手の一つ。


 切り札の一つを放ちつつも、ミカの首に向かって己の刃を振るう。

 いかに強い怪異であろうと、頭を落とせば死ぬ。

 

 問題はこの一撃は、ミカの力によって己の身体を水とすることで回避されるということ………。


 「そんなの端から分かってる!!!」


 刃を振るう、当然怪異は身体を水に変えて俺の太刀筋から免れ姿を眩ました。

 だが、勝ち筋はあった。


 その可能性を俺は見い出したのだから。


 「さっさと起きやがれぇぇ!!!

 ミナウセ!!!」

 

 四散した兵士の血肉が怪異の居場所を示していた。

 そこだけ綺麗な水の塊が、魚影の如くその姿を晒していたのだ。


 ミカは、水の怪異。

 身体が水に変わるとしても、水は水のままだ。

 つまり土や泥、血とか諸々があろうとも水の怪異であるミカそのものが混ざることはあり得ない。

 

 水の怪異なら、水が力の源。

 水の穢れれば怪異の力に大きく影響される。

 外から力が得られても、その本質は変わらない。


 水の怪異である以上、水でなければ怪異としての自我は保てないはずだから。


 「ああ、この好機は逃さない!!」

 

 俺の視界の先には、怪異の姿を捉えたミナウセの姿。

 そして、そんな彼の横に並び立つ千歳の姿がそこにはあった……。

  

 短刀を握り、水の塊に向けてミナウセは短刀を振るい、怪異に向かってその刃を振るい落とす。


 「■■■ー■■ー■■■■!!!」


 洞窟内を貫くような衝撃と、声にならないような怪異の叫びが瞬く間に広がった。

 間もなくして、刃を振るったその場所が大量の水が溢れてきたのである。


 それは一瞬の出来事。

 俺達が気付いた時には既に遅く、濁流の中に俺達の姿は消え去ったのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ