第四十四話 妖々の神畏
酒倉井に私達が戻ると、集落全体が騒がしい様子。
騒ぎの火元を住民から聞くと、旅の神畏様がこの地を治める秋重様の屋敷を襲撃し屋敷内では彼等の対応に追割れているとのこと。
当の秋重本人は護衛に任せ、彼等の人質となったいたという自身の娘の千歳を背負い逃亡中とのことである。
「………どういうこと、久矛?
まさか、あの子達がやったの?」
「いやいや、流石にないだろ?
むしろ、屋敷を襲撃した旅の神畏への対応に追われてるはずだ。
大方、俺達の帰りを屋敷でくつろぎながら待ってたら騒ぎに巻き込まれたんだろうな」
「千歳が人質にされたって事は、相手はかなりの手練れじゃない?
ミタモ達の実力を一時的とはいえ出し抜けるってくらいだから厄介だと思うのだけど?」
「確かに、あの二人から千歳を奪える程となると。
何か特別な外的要因があったか、単純に実力が上だったかのいずれかだろうな?
もしくは、敢えて千歳が人質になるように仕向けた可能性もある」
「敢えて人質に?」
「とにかく、屋敷に向かおう。
秋重殿が千歳を連れて逃げている間に、事態を収拾させる。
面倒な仕事をあの二人には押しつけたからな。
全員、駆け足で向かうぞ!」
そんか彼の言葉を信じた私達は、秋重殿の屋敷へと向かう。
しかし、そこにあったのは護衛達を何人も斬り伏せたミタモと遥、そしてカワウソ?頭の謎の剣士。
「………どういうこと?」
「なるほど、敵はそっちか………」
「久矛、どうするのアレ?」
「凪は他の奴等を連れて秋重殿の元へと向かえ。
ここは俺が何とかする」
「わかったわ。
行きましょう、貴方達も早く!」
去り際、いつもの軽い雰囲気ではなく、普段は見せない怖い表情を彼はしていた。
彼の意図としては、多分秋重が黒幕なのだからその対処へ先に向かって欲しいとのこと。
後から自分は彼等を連れて合流する、それで今回の件は無事解決出来る算段なのか?
説明が少ないのは相変わらず。
私達が上手く彼の意図を察してあげなければならない。
また蛇に噛ませるか悩んだが、それは全てが解決した後にしよう。
そして私達は、彼を屋敷に残し秋重達の行方を追うことなった。
●
屋敷が騒がしい中、騒動の中心から離れ俺は屋敷内を彷徨くと客間で呑気に茶を飲む狐の面を被った男と出会った。
「お前はこんなところで何をしている?」
「…………」
「いいのか?
今、向こうは色々とさわがしくなってるんだ。
全く困ったものだよな?」
「…………」
俺の言葉には聞く耳持たず、茶を飲む面の男。
そして茶を飲み干すと、ようやく俺の方へと振り向き視線を向けた。
「征伐隊の天月久矛………。
いや、確かお前は……ミ」
その先を言おうとした瞬間、俺はすぐさま刀を引き抜きそいつの喉元へと刃を突き付ける。
「その名では呼ばないで貰いたいな。
あんまり好きじゃないんだよね、そっちの名前で呼ばれると色々面倒になるからさ?」
向こうは動揺していない。
いや、違う……。
「ならば、こちらへの詮索は不要だ」
自分の心臓の位置に、面の男は短刀の切っ先を突き付けていた。
こちらが気付いたのは、俺が奴の喉元に突き付けた後のこと。
こちらが止めるとわかった上ではなく、こちらが止めたと気付いたから命を取ることを辞めた具合か。
「いやいや、そうも言ってられないんだ。
今この地では色々と厄介事があるみたいでね。
君はそれを知って此処に来たのか?
あるいは、別の要件かい?」
「………一応商人だからな、仕事で来た。
そちらはそちらのやるべき事を成せばいい。
俺には何の関係もないことだ」
「君、何処の誰なんだい?
もしかして、僕等と同じ神畏?
でも、その割には随分変わってるみたいだけどさ?」
「詮索は不要だと言っている。
俺はそろそろこの地を出るが、アレの手助けには行かなくていいのか?
そろそろ向かわないと手遅れになる」
「手遅れって程じゃない。
あいつ等は俺より強いんだからさ?
結構信用してるんだよ、彼等の事を」
「信用か…………」
「もう一度聞く、お前は何者だ?」
「……………はぁ」
奴からは返事は無かった。
しかし、奴はその面に手を掛けるとソレを外し素顔を露わにする。
その瞬間、衝撃のあまりに俺は気付けば奴から刀を引いてしまった。
「事は済んだようだな。
では、先に失礼させてもらう」
そう言って、奴は俺の目の前から姿を消し何処かへと行方を眩ました。
正直な感想を率直に挙げるなら………。
「やってくれたな、タマモ………」
それから俺はすぐさま思考を切り替え、護衛達とやり合っている彼等の元へと急ぐことにした。
●
「流石に数が多いな……」
「言う暇があるなら、一人でも多く倒せ人間」
「分かってるって」
背中合わせで、戦い続けて結構な時間が経過した気がする。
日が暮れるのも時間の問題、既に床に伸びてる護衛達が足場を奪い倒せど倒せど湧いてくる。
正直、殺した方が手っ取り早い。
向こうは本気で殺しにかかってるが、俺達はミナウセ含めて峰打ち対応の優しさである。
時間が経過し過ぎれば倒した護衛もその内復活し、雑兵として追加されてしまう。
「なぁ、ミタモ?
そろそろ奥の手使っていいだろ?」
「死人が出るだけでは済まんぞ?」
「大丈夫、加減はする。
それに、このまま足踏みする訳にもいかない」
「………わかった。
ミナウセ、お主は少し下がっておれ………。
此処は小童に任せ、少しでも体力を温存する」
「何を言ってる?
俺に負けた人間がどうにか出来る訳がないだろ?」
「心配どうも、だが俺は神畏だ。
そっちの力も使えるんだよ。
ミタモ、頼んだ」
「了解したぞ、小童。
過信して、無理は禁物じゃぞ」
そしてミタモは俺の首元と刀を握る手に自分の手を重ね身体を密着させる。
それから間もなくして、ミタモの怪異としての力が全身の血液と混ざりあい怪異としての力が全身を巡っていく。
「我等は神畏、畏れを以て恐れを成す。
世の理を正す為、強き力を振るうモノ」
その言葉と共に、ミタモは俺からゆっくりとその身体を離した。
そして、全身を巡る力の存在を垣間見た護衛達の身体は震えていた。
「ミナウセ、アレが此奴の本領発揮じゃ。
お主は強いが、流石にアレには勝てん」
「…………認めたくはないが、そうだな女狐」
「妖化は見るのが初めてか?
アレは怪異の力を一時的にじゃが人間に移すモノ。
神畏の中でも今ではごく一部しか扱えん。
昔はアレが出来て初めて神畏と名乗れたものじゃ」
刀を構え、敵達を視界に捉える。
殺さないように加減はするが、その当たりどころ次第では一瞬で命が消え去るだろう。
「あの力が使えるからこそ、我等は神畏と呼ばれた。
怪異の力をその身に宿し、悪しき怪異や人間を滅した一組の彼等を人々は神畏と呼んだのがきっかけ。
そして、その怪異の中でも妾のような半妖の力を用いる者達はその数の希少さと圧倒的な力の強さを誇った。
人々は彼等の力と存在、その畏れをこの世に残す為にある呼び名が付けられた」
刀を構え、踏み込み。
その身に刻んだ、数多の剣技の動作を行い一撃一撃で一人一人を確実に斬り伏せていく。
その動作を終えて間もなく、力の巡りは収まった。
刹那の御技を認識するまでもなく、護衛の彼等はその場で瞬く間に倒れていき最後の一人が倒れた事を確認すると俺は刀を軽く拭い鞘へと収めた。
「妖々の神畏……、妾の器としては申し分なかろう。
そう思わんか、ミナウセ?」
「…………」
「これで全て片付いた、先を急ごう。
千歳達が心配だ、ミタモ案内を頼む」
「わかった。
ほれ行くぞ、ミナウセ!
シャキッとせぬか!!」
俺の戦う後ろで何か話していたのか、少し身体を休めただけでミナウセの動きが鈍っているように見える。
しかし、疲労よりかはこちらへの視線が鋭く敵意が増しているように見えた。
「そうだな……」
一言、そう呟くと奴は俺達の後ろで不満げな様子で追いかけてきた。
その後間もなく俺達は征伐隊の長である久矛殿と合流することとなった。
彼曰く凪達が先行し、秋重を追っているとのこと。
さっさと千歳を助け出したい。
その想いを胸に、俺達は彼等の元へと向かった。




