第三十一話 手掛かりは掴めず
ミヤコに訪れ、タマモと名乗る小娘から僕は見廻り組という方々についてのその後を聞くことが出来た。
かつての戦乱の時代、戦乱となるよう各国へと赴き悪事の限りを尽くした彼等はその責任を取るべく筆頭であった九葉という人物を筆頭に帝の命によって裁かれたとのこと。
彼等に仕えた怪異達も同様に厳しい処分が成され、多くは幽閉、何人かは行方不明になった。
そして、僕の探していた実の父親である黒鼬はというと………。
「黒鼬はね、つい最近行方不明になったの。
やるべき事があるんだって言い残して、彼はこの世の何処かへと行方知れず。
全く、困ったものだよね」
「僕の父親はまだ生きているんですね?」
「多分生きてるんじゃない?
彼等を知る者もまだそれなりに居るから、力は全盛期程にはないにしろ生存は確実。
昔の仲間を訪ねた形跡とかは幾つか見つかってるんだけど、それでも本体の行方は分からない。
全く、私も仕事増やされて困ったものだよ」
「…………」
「私さ、ほら結構強いからね?
上から色々と頼まれてるのよ?
効率よく沢山の仕事をこなすから、こうして適当にお兄さんを誘ってる訳だけどね」
そう言うと、自分が二、三口が手を付けた甘味の更を羨ましそうに見てきた。
このまま見られるのもアレなので僕は仕方なく、残りを小娘に渡した。
「ありがと。
で、君を探したのはそろそろ来るかなって分かってたからなんだ?
多分、父親探しかミカちゃんに何かあったのかのいずれかじゃないかなってね?
多分この前出した書類で流石に堪えたんだろうけど」
「この前の書類?」
「うん、そそ。
君、人を殺してるよね?
それも結構な数をさ?」
「なっ………何故それを?!!」
「あー、そんなに身構えなくていいよ。
別に私は知った事じゃないし、私も結構やっちゃうから言えたもんじゃないからさ?」
「…………」
「でさ、その書類ってのが要約するとね?
こほん……、
『いいかお前等?
お前等のやっている事は全てお見通し。
いずれ天に代わって成敗してくれるぞ
首を洗って待っておれ!
何とかしたければ、こちらの要求を飲め!
沢山の金と酒を用意しろ!!
用意しなければ、どうなるか分かっておるよな?』
って内容だったの。
まぁ、ちょっと誇張したけど大体こんな感じの内容。
酒倉井のお酒とか作物ってこっちじゃかなりの高級品でね、沢山取引したいんだけど高くて手が出せないとか競合が多くてね?
だからそれを何とかしたいからって、向こうの内情を小耳に挟んだ輩がこの手の書簡を向こうに投げたのよ」
「…………」
「で、私はまぁその辺りの案件に少しばかり関与していてね?
ミカちゃんの負担を増やすのは、多分無理だろうけどこっちの人間としてはもっとモノが欲しいって話なの。
どっちのことも何とかしたい、でも難しいなぁってところで君が丁度来てくれたわけでさ」
「現状として、母上はもう長くはありません。
こちらの要求としては主に二つ。
黒鼬の身柄をこちらへ引き渡し、母上との夫婦水入らずで余生を過ごさせてあげたいこと。
もう一つは、母上がお役目から引退する為新たにお役目を果たせる者を酒倉井に派遣して欲しい。
この二つを何とかしてもらえば………」
「ミカちゃんの代理かぁ。
結構難しい事を簡単に頼むね」
「そんなに難しいお話なのでしょうか?」
「水という要素の力だけで言えば、私とそこまで変わらないくらいだからね。
勿論私が代わりに受けるって手もあるけど、それじゃあの土地はすぐに駄目になるのよ。
あの地で畏れを得られたミカちゃんじゃないと成り立たないお役目になっている。
代役を派遣したところでもね、現代の怪異って昔より随分弱ってるからさ、一応探してはみるけどかなり難しいと思うよ?」
「…………」
「そんなに暗い顔しないでよ?
まぁすぐに駄目になる訳じゃないんだし、少しの間この辺りで色々と探ってみるのも手だと思うよ?
お兄さんについて、私も少し興味湧いたからさ?
この現代において、それだけ人を殺しておいてお咎めないのは珍しい存在だからね?」
「はぁ、まぁ時間が許す限りは構いませんよ。
向こうに一度報告したいですし」
「じゃあ、私の実家においでよ?
少しの間なら問題ないだろうし、部屋も空いてるだろうからさ?
それに、もっと強くなれるかもしれないよ?
お兄さん次第だけどね?」
「……………」
子供のような無邪気さを感じるが底しれない何か故に迂闊に信用するべきではないと思う自分がある。
しかし、今の僕ではこの小娘をどうこう出来る想像が出来ない。
さっきから、僕等を監視しているであろう人の目が増えているようだ。
小娘の仲間か、あるいは小娘を追う何者かか?
それとも自分を狙う者なのか?
「うーん、やっぱりここの甘味は最高!!」
「呑気なものだよな、あんた……」
●
小娘の実家に世話になり、ミヤコを拠点として父親の手掛かりを日々探す毎日。
彼女の母親、いや正確には祖母か……。
ミタマと名乗った彼女曰く、ここ日下家は由緒ある怪異の家系の一族らしい。
かつては母上もここで修行の日々を過ごし、お役目を果たすべく日々鍛錬に取り組んだそうだ。
かつての母上がどのような人物かを尋ねると、毎日弱音ばかりで泣き言ばかりの困った娘。
しかし諦める事はなく、物事は最後までやり通す芯の強さを持った者だったとのこと………。
「こんなものか………」
定期連絡の文に、父親の手掛かりが見つからない旨を書き記し役所に赴き故郷へ送る手続きを終えた。
依然として、何も変わらぬ状況に焦りを覚える。
が、焦ったところで自分が解決出来る問題なのかというと、答えは明白である。
「後継者も見つからない。
自分でも力不足、なら他に何が出来る?
最悪、タマモを説得するか?」
いや、無理だろう。
飽き性の小娘のことだ。
一度や二度やって、サボるのがオチ。
こんなのお役目を果たしたことにならない。
あるいは…………
「他に、母上の血を継ぐ誰かが居れば………」
そんな淡い期待をしたところで、無駄だろう。
思考を振り払い、屋敷に戻って僕は気晴らしにいつものように鍛錬に取り組むのだった。




