第四十一話 因縁と再会と
征伐隊が酒倉井を飛び出して七日目。
今日が千歳の鍛錬に付き添う最終日でもある。
場所はいつもの千歳の母であるミカの生家。
僅かに開けた庭で、俺と千歳は対峙していた。
「それじゃ、今日も相手をお願いね」
「そうだな。
どこからでも掛かってこい」
その日の午前中はこれまでの総仕上げもあって実戦形式の鍛錬である。
要は、普通に剣の斬り合いをすることだ。
俺は練習用の木刀だが、向こうは真剣を握っている。
「………では、行きます!」
掛け声と共に戦いが始まる。
当初は勢い任せの粗雑な剣技だったが、今では見間違える程相手の剣筋をちゃんと見て動けるまでになっている。
足りないのは実戦経験による読みや駆け引き、そして基礎的な体格とか諸々。
短期間で仕上げたにしては上出来だが、まだまだ発展途上もいいところ。
「っ!!」
彼女が振りかぶった一振りを軽くいなして、俺は反撃で横から一撃を剣の峰で小突く程度に当てる。
「痛っ!!」
「こっちが真剣なら死んでるぞ?
もっと相手の動きを見ろ、体格差は今日明日でどうにかなる部分じゃない。
間合いをよく見て、こちらの動きをしっかり見ろ」
「うん、分かった!
はぁぁぁっ!!」
最初とは打って変わり力強い一撃。
受け止めるのが木刀の強度では難しく、こちらが後退を余儀なくされるが、自信の優勢を確信した千歳が果敢に攻めてくる。
悪くない動き、思わず口角が上がり身体がその戦意に駆られて動きたくなってきた。
「っ?!!」
「落葉一刀流………」
こちらが踏み込むと、その殺気に押されたのか、彼女の攻めが滞り剣筋が防御の構えへと変わる。
しかし咄嗟の判断がまだ遅い。
「あ………!」
右からの攻撃と予測したようだが、コレはそれに見せかけた左からの斬撃。
予想外の方向からの衝撃に耐えられず、彼女の真剣が宙に舞った。
「葉隠れの太刀」
宙を舞った真剣が彼女の元へと落ちていくのを防ぐ為に掴み、自身の木刀の切っ先を彼女へ向ける。
「うっ………そんなのアリなの!?」
「俺もそう簡単に負けられないんでね。
でも前よりは良くなったな、千歳」
「本当?」
「俺が少し本気を出したくなったんだ。
あとはこのまま鍛錬を自ら続ければ良いところまでやれるんじゃないのか?
少なくとも自分の身くらいはある程度守れる」
「そっか、でも悔しいな。
ほんと、遥は強いよね………ちょっと大人げないけど」
「命を賭けた戦いに、大人も子供もないだろ。
死んだらそれでおしまいなんだからな。
勝敗は一瞬で決まる、命を賭けた戦いすらもな」
「そうだね………」
倒れた千歳に手を伸ばし、彼女を立たせ真剣を彼女の元へと返す。
「すぐには無理だろうが、お前なら強くなれる。
守るべきもの、あるいは自分が何を成すべきか。
そのいずれかを見失わずにいたなら、それが千歳をより強くしてくれる軸となるはずだ。
俺の師匠の受け売りだがな………」
「分かった、私もっと強くなるよ。
母上が守りたかったこの酒倉井を守れるように」
そんな決意を俺に示し、彼女は一番の笑顔を向けた。
今の彼女なら大丈夫だろうな、この先どんな苦難が待ち受けてもきっと………。
俺のように道は踏み間違えないと、確信が出来る。
●
午前中の鍛錬は終わり、昼食と休憩を挟むと今度はミタモの元でいつもの座学と怪異としての力の扱い方についてである。
俺と違って、いつもと変わらない事をミタモは千歳にやらせているようだが………。
千歳は文句一つ言わず、ミタモの指導を受けている。
アレな部分は多いが、ミタモの怪異としての実力を千歳は認めているようではある。
当のミタモ自身も、千歳には親身になって怪異としての力とは何かを教えているようである。
実際のところ、コレが本来千歳がやらなければならないことなのではある。
彼女が出来るか否かで、この地の未来が決まる。
当然焦りもあるだろうが、今の彼女は最初の頃よりも落ち着いており、力の扱いも日に日に上達しているとミタモ自身が夜な夜な晩酌しながら駄弁っている程。
「……よし、説明はこのくらいでよかろう。
では、やってみよ千歳」
「分かった」
そして、いつものように実際に力を扱う模様。
二人の様子を俺は見守る中、実演開始から間もなくして千歳の動きが止まった。
何故止めたのか、その理由に俺が気付くのにそう時間は掛からない。
ミカの生家を訪ねてきた、何者かの姿を俺達は捉えたからである。
虚無僧姿の籠を被った謎の男、数日前に俺を斬り殺そうとしたあの男であったのだ。
「お前達………ここで何をしている?」
「それはこっちの台詞だよ!
貴方こそ、どうしてここを知ってるのよ!」
「…………」
千歳は当然の反応。
見知らぬ男が家族の敷居を跨いだことにご立腹の様子である。
しかし、ミタモはその男の姿を見て眉間にしわを寄せながら男を眺めていた。
「お主………まさか黒鼬か?」
「「えっ?!!」」
千歳と俺の声が重なり、視線が男へと向かう。
しかし、男の反応は………。
「人違いだよ、僕は黒鼬じゃない。
そこの妖狐、あの男はお前の連れか?」
「そうじゃ、でお主は何者じゃ?
妾達は訳あって、そこの娘に稽古をつけておる。
邪魔立てするなら、容赦はせんぞ?
妖狐と分かって、妾達に喧嘩を売る程、身の程が分からないお主ではあるまいて………」
「僕が何者かなんてどうでもいい?
僕はその家の家主に用があるんだ、お前達こそこんなところで何をしている?」
「家主って、母上はとっくに死んでるわよ!」
「死んでるだと?
とぼけた事を抜かすな、千歳?
いや、君はは未だに兄上から何も聞かされてないのか?」
「兄上って、誰の事を言ってるの?
貴方は誰なの、どうして私を知ってるの?」
「………」
先日、俺を斬ったのがアイツなんだが……。
そんなことがどうでもいいくらい、目の前で面白いことが起きていてる。
目の前の男は、あの時も千歳達を付けていた。
そして、今回はミカの元を訪ねてきたと……。
しかし、数日前に俺を斬って以降に何度か向こうを訪ねる機会はあったはず。
しかし、訪ねてきたのは今回が初めてなのか?
何らかの理由ですぐに向かえなかった。
見た感じ、仲間を連れてない時点で個人的な理由で来ている可能性が高い。
アイツ一人だけなら、ミタモの力を借りてどうにか抑え込めるだろう。
そう確信し、俺は刀に手を掛けようとするがミタモが俺に視線を向ける。
意訳するなら、手を出すな……そう言ってる気がした。
「妾はミタモ、ミカの古い友人じゃ。
お主、名はなんという?」
「………ミナウセ。
ミカと黒鼬の子ととして生まれた者の一人だ。
かつて、見廻り組にこの地を救われた際に母が授かった双子の片割れ、それが僕ということになる」
「ミカの子じゃと?
いや、じゃが………待て、今双子と言ったか?」
「ああそうだ、僕の兄の名は秋重。
現在この地を治める酒倉井秋重もまたミカの子。
母上のお役目を補佐する為に、見廻り組が去って物心ついた頃からこの地の為に尽くしてきた次第だ」
「なるほど………そういうことか………。
小童、すぐにここを出る支度をするんじゃ」
「それは構わないが………急に何を言ってるんだよ?」
「いいからさっさとせい、ミナウセとやらも来い」
「僕に命令するな、女狐。
説明しろ、貴様は何を企んでいる?」
「今から例の封印された場所へ向かう。
アレを放置すれば手遅れになるぞ!!」
そう言って、籠の男を連れてミタモは飛び出す。
二人の後を追うため、俺と千歳はすぐにその後を追うのであった。




