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第四十九話 力の差

 ミタモが千歳の力を感じるという方向へと案内され、俺達は人質とされた彼女を救うべく先を急いでいた。

 そして千歳の気配が近くなると、洞窟の入り口付近で気絶している千歳と、征伐隊の一員である煉と亥、その連れである白風と黒風の姿が見えたのだった。


 「お前達、千歳は無事だったんだな!」


 征伐隊率いる久矛が、彼等の姿を確認すると真っ先に彼等の元へと駆け付け状況を確認していく。

 千歳の無事を確認、そして征伐隊の彼等も無事。

 彼女の無事に俺達は安堵するが、隊の副官を務める凪の姿は何処にも見当たらない。


 「亥、状況はどうなっている?

 秋重殿と、凪の姿が見えないようだが……」


 「凪さんは現在、洞窟の奥でミカと名乗る存在と交戦中です。

 秋重殿は、ミカによって殺された模様……」


 「ミカの生存は確かなんだな?」


 「そうですね………、俺達も加勢するべきでしたが彼女の足手まといになりかねません。

 千歳の無事と回収が最善でしたから………」


 「………、了解した。

 お前達は此処で千歳と待機していろ。

 君達はどうする?」


 久矛の視線が俺達へと向かう。

 俺とミタモは当然ついて行くに決まっている。


 もう一人のミナウセの方ははどうするのか?

 

 俺が尋ねるまでもなく、彼は答える。


 「僕も母上の元へと向かいます。

 アレが今や本当の母上でなくても……。

 それでも、家族としてやるべき事を果たす」


 「了解した、では行こう。

 迅、そろそろ隠れてないで出て来い。

 近隣の警戒を解き、俺の側から離れるな」

 

 彼の掛け声間もなく、久矛の足元の影から彼に仕えている怪異の迅が姿を現す。

 表に出たところを見るのは数少ないが、実力は相応にあると感じる。

 するとその怪異は間もなくして、黒風の方へと近づきその頭に触れた。

  

 「何をやっておるのじゃ、あ奴は?」

 

 「記憶を読み取っているんだよ。

 彼の持つ能力の一つだと思ってくれればいい。

 アイツ、言葉は上手く発せないが相手の記憶や意思を汲み取る能力が極めて高い怪異なんだよ。

 普段は離れて辺りの警戒とか、野営の際の護衛だったり裏方仕事が主なんだが。

 今回は俺も出ないと流石に不味いかもしれないからね、だから直接呼んだ訳だよ」


 「なるほど………。

 人の形に近いのに言葉を発せない怪異……。

 それで、何で犬に触らせたのじゃ?」


 「これから暗い洞窟の奥へと向かうのに、道に迷っては元も子もないからね。

 黒風の記憶から奥地への道を確認しているんだ。

 さて、凪のことだからあまり無理はしないとは思うけど、相手は一応そこの二人が逃げるくらいの力を持ってる訳だ。

 ミナウセ君、君の母上に武の心得とかは?」

 

 「僕の記憶上、戦ってる場面を見たことがない」


 「了解、つまり怪異としての力任せか………。

 下手に剣技やら槍とか使われるよりはマシだが、水の怪異がその属性に特化しているのは厄介かもしれない。

 それじゃ、黒風と白風に頼みがあるんだが………。

 一度三人を奥まで運んで欲しい、戻ったら今度ミヤコに戻った時に美味い肉をたらふくご馳走してやる。

 迅、奥までの経路を確認次第、先行して俺と共に凪の救援に向かう。

 そろそろ出れるか?」


 「…………」

  

 迅が黒風から離れると、彼は頷き久矛の方へと歩み寄り彼の後ろへと向かい、再び彼の影の中へと戻ってしまった。

 え、何もせず戻った?

 しかし、久矛は動じないどころか問題ないと、そんな余裕そうな表情を浮かべていた。


 「それじゃ、俺は先に向かってくるかな。

 二匹共、三人をよろしく!」

 

 そう彼は告げると、洞窟の方へと視線を向け間もなくするとそこに何も無かったかのように姿が消え去った。

 


 「…………ここか?」


 外の彼等と分かれて間もなく、俺は凪の待つであろう洞窟の最深部へと到着する。

 奥に近づくにつれて、肌を刺すような威圧感を感じ俺は本能的に事態の不味さを認識した。


 そして、俺が最深部へと到着して間もなく何かが俺に向かって飛んできて俺はそれを抱き抱える。


 「っ………凪か?」


 「………遅過ぎ、あとのことはお願いするわ」


 抱き抱えて間もなく、彼女は俺にそう告げると意識を失い気絶する。

 見たところ、左腕は折れ、刀を握る方の右手を紐か何かで無理やり縛りつけ握っている様子。


 命が繋がっているだけマシだと言えた。


 「………で、あんたが千歳の母親か?」


 彼女を抱えながら向こうに存在するソレが俺の視覚に入り込んでくる。

 燃えるような力の瘴気に身を包んだボロボロ喪服姿のナニカがそこに存在していた。


 「………カエシテ……カエシテ………」


 「…………意思疎通は怪しいな。

 凪がやられた辺り、外に出すのは不味いだろう」

  

 気絶した彼女を近くの壁に置き、俺は改めて目の前のソレと対峙する。

 自身の刀を引き抜き、戦闘態勢に入るも向こうから動く気配はない。


 「カエシテ、カエシテ………」


 何度もそんな言葉を呟き続けていた。

 明らかに俺が知る怪異とは別のナニカであることは明白だと言えよう。

 強いて言うなら、アレは人の怨霊のソレに近い。

 黒の怪異、事前に聞いていたモノとは大きく異なるソレの力が目の前のアレに入り込んでいるように見えた。


 大方、黒の怪異と定義されたモノではあるが実際には関係のない、それでも警戒しなければならない存在として封印されていたのだろう。


 「…………っ!!」

 

 こちらが踏み込もうとした瞬間、自身の視界が反転する。

 身体が宙を舞い、天上に叩き付けられそのまま地面に叩き落されたのだ。

 突然の出来事に俺の理解が追いつかず、この事実に気付いた頃には地面に叩き付けられた頃だった。


 背中の骨が折れた、あるいはヒビが入ってもおかしくない出来事だろう。

 立ち上がる事も困難な中、俺の体内に入り込んでいる怪異が背中の方へと回り込み、身体の組織を補強し歯を食いしばりながら無理やり立ち上がる。


 「ワタシノコドモヲカエシテ………?」


 「おいおい、正気かよ………」


 これは撤退案件、予想外の一撃とはいえ正面から直接戦うには流石に厳しい。

 いや、だが何の策も無し来たわけじゃない。

 やるべきことは決まっている。


 俺は始めから、一人で解決しようなんて思ってないのだから………。


 「………カエシテ!!」


 「っ………そう言われても!」


 頬を掠めるように、水と思われるソレが俺の身体を通り過ぎていく。

 正面から受ければ、さっきの二の舞い。

 次に当たれば、多分死ぬかも。


 「俺には何のことだか分からないな!!」


 一歩、一歩と踏み込み俺は目の前の怪異との間合いを詰め、全力で斬りかかる。

 本能的になのか、向こうは俺の振りかざす刀に対して右手を出し受け止めようとするも、俺の刀はソレを貫きそのまま首を捕らえた。

 

 しかし手応えはない、水を斬ったかのように俺の攻撃は空を切ったのである。

 いや、違う。

 目の前の怪異の身体が水と化し、俺の刃が通り抜けた瞬間だった。


 コレに、凪は負けたんだろうな………。


 この事実を認識して間もなく、思わず呆気に取られた俺は怪異の左手に俺の身体が触れられる。

 すると、そのまま怪異の力によって吹き飛ばされていたのだった。

 

 

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