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第三十話 ミヤコへ手掛かりを求めて

 ある日の晩、僕は兄上の元へと呼び出され共に晩酌をしていた。

 毎週のように供物を持ってきている。

 これ以上に何かを要求するつもりなのか、下手に刺激せぬよう、あるいは適当な理由を付けてその場を去ろうと決め込んでいた。

 

 「今日は何の用があるんです?」


 「何か特別って訳ではないがな」


 「そうですか……」


 酒交わしながら、他愛もない適当な話を続ける。

 最近はこの役回りの都合上、人との関わりすら避けていたからこそ、話し相手はこの兄くらいだった。

 それが苦だとは、今更思うところではないが。


 「この間、母上が父親について語ってくれたよ」


 「父親について?

 あんなの俺達を捨てた薄情者でしょう?」


 「まぁ確かにそうかもな。

 母上の話によると、見廻り組の一人であったらしくてな、黒鼬という河獺カワウソの怪異だそうだ」


 「………つまり僕が父親似だったと?

 まぁ今更そんなのどうでもいい話でしょう。

 大昔の英雄とはいえ怪異、これまで一度も顔を出さなかった奴が、どの面下げて戻るんでしょうね?

 とっくの昔にくたばってるんじゃないですか?」


 「それはそれで母上には酷な話だな。

 あんな奴でも、母上は帰りを待っているらしい」


 「………」


 「なぁ、水獺?

 父親探しをやってみないか?」


 「それが今回呼び出した要件ですか?」


 「他にもあるさ、母上はもう長くはない」


 「供物が足りないんじゃないのか?」


 「供物は十分だ、あれ以上は怪しまれるくらいには。

 それに、もう頃合いだろうよ。

 そろそろ母上もお役目から身を引かせ、余生をゆっくり過ごしてもいいんじゃないかと思ってる。

 新たにお役目を引き継げる者を、ミヤコから呼び寄せても良かろうと思っている。

 それだけの資金はあるからな」


 「それで、今度は僕に父親探しですか?」


 「悪くない話だろう?

 人殺しよりは、マシな話だろう?」


 「なら、もっと早くから……。

 最初からそうするべきだったんじゃないですか?

 今更、これまでやってきた事をひっくり返すなんて馬鹿な話にも程がありますよ?」


 「……………」


 「心境の変化でも?

 それとも何か別の問題がありましたか?」


 「どうだろうな、そろそろ年貢の納め時なのだろうと思ってしまっている。

 この酒倉井を守り抜く為に、自分達はこれ以上何が出来るのだろうかと、ふと考えるんだ。

 しかし、考えれば考える程に自分の無力さを身に沁みてしまってな」


 「…………」


 「自分はお前のように力はないからな」


 「だが、頭は良かっただろう?

 だから集落を治める者として集落の皆から推薦され、この地を母上に代わって守り続けている。

 僕だって、自分に力があってもただ殺す事しか奪う事しか出来ないんだから」


 「感謝しているさ、お前にもな。

 だから、最後はせめて母上の為に家族の時間を残してやりたいのだよ。

 勿論、自分達を放り投げたクソ親父を一発ぶん殴ってやってからだがな?」


 「………分かりました。

 その話、受けましょう。

 殺しよりはマシな話ですからね」


 「ああ、頼んだぞ弟よ」


 

 兄上に頼まれ、僕は父親を探しを始める事になった。

 手掛かりとなるのは見廻り組という組織と黒鼬という名前くらい。

 ミヤコに彼等の本拠地があるとは聞いており、僕は最初にそこに赴く事となったのだが……。


 「迷ったな、うん」


 故郷の集落と違って、都会というものに田舎育ちの自分は目眩がする程賑やかに見えた。

 母上の実家であった場所を一度訪ねたものの、既に見る影もなく現在は適当な食堂の一角となっており今日の昼食を其処で済ませた。


 行く当てとはいえ、母上の時代に残した記録と集落で取引している幾つかの店の情報くらいしかない。

 というか、こういうのは兄上がやった方が顔が効いたのではと思いたくもなる。

 そして、頭に籠をかぶっている自分が珍しいのか人の視線が気になる。

 そもそも、人と話すのは苦手なんだがな………。


 「お兄さん、そんなところで何してるのかな?」


 「…………?」


 話しかけてきたのは謎の少女。

 頭の上には耳を生やし、まるで狐のようである

 いや、違う………ただの少女でない事は一目で分かる。

 この小娘、僕と同じ怪異だ。


 「何用だ小娘?」


 「こわいこわい、そんなに睨まないでよ?

 へぇ、君ってもしかして酒倉井の人?

 ミカちゃんと知り合い?」


 「母上を知ってるのか?」


 「母上………なるほど、そういうことね。

 私がミカちゃんにお役目を与えたんだよ」 


 「何?」


 「こんなところで話すのもアレだから、そこの茶店でお話しましょう?

 ミカちゃんの子ってことだし、今回は特別に私が奢ってあげるよ?

 悪くないお誘いでしょう?」


 「…………分かった、ではそこに向かおう」

 

 「ええ、行きましょう。

 私は日下ノ多摩藻ヒノモトノタマモ

 お兄さんの名前は?」


 「水獺ミナウセだ」


 「じゃ、行きましょうか?

 ミナウセお兄さん?」


 そう言って、目の前の小娘は僕の手を取りその茶店へと案内する。

 彼女の行きつけらしく、勝手に同じ甘味を二つ注文し甘味が届くとなんとも美味そうに甘味を食べ始める。

 見かけだけなら随分可愛いらしいが、その中の力がこれまで見た怪異の中、一番は母上だろうと思っていたがこの小娘の力の底が見えずにいる。


 「ん、食べないのミナウセ?

 もしかして甘いモノは苦手?」


 「そういう訳じゃない」


 「あー、じゃあ私に見惚れてた?

 駄目だよ、出会ってばかりでいきなりだなんて」


 「そろそろ話を進めて欲しい」


 「まぁまぁ、とにかく食べてからって事で?

 どうせ泊まるところもないんでしょう?

 というか、その身なりで街を歩くのは辞めた方がいいと思うんだけどね?」


 「この籠に何の問題があるんだよ?」


 「あー、知らない?

 昔この世をめちゃくちゃにして、戦乱を引き起こしたっていう厄六の連中の一人に、お兄さんの身なりが凄く似てるんだよ?」


 「………どういう意味だよ?

 厄六だと?見廻り組の間違いじゃないのか?」


 「見廻り組を知ってるんだ?

 へぇ、じゃあ君はアレを知ってるの?

 いや、まぁ今はいいや。

 とにかく、その姿で出歩くのは辞めた方がいい。

 一応忠告はしたよ?」


 「何が言いたいんだ、小娘?」


 「んー、黒鼬って奴を知ってるよね?

 そいつの姿と似てるのよ、お兄さんとね?」


 「何?」


 「向こうでどう伝わってたかは知らないけど、黒鼬含めて元見廻り組の人達はこのミヤコじゃ知る人ぞ知る大罪人の象徴なのよ?

 かつて世界で戦乱をもたらしてこの世をめちゃくちゃにした大罪人の中の大罪人。

 全く、困った人達だよね?

 そう思うでしょう、ミナウセお兄さん?

 いや、黒鼬の息子さんだったかな?」


 そう言い、怪しい笑みを浮かべる女。

 こちらの何もかもを見透かすようなその姿に、僕は心の底から恐怖を抱いていた。

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