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第四十五話 家族でした、そうでした

 屋敷を抜けて、俺達はミタモの案内にされながら秋重の元へと向かっていた。

 俺と、ミタモと、ミナウセと、そして久矛。

 どういう因果か、何とも言えぬ組み合わせ。

 

 久矛とミナウセは対面が初めて。

 俺とミタモからは、とりあえず千歳の兄だと伝えた。

 本人からは特に何もなし。

 

 「なるほど、秋重殿とはどういう関係で?」


 「秋重は僕の兄だよ。

 千歳と同じく、僕等三人はミカの子として生まれたはずだと思っていたのだが。

 兄上は自らを黒の怪異の子であると言っていた。

 正確には、封印されたアレの力が母上の身体を乗っ取りその身体から生まれたということ。

 怪異は人間とは違って魂の繋がりが血縁以上に作用してくるみたいだからな……」


 「了解、大体把握した。

 それで、君のお母さんは今何処に?」


 「恐らく、兄上が現在そこに向かっている。

 女狐はその為にわざと千歳を攫わせたみたいだが」


 「とにかく、さっさと終わらせるぞ。

 早くせねば、本当に取り返しが付かなくなるからの」


 「今、どの辺りに千歳達は居るんだ?」

 

 「現在はこの距離と方角くらいじゃと例の封印がされておる洞窟の入り口手前辺りじゃな。

 つまり奴等は、何らかの方法で千歳を利用しアレの封印を解くつもりじゃろうな……」


 

 最初に感じたのは温かい何かがあった。

 大きな背中、小さい頃からずっと見てきた姿。

 けどいつの間にか、少しだけ小さくなった。

 あんなに大きかった背中が、小さくなってる。

 

 「…………父上?」


 「…………」


 何をしてたんだっけ、私?

 そうだ……確か私はミタモ達と一緒に……。

 

 朧げな意識が鮮明となり、私は力を振り絞りその背中から離れる。

 薄暗い何かの通路、しかし人の手が全く入り込んでいない訳でもなくそれなりの規模を持った広めの洞窟。

 何かの灯りに通路は照らされ、此処が何か特別な場所へと繋がるであろうことはすぐに理解出来た。

 

 「っ………千歳?!」


 「此処は何処です?

 それに、ミタモ達は………」


 「………」


 「答えて下さい、父上!

 どうしてこんな真似をしたんですか!!

 それに、此処は一体何処で………」


 「知りたければ、自分に付いてくるといい。

 ソレを見て千歳自身で判断するといい」


 「………」


 警戒心を露わに、私は腰に控えた木刀に触れるが父上は何も言わない。

 無抵抗で、敵意は無くて私に何も言わず、答えずそのまま通路の奥へと向かっていく。


 私は仕方なく、父上の後をゆっくり付いて行った。

 すると、ぽつりぽつりと言葉を話し始めた。


 「随分と大昔のことになる。

 この地は昔から水の資源に乏しく、長らく飢饉に晒されていた。

 民は水に、食料に飢えて苦しんでいた」


 「知ってるよ。

 それから母上がこの地に訪れてようやく今の酒倉井の平和を生み出した。

 集落の全員がソレを知ってる、だからこの地の民はみんな母上を感謝していたの……」


 「ソレより前の事は知ってるか?」


 「母上が訪れる前?」


 「そうだ、ミカがこの地に訪れる遥か前のこと。

 飢饉など何処でも起こりうる出来事で珍しくもなかった。

 しかし人々は何もしなかった訳じゃない。

 水を雨を食べ物を、恵みを求める為に様々な手を当然尽くしたのだ。

 その際のとある儀式の際にこの洞窟が掘られたのだ」


 「とある儀式?」 


 「そう、要は恵みを受ける為の儀式だった。

 儀式とは、この集落では古くから毎月何人かの生贄がこの洞窟の奥へと捧げられたのだ。

 そこに住んでいたとある怪異に餌を与え、その怪異が与える恩恵にこの地の人々はすがっていたのだ」


 「…………」 


 「しかし、その噂を聞きつけたとある神畏によって怪異は倒され生贄の儀式は無くなったのだ。

 しかし、倒された怪異の力によって受けた恩恵は無くなってしまった。

 それからはお前の知るように時が経つに連れてミカがこの地に訪れる以前の惨状と成り果ててしまった」


 「でも、母上がソレを解決してくれた。

 既に終わった事じゃない、それが今更何だって言うの?」


 「怪異が討伐されて以降もしばらくの間はこの集落において生贄の儀式は続けられたのだ」


 「え?」


 「そうだ、何度も、何度も続けられた。

 一度や二度ではない、何度も続けられたんだ。

 そんな生贄の数は日に日に増えていく。

 無駄だと分かっていたのに、それでも人々は再び恵みを受けたいが為に生贄を与え続けたのだ

 あの怪異は昔から子供を好んで食べていたらしい。

 故に多くの子供、赤子が生贄として捧げられた」


 「…………」


 「この地の人間が怪異の恩恵に頼り過ぎた末路。

 その報いある日を境に唐突に訪れることになる」


 「それが黒の怪異なの?」


 「それも、アレの呼び名の一つ。

 この地に眠るものがあの女狐からどのように教えられたかは知らないが、此処に眠るのは黒の怪異と呼ばれた物の一つ。

 元は一つであったそれが分かたれたものではなく、アレ一つ一つが黒の怪異と呼ばれた存在だった。

 飢雨キウ、それがこの地に封じられた者の名だ」


 「キウ……、黒の怪異……、キウ」


 「そして、我等の母は飢雨の魂の一部がミカの身体に入り込んだ事で現在の彼女に至ったのだよ」


 「え………?」


 その言葉に私は耳を疑った。

 母上がキウ?

 何を言っているんだ、父上は……?


 「さぁ、この先だ。

 向こうで、我等の母がお前を待っている」


 そして、気付けば最深部と思われる何かの光が見えてきた。

 大きな結界のようなモノに包まれた黒いナニカ。

 そして、その前に立つ誰かの後ろ姿。


 誰かの後ろ姿……。

 忘れるはずがない……。

 もう会えないと思っていた、その人が………。


 「…………っ……!!」


 声が上手く出なかった。

 溢れる感情が抑えきれず、私は必死に声を振り絞った。

 たった一言、たった一言が出なくて……。


 「…………母上、なのですか?」


 感情を想いを振り絞り、その名を口に、言葉にする。

 私の声が向こうへと届くと、後ろ姿しか見えなかったその人が振り向いてくる。


 あの頃のままだった。

 私の知る、あの頃の、あの姿のままで。

 もう会えないと思っていたのに、私こ目の前に存在しているのだ………。


 「千歳………、それに秋重までも?」


 言葉を聞くまでもなく、私は母上の元へと飛び込み抱きついていた


 「母上!

 生きて……本当に生きているんですよね!!」


 「………そう、随分大きくなったのね。

 それに秋重も……お変わりなくて何よりですね」


 母が私を優しく抱きしめ返す中、父上が口を開く。


 「屋敷内にて厄介な者が現れました。

 例のミタモが、ミナウセと共に事の真相へ辿り着き我等の元へと向かっている模様です」


 「そう………ミナウセどころか、ミタモが来たのね。

 彼女に会うのは実に三百年振りくらいかな……」


 そう言うと、母上は私から離れると結界と思わしきそれに触れた。


 「秋重、痕跡を残し過ぎたみたいだね。

 困った子、もう少ししたらミタモ達が来てしまうじゃない?」


 「いや、しかしそれには訳がありまして……」


 「もういいよ。

 後は私が直接手を下すから、だからさよなら」

  

 その瞬間、何かが弾けるような音がした。

 そして、私の頬に何かが掛かった。

 生温かい何かが………。

 触れたそれに私は触れ、確認すると赤い液体で。


 「あ……そん……な……?

 どう……して……」


 上と下がバラバラになった父上の身体が、唖然とした様子で宙に舞いそのまま身体が地面に叩きつけられる。


 「父上……?

 嘘でしょ………父上、なん……で?」


 私は父上だったはずのソレを抱き抱える。

 もう動かない、目も虚ろで………何度呼び掛けても返事はなくて……。


 「全く、使えない子だったわ。

 コレならミナウセをまだ足元に置いてあげた方がマシだったかな?」


 「え………?」


 受け付けられなかった。

 目の前の出来事を、その言葉を受け付けられなかった。


 「なんで殺したの?」


 思わずそんな言葉を吐いていた。


 「千歳?」


 何事無かったように、あの頃のままの姿で。

 母親だったはずのその人のやったことを私は受け入れられなくて……。

 

 「なんで殺したんですか、父上を!!!

 自分の家族を、どうして殺したんですか!!!」


 「家族?

 何を言ってるの?

 あんなの、私達の家族でも何でもないでしょう?

 さぁ千歳、私と共にこの封印を解きましょう?

 これから私達は、この世に新たな畏れを、恵みを与えられるのですから?」

 

 「っ……本当に母上なの?

 私の知ってる、強くて、お役目の為に、酒倉井の為に尽くしてきた、あの優しかった母上なの?」


 「さぁ、早くこっちへ……千歳?」


 父上の亡骸を抱える私に手を差し伸べてくる彼女。

 しかし、その手を取れる訳がなくて反射的にその手を弾いた。


 「っ………嫌、そんなの認めない!!!

 私は、私はずっとあなたに憧れて!!

 あなたみたいになりたくて、追い付きたくて!!

 でも、弱くて、居なくなってからずっと寂しくて、なのに、なのになのに!!!

 ようやく会えたのにこんなのあんまりだよ!!」


 気付けば私は父上の亡骸が持っていた短刀を取り出し、その切っ先を目の前のソレに向けていた。


 「千歳、何をしているの?」


 「返してよ!!

 父上を、私の家族を返してよぉぉ!!!」

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