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第四十話 霧の中で

 濃い霧に視界が覆われ、私達征伐隊は遭難していた。

 方向が分からない、頼みの綱である鼻の利くぴーちゃんや大きな犬達を頼りにしようにも硫黄の匂いなのか、あるいは別の要因なのか、匂いを辿れない模様。


 「………、どうするの?

 明後日までには、戻らないと期日に間に合わない」


 「確かに、困ったな」


 私達の長である久矛は呑気にそんな事を言いながら、落ちていた棒を拾い上げ地面に立てる。

 そして棒は、右斜め前に倒れると………

 

 「良し、こっちに行こう」


 「………ぴーちゃん」


 間もなくして、彼の悲鳴が辺りに広げる。

 毒に苦しむ彼の胸ぐらを私が掴もうとすると、それを阻止する為に仲間が私を取り押さえてきた。


 「ちょっ、凪さん!!!

 それ以上は駄目です、ほんとに死ぬから!!」


 「そーそー!

 ね、気持ちは分かりますけど……。

 この人殺しちゃ駄目ですって!!」

 

 「………、ねえ久矛?

 流石にふざけ過ぎじゃない、貴方?

 ねえ、聞いてる?」


 「聞いてます聞いてます。

 でも、ぴーちゃんはやめて!

 ほんとに死ぬ!!」


 そう言って噛まれたところを抑え、泣きながら弁明する彼に呆れつつ、私は解毒薬を取り出し彼の腕に打ち込む。

 

 「全く、手間が掛かるわ本当に……」


 「ほとんどそちらのせいですけど………」


 「は?」


 「ごめんなさい、自分が全部悪いです」


 そう言って、先程倒れた木の棒を拾い上げ落ち込みながらその棒を手に取り眺める彼。

 全く、この人は何を考えてるのだろうと常に思う。

 普段はもう少し頭が回るはずなのだが……。


 「例の硫黄の採掘現場は小規模な賊の住処だった。

 奴等の小遣い稼ぎ程度で、正直水質の影響は考えられない。

 自然に流れる硫黄やその他成分が、あの酒倉井の地に流れ着くまでに浄化されているみたいだからな。

 集落の失踪事件との関連も、あの賊達の供述からして無関係。

 奴等の処罰はこちらで済ませたが、結局問題は何も解決していないと同じ………」


 「問題は何も解決してないのね」


 「困ったよな、本当に………」


 そう言って彼は棒を上に放り投げ、それをまた受け止めると、犬達の方に向かって棒を投げた。


 「そうね、でその帰り道に私達は戻れずに居る」


 「そういうことだな。

 まぁ、このまま進んでいけばアレの元に向かえるだろうが………」


 「アレって?」


 「白霧だよ、いわばこの辺りのヌシだな。

 ミカ様よりも古くからこの地を守り続けていた存在、人目につくことはほとんどないが………。

 名前の通り霧の怪異、つまりこのまま霧の中を進むかあるいは奴から姿を現してくれるんじゃないかとね」


 「だからふざけてたの?」


 「いやいや、別にふざけてないって。

 まぁどうすれば良いか見当がつかないから、賭けてみたってのは正しいが………」


 「結局ふざけてんじゃない」


 「まぁー、とにかく。

 そろそろ出てきてくれよ白霧さんや?

 俺達を使って遊ぶのももういいだろ?

 ずっと俺達を隠れて見ているんだろ?」


 と、怪異の名を叫ぶ彼。

 それですぐに姿を現してくれるなら苦労しない。

 しかし、彼の言葉に応じたのか目の前の霧が徐々に晴れていき、目の前に白い雲の塊のようなものが現れた。


 人のカタチと形容していいのか分からないが、強い力を感じるナニカがそこに居る。


 「中々面白かったぞ、ミヤコの人間」


 「それはどーも。

 で俺達をここに誘導させたのはお前だろ白霧さんや?

 こんなところに案内して、何を企んでる?

 俺達に何をさせたいんだ?」


 「少々頼み事があった。

 が、あの辺りだと人目が付いて面倒になりそうだったのでな、仕方のなかったことなのだよ。

 途中から、お前達を邪魔するのが楽しくなったのも事実だがな」


 コイツ、始末していいかな?

 そんな事を思っていると、久矛が察し私を抑える。

 彼は私を抑えると、言葉をそのまま続けた。


 「そりゃ、随分と悪趣味なことで。

 で、あんたはこの辺りの失踪事件について何か知っているのか?」


 「自分は傍観していただけ。

 アレの犯行を見ていただけで、こちらから手を出すことが出来なかった。

 弱り果てた私では返り討ちになるだけだからな」


 「犯人を見ていたんだな?

 で、どんな奴等がアレをやったんだ?

 正直、犠牲者があまりに多いから流石にこちらも無視は出来ないところまできているんだ」


 「………。

 アレはミカが一人でやったことだ。

 全く、長らく姿を見せなくなって気でも狂ったのかと思ったのだがな………」


 「ミカだと?

 本当に、そいつがやったのか?」


 「ああ、昨年も同様の被害があった。

 たまに人を食っては何処かを行方をくらまして、何かをしているようだがな」


 「………アレは酒倉井の守り神だろ?

 何故そんな真似をする必要がある?

 一応、機密としてこっちはアレの娘である千歳からその死を聞かされている。

 ミカは死んだ、そして新たなお役目の為に千歳を必要としている、そうだろ?」


 「違う、ミカは死んでなどいない」


 「…………」


 白霧の言葉は恐らく本当だろう。

 久矛はそれに疑問を感じている。

 私も正直驚いているのだが、この話が本当なら例の失踪事件の真相に大きく近づいたと言える。

 でも、千歳には何と説明するべきか………。


 実の母親が生きているが、人を攫って……。

 いや、食べて何かを企んでいる。


 多分だが、ミカの思惑に千歳は愚か酒倉井の民は利用されていると考えていい。

 

 でも、何を企んでいる?

 人を食わなければならないほど、力が弱っていた?

 でも、千歳を産んでいるのが事実。

 

 怪異が子を産むには、よほど力に余裕があるか何らかの目的か衝動が無ければ子を生まないはず。

 人を食って尚、千歳を生まなければならなかった?


 久矛も同じような疑問を抱いているのだろうか?

 

 「………、なるほどね。

 了解した、白霧殿。

 で、ミカの処遇に関してはどうして欲しい?

 殺してほしいのか?」


 「お役目とやら、あとはこの地の管理において彼女の存在無くして成り立たなかった。

 寛大な処置を願いたいが、不可能であるならアレをどう始末しようと構わない」

 

 「じゃあ、俺達に一任するんだな?」


 「それで良い。

 それと、千歳とやらに会ったら伝えて欲しい」


 「アイツに何を伝えて欲しいんだ?」


 「お前の家族は、お前の身を常に想っている。

 それだけは不変の事実である、と……」


 そう言い残し、白霧は私達の前から姿を消し辺りの霧も気付けば全て消し去っていた。

 

 「…………」


 何処か暗い表情を浮かべ、僅かに歯を噛み締める彼の横顔が目に入る。

 彼はまだ、私達に何かを隠しているのか?


 「久矛、どうかした?」


 「いや、何でもない。

 それじゃさっさと帰るか、千歳が俺達の帰りを待っているからな」


 それから間もなくして、私達は酒倉井に向けて歩き出した。

 私達はこれからどうするのだろう?

 前を歩く彼を見ながら、私は今後の行く末を案じる事しか出来なかった。

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