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第三十九話 変わらず、それでも少しでも

「いいか、力の流れを上手く扱う為にはな……」


 かつてのミカの生家にて、ミタモは地面に落ちている棒を筆のように扱い、怪異としての力の扱い方を説明している。

 千歳はそんな彼女の横に雛鳥が肩を寄せるかのように並び、真剣に聞いていた。


 背中の傷の痛みは既にだいぶ引いている。


 そして、征伐隊が例の硫黄採掘の現場に出向いてから今日で六日目を迎えていた。

 連日のように何かしら起こるものだと思っていたが、ここ二三日は何事も起きない平穏な日々。

 

 強いて問題を挙げるなら、千歳の成長が見られないところ辺りだろうか?

 いや、そもそも一週間で結果が出るか怪しい。

 ミタモ曰く、生前のミカ様でも二年でお役目を担えるまでになったのだと。

 

 元々素質があったのも相まって二年必要と考えるなら、千歳はそれ以上必要なのは明白。


 彼女の今後が多少心配だが、俺達にも俺達の都合があるので彼女の為に時間を多くは割けない。

 しかし、目の前のミタモを見ていると彼女の本心としてはもう少し彼女の指導に時間を設けたいと思っているようにも見える。

 

 「よし、じゃあ今後はこの通りにやってみよ」


 「分かりました」


 こちらが思考を巡らせている内に、一通り説明を終えたのか千歳はミタモに言われた通りに怪異としての力を実践してみる模様。

 午前は剣の鍛錬として俺が付き添い、午後からはミタモの座学含めた力の実践。


 基本的にはこの繰り返し。


 そして、千歳はミタモに言われた通りに力を扱う。

 全身が僅かに光を帯び、僅かに衣服が揺れ動く。

 それから、辺りが僅かにざわめいていた。


 辺りの鳥達の声が騒がしくなり、虫達の羽音や気配が消えていく。


 「そこまで」


 ミタモが静止の声を上げ、千歳が力の放出を打ち止めすると辺りは間もなく先程と同じになった。


 「どうして、止めたの?

 今のは完璧だったはず」


 「やはり、噛み合わんなお主の力は」


 「どういう意味?」


 「お主の母上は大まかに言えば水の怪異。

 しかしお主は……、どちらかというと妾のような半妖の性質を感じるのじゃよ。

 お主の両親がコクユとミカ、両方が怪異じゃから単に力が弱いだけかと思ったのだがなぁ……。

 じゃが、妾の知る限りではミカが他の男と添い遂げたとは思えんからの………」 

 

 「えっと、つまりどういうこと?」


 「そうじゃな、力の性質を例えるなら川の流れみたいなものじゃな。

 火とか水とやらの属性とは異なる、水がお湯や氷といったものに変化していくとか、力の性質とはそういうものだと思えばいい」


 「それで、その性質が合わないとどうなるの?」


 「だから、そうじゃな………。

 熱いお茶が飲みたいのに、氷の塊が出てくると思えばいいのかの。

 つまり、普通に力を使うとは逆に扱うとかそういう感覚が必要になるんじゃよ」


 「え……それじゃ、今までやってたのって無駄?」


 「無駄という訳ではない。

 右手でやってたことを左手で同じように出来れば良いという話じゃよ。

 箸を逆の手で持っても食えるじゃろ?」


 「難しいこと言うなぁ……。

 ミタモは出来るの?

 反対の手でお箸を使うなんて?」


 「妾は両利きじゃから、問題ない。

 元々左利きじゃったが、親に矯正されたのじゃよ」


 「なるほど、そりゃ出来て当然か………」


 「まぁ今すぐ出来るようになれとは言わん。

 じゃが、性質が逆となると………いや、まさかな」


 「何か問題でもあるの?」


 「ミカがやっていたお役目というのが、どのようなものなのかお主は分かるか?」


 「えっと……詳しくは分からないかな。

 でも、この前もらった水玉を使う感じにやるんだよね?」


 「いや、まぁそれもじゃが………。

 それだけではないんじゃよ。

 妾も細かいところは教えて貰ってはないが、お主の母がやっていたのは水源の浄化と封印の管理。

 この二つをこなす事がお役目じゃった。

 この地の民の管理に関しては、お主の母が勝手にやったことではあるがな」

 

 「それじゃ、この前貰ったのって………」


 「あくまで水源の浄化のみ、封印の管理は何一つ手を付けてない。

 まぁ、アレは数十年一度顔を見せて、綻びがあれば補強するってだけなのじゃが………。

 コレに関連し、先程の話に戻るが封印の管理をする際力の流れが逆となるとどうなると思う?」


 「え………つまり、補強しなきゃいけないのに壊したり、その力を抜いたりしてるってこと?」


 「大体そういうことになるな。

 じゃがな、封印に綻びがあったとしてアレはそう簡単に解けるモノではない。

 アレを解こうとしたバカモンが過去に何人か居ったが大半が封印のあまりの強さに弾かれて終わった。

 妾でも恐らく解くのは無理じゃ、しかしそれはあくまでも力技での場合じゃがな」


 「力技じゃない方法で解けるの?」


 「主に三つの方法がある。

 正規の手順を踏むこと、あとは力技で無理やり解く。

 そしてもう一つが、同属性かつ性質が逆の力を用いて封印の手順を行うことが。

 今のお主では、この三つ目に該当しておるのじゃ」

  

 「えっと………どうしてそんなことになるの?」


 「妾も詳しい仕組みは分からん。

 昔からよく実家での座学をすっぽかしたからな。

 まぁとにかく、今のお主がそのまま力を振るえば、封印が逆に解けてしまうという話じゃ。

 じゃが、お主がその状態ならば両親のいずれかは人間、あるいはその状態に近い存在だったことになる。

 じゃが、妾がその状態を見逃す訳がないしなぁ。

 ミカに関しては、一応確認の為にもう一回お役目がどんなもんか目の前で実演させたからな。

 お主の父親であろう黒鼬も当然怪異であるからありえん話よ………」


 「じゃあ、私が何故かその、力の性質って部分が逆に働いてるってこと?」


 「よく分からないがな。

 この性質の部分に関しては属性含めて、親の遺伝で決まるものじゃ。

 仮に性質が変わる場合があるとすれば、人を山程食えばその魂の性質がより人間に近づいていく。

 じゃが、ミカが自分から人を食うとは思えん………」


 ミタモはそう言うと、説明が面倒になったのか身体を伸ばし大きな欠伸を欠いた。


 「とにかく、今度は性質を変えながら力を扱う練習じゃな。全く、世話が掛かる奴じゃよ。

 まぁ、とにかく力の扱い方に慣れる為に先程みたくもう一回力を使ってみよ。

 時間は限られておるんじゃからさっさとやれ」


 そう言って、千歳の鍛錬が再開される。

 ミタモはいつになく真面目な様子。

 何がアイツをあそこまで駆り立てるのか、俺にはよく分からない。

 千歳の母が昔の知り合いだから、そこまでしたのか?


 そこまでする必要があるのか?

 

 聞いたところで素直に答えるだろうか?

 

 どちらにしろ、明日には征伐隊が戻るか否かで今後の足取りが決まってくる。

 懐に仕舞ってある例の封筒を取り出し、彼等の帰りを俺は少しばかり心配していた。


 このまま何事も無ければいいんだがな……。


 

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