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第四話 人無しの村

 前の村を出てから1日を過ぎた頃、ようやく人の暮らしていた痕跡らしき跡を見かけるようになった。

 獣道のような街道を抜け、ある程度整備された田舎道といったところ………。


 ただ、人が暮らしていた痕跡という表現が正しいように酷く荒らされた畑の跡、そして倒壊した民家等といったものが点々と存在しているのだ。


 「………多分ここだな……」


 「じゃろうな。

 しかし、何ともまぁ酷く寂れた集落よ。

 妾達と同じ神畏どころか、そこらの獣にまで容易く踏み入れられておるわ」


 「そうみたいだな。

 とても同じ神畏が勝手に荒らし回ったとは思えない光景だからな。

 まずは人探し、この惨状に至った諸々を聞き出そう」


 「それより、ちゃんとした寝床を確保が優先じゃ。

 何日も野宿ばかりなど、御免じゃからな」


 「それはそうだが……。

 そこは最悪空き家に籠もればいいか………」


 俺はそう言い、集落の奥へと進み人探しを始める事にした。

 しかし、進めど人の気配をまるで感じない。

 気配を感じたと思えば猪が畑の跡を更に荒らしている様子が目に入ったくらいである。


 「………、なぁミタモ?」


 「何じゃ?」


 「おかしくないか、ここ?」


 「そうじゃな。

 人の魂を全く感じない、残滓のようなモノは感じるがとても僅かなモノばかり。

 神畏よりかは、怪異単体によって引き起こされたモノの可能性が高いじゃろうな」


 「この前倒した、あの村の怪異と同一か?」


 「違う。

 先のアレよりもより強大な力を宿した存在じゃ」


 「例の片腕か?」


 「アレのやったモノとお主は同じように見えたか?」


 「見えないな」

 

 そう、あの片腕がやったなら血肉の腐敗したような強い悪臭が残るはずだ。

 両親を喰らったように、辺りには捕食の痕跡が必ず残るはずなのである。


 しかし、ここは違う。

 

 「建物を壊す程度の怪力はある。

 しかし、人が喰われた痕跡はない。

 あるいは、痕跡も残らず捕食あるいは連れ去られた辺りの可能性があるな」


 「わざわざ捕食せず連れ去るとなると、その者には拘りが強いあるいは何か別の目的があった。

 しかしじゃ、そうなるとそ奴の知性はかなり高い存在という事になる。

 ある程度の手練れだろうとせいぜい手のひらで数える程の魂を喰らうかどうかじゃ。

 それ以上に食らえば、妾達神畏の目に留まりミヤコから強い神畏が派遣される。

 つまり、人を喰わずとも力が元々あった妾に近い怪異の手によるものの可能性が高い。

 術に長けて居れば、催眠など掛けて連れ去る事も出来るじゃろうからな」


 ミタモの言う通りだ。

 怪異は魂を喰らう事で力を得る、それが最も手っ取り早いやり方。

 そして、食わなくとも強いとなると元々生まれ持って強い力を宿した怪異になる。

 

 この場合、始めから畏れを宿しやすい存在という事になる。

 例えば、ミタモの場合は妖狐の一族。

 妖狐というのは、社等の神仏的な建物で古来より人々から崇め恐れられてきた存在だ。

 数多の術を操り、人への恩恵や恐怖を与え続けたが故に人間からの畏れを集めた存在。

 こういう部類だと、人々からの魂の力が彼等に向かって流れやすく、強い怪異として生まれ落ちるらしい。


 ミタモ曰く社へ人がお参りする度に勝手に力が蓄えられるのだから、こういう類いは一番敵に回すと面倒になる。


 これ以外の存在となると、例えば山や川といった自然に対しての信仰から生まれた怪異が挙げられる。

 名もなき野山よりも、人が名付けた存在であるならその信仰が怪異として生まれる場合も少なくない。


 しかし、自然から生まれた怪異であるならわざわざ人里を荒らすことはしないだろう。

 それも、彼等の信仰、畏れから生まれたのなら尚のことだ………。

 

 「怪異にとって人から流れる魂の力が、その存在を保つ為に必要不可欠。

 人間達が、自然の動植物に対する畏れを彼等に向けることで、人間一人一人の中にある魂の力は彼等へと流れていきソレは徐々に形を成していく。

 微弱なソレでも数や年月を重ねれば、魂の量は人間と同格かそれ以上へ至る。

 そうして集まった人々の魂の力が形を成し、個としての意思を確立した存在、それが現在俺達が総称している怪異と呼ばれる存在だ。

 要は人間からの畏れ有りきで怪異の存在は成り立つ。

 更に正確に言うなら魂の量が比較的多い人間の影響を受けて、それ等の魂から生まれる存在が怪異と成り得る。

 そうだったよな、ミタモ?」


 「その通りじゃな」


 「じゃあ、改めて聞くが。

 この惨状を引き起こした存在は何者だよ?」

  

 「今はまだ分からぬ。

 ただ、こうして見る限り………。

 かなりの手練れじゃろうな。

 それなりに力を持った存在である事は確かだろうよ、警戒を怠らぬ方が良さそうじゃな………」


 「……、分かってる。

 それで、今日はどうする?

 もう少し先に進むか?」


 「いや、ここで一度足を止めるべきじゃ。

 寝床はこの集落の空き家を借りれば良かろう」


 「了解した」


 ミタマの判断を正しいと判断し、俺は彼女に同意。

 今日はここを寝床にして、明日には更に進んでもう一つの集落を目指す事にする。


 この集落の惨状を誰がやったのか?


 ミタマの言葉通りなら、相当な実力者。

 俺達が負ける可能性は少ないにしろ、彼女が警戒に値するとなれば厄介な存在に他ならない。

 

 俺達がわざわざ直接刃を交える必要もなさそうなら、無用な争いは避けるべき………。


 このまま、この問題を無視出来ればの話だが……



 その日の夜、近場の原型を留めていた空き家を借りて俺達は寝床を確保した。

 かつての住人が残した使えそうな食器類を借りて夕食を用意したりと俺達は随分と勝手な事をしていると思い更けていた。


 しかし、尋ねようにも人が居ないのだ。

 

 獣の方が多いので、近くの猪を狩って適当に捌き食べきれない部分はミタモに保存を任せておく。

 

 そうして出来た今宵の晩飯は、猪鍋。

 獣特有の臭みは、持ち歩いていた香辛料で誤魔化して、空き家から拝借した器に盛り付けた。


 ミタモは少し不機嫌な顔をしていたが、贅沢も言ってられない、俺としては御馳走も良いところの代物なのだが彼女は受け付けないらしい。

 

 まぁ、一口猪の肉を頬張るとその味に満足したのか俺と張り合えるくらいの勢いで肉達を平らげていく。

 仕舞いには最期の肉を俺と取り合いになるくらいには気に入ったようで、食後は楽しそうに外で沸かした湯船へとふらふらと向かって行ったのだった。

 

 気に入ってもらえて何より。

 ミタモが風呂に入っている間に食器の片付けをしていると、外から彼女が声を掛けてきた。


 「小童ぁぁ!、妾に拭くもの持って来い!!」


 「………、お前はもう少し恥じらいを持てよ!!

 というか、それくらい風呂入る前に持って行け!!」


 と、そんなやり取りを交わしつつ俺が風呂から上がる頃には、この前の村からもらった酒で晩酌をしているミタモの姿が目に入った。

 風呂上がりで暑いのか、服の胸元を開け何とも際どい姿を晒しながら楽しそうに酒を飲んでいる様子である。


 「………だらしないぞ、ミタモ」


 「別に良いではないか、お前しか居らんやろう?」


 「俺が居るから気を付けるんだろ……」


 「全く、この程度で気を乱すとは小童はやはり小童何じゃよ………」


 「小童は関係ないだろ!!」


 「全く、うるさい奴やなぁもう!」


 そう言って、ミタモは寝そべりながら空になった盃に再び酒を次いでいく。

 何ともだらしない姿に、視界を覆いたくなるがミタモの様子が変わった。

 

 盃に注がれた酒をそのまま床に置くと、ゆっくりとその場から立ち上がったのだ。


 「ミタモ?」


 「ようやく客人のお出ましと言ったところかのう?」


 そう言うと、自身の尻尾の付け根から何処からともなく刀を取り出し俺に投げ渡す。

 

 「酒のツマミには少々癖がありそうじゃな」


 「敵の数は?」


 「4人程……、後ろに控えておる者も居るかもしれん」


 「………、分かった」


 渡された刀の持ち手を握り締め、俺とミタモは表に飛び出す。

 そして、目の前には得体の知れない存在が数人。

 暗がりで姿はよく見えないが、人影とそれに似ているが明らかに異形の姿をしたナニカがいる。


 「貴様等、ここで何をしている?」


 「旅をしていてこの集落に立ち寄ったんだ。

 しかし、人の姿もなく日も暮れていたのでこの空き家を借りている。

 お前達は、ここの人間か?」


 「………、旅人にしてはずいぶんと手慣れているな?」


 「このご時世で何も武器も持たない方がおかしいくらいだろう?

 夜の暗がりに乗じて、盗人の限りを尽くす者も少なくないからな」


 「………、お前達は神畏か?

 いや、質問を変えよう。

 この近くの村を牛耳っていた化け物を倒したのはお前達だな?」


 「そういうお前達は神畏なのか?」


 「質問をしているのはこちらだ、答えろ」


 「仮にこちらが倒していたらどうなんだ?

 そちらに何か不都合なことでも?」


 「貴様……、我等に逆らうつもりか」


 「そこまでにしろ、お前等」

  

 暗がりの奥からもう一人、いや違う……。

 その隣にもう一人、足の見えないナニカが居るのだ。


 「済まないな、旅の者。

 手下が無礼を働いてしまって申し訳ない。

 俺の名は久矛ヒサホコ、この辺りの調査の為にミヤコから派遣された征伐隊の長をしている。

 そして、俺の横に居る怪異の方は、ジン

 少し口下手だが、腕は指折りの実力を誇っている凄い奴なんだ。

 まぁ、よろしく頼むよ」


 そう言って、俺に手を差し伸べてきた久矛という男。

 屈強な肉体をした、自身の二回りは恵まれた体格をした強面の人物。

 ミヤコの征伐隊………、確か遠方の調査を及び怪異の討伐を専門とした神畏達の中でも寄り優りの存在だと聞いたことがある。


 何故、そんな奴等が此処に来ているんだ?


 警戒しながらも、俺は目の前の男の手を取り仲直りの堅い握手を交わしていた。

 

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