第二十七話 いつか来るその日
あれからというもの、私はミタモさん達から色々な話を聞くことが出来た。
自分が何者であるのか、そして彼等は何の為に訪れたのかを、私に沢山話してくれた、
とても優しい人達だった、目覚めてばかりで不自由の多い暮らしを強いられたが私が回復するまでの間、私が治めていた酒倉井の土地の支援をしてくれたのである。
そして、私が目覚めてから一月が過ぎた頃。
自分の足で村のみんなに無事を知らせる事が出来るようにもなった。
それから間もなく、私達を支えてくれた見廻り組もとい厄六の人達が近々ここを去ることになったのだった。
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近く河原に訪れた私と九葉は、今後の事について色々と話していた。
現在、ミカ様の方にはミタモと黒鼬を付いている。
私は気分の晴れない中、河川の水面を見つめていた。
「本当にいいのか、沙苗?
無理して俺達の旅に付いてくる必要はないんだぞ?」
「そう言われてもね……。
ミカ様はあの状態だから、私からも黒鼬に色々言ったんだよ。
でも、残るにしてもこの旅は終わらせてからにしたいんだって……。
やっぱそこは、あいつなりの覚悟なんだろうけど」
「そうか、まぁ付いてきてくれるなら有り難いよ。
残すところあと一つ、終われば俺達の肩の荷も降りる訳だからな。
今回のが結構ぎりぎり、正直一番キツかったからな」
そう言って九葉は、河原の石を一つ掴むと川に向かって石切りをし始めた。
石は三回だけ跳ねて、そのまま水の中に消えてく。
「下手くそ」
「………、まぁとにかくだ。
付いてきてくれるのは助かるよ、本当に。
それで?、例の黒鼬は?」
「ミタモちゃんも一緒にミカ様のところでお茶しながらなんか話してる。
多分修行もするんじゃないのかな?
てところだと、私が邪魔したら色々悪いでしょ?」
「邪魔って訳じゃないだろ?
これからはお前にとっても家族になる御方なんだからな?」
「うーん、どうだろ……。
以前のミカ様はもう居ないの。
黒鼬や私、それどころ酒倉井のみんなが知る彼女はもう死んだも同然よ。
ミカ様が今後お役目を果たせるかも分からない、まして以前程の力も出せるとは限らない。
今回の件が影響して、そう遠くない内に命を落とすかもしれない………。
事態の解決には仕方のなかった事だって頭では分かってたけど、やっぱり辛いものは辛いよ……」
「確かにそうだ。
辛いものは辛いよ、それは仕方のないことだ」
「何よそれ、本当に分かってる?」
「………、どうだろうな。
俺はあの戦で散々人も怪異も殺したからな。
なんか、あれから色々と自分がどうとか他人がどうとか分からなくなっている。
でも、今はやるべき事が目の前にある。
黒の怪異の力に引き寄せられて起きてるこの世の危機を解決すること。
それが俺達、いや俺のやるべきことだと思ってる」
「じゃあ、それが全部終わったらどうするのよ?
やっぱり静さんと一緒に暮らすの?
別に悪い話でもないでしょ、向こうも嫌って訳じゃないしこの婚約が成立すれば戦乱の後の東西の国の友好にも近づく訳なんだしさ?」
「どうだろうな。
お前と違って俺は婚約云々は焦らないどころか正直どうでもいいんだからな」
「何よそれ、喧嘩売ってる?」
「違う違う、言い方が悪かった。
その、俺の家は兄達が家を継いで扱いに困った末っ子の俺がミタモと共に見廻り組に突き出されたんだ。
そして今度はお国の為に殺し合い、そして国の尻拭いの為に各地を巡って戦いの日々だろ……。
正直、そんな俺が今更国の友好の為に婚約だとかさ」
「………」
「まぁ俺達全員、訳ありな連中の寄せ集めだ。
よく隊としてまとまってくれたなぁとか思ってるよ。
問題ばかりで色々あったが、意外と悪くはなかった。
だからこそ、この見廻り組としての役目は必ず果たさなきゃならないんだって思ってる。
俺達が俺達で居られる為にな」
「答えになってない。
私は戦いが終わったらどうしたいって聞いてるの」
聞き直すと、彼は僅かに視線を私から逸らすと石ころを一つ拾い上げ、それを見つめながら口を開いた。
「なら、落ち着いたら各地をまた巡り直そうかな。
俺達がまだ訪れてないところも沢山ある。
休憩も仕舞いにして、俺達も仕事に戻ろうか。
さっさと此処の仕事を終わらせて、次に行こう、次」
彼はそう言うと、再び石切りを始めた。
投げた石は五回程跳ねると川の対岸に届き、彼は誇らしげな表情を浮かべていた。
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「力の扱い方はこのくらい。
全盛期程にはないにしろお役目を果たすには十分すぎるくらいじゃな」
「ふぅ……これで、終わり………」
目の前の女は息が上がったのか、力の取り扱いから離れるとすぐに地面に膝をつく。
これで手一杯、以前のような気迫の影もない。
「……、どうかしましたかミタモさん?」
「さん等は要らん、とにかく今後が大変じゃ。
お役目問題はなんとかじゃが、日頃の畏れをどうにかしなければ遅かれ早かれ死ぬぞ、お主?」
「…………」
「妾達怪異にとって、畏れとは食事の一つじゃ。
長命な者程、畏れを欠かしてはならん。
言わば怪異の力とは魂の一部から成り立つモノ、それが足りぬということは死活問題に直結する。
お主一人の命で済めばまだ良い、お役目を果たせず黒の怪異が復活してしまえば酒倉井の民はどうなる?
新たなお役目を果たす者をミヤコから派遣するにも、新たな候補が見つかるかも分からんからな……」
「そうですよね」
「元は妾達の責任じゃ。
多少の手助けは勿論するがこればっかりはのう………」
「ミタモ、今日はこのくらいにしよう」
そう言ってカゴを被ったいつもの黒鼬が彼女の元へと歩みよりその手を引き立ち直らせる。
「………、妾達の出発は近い。
もう悠長に待ってやる余裕はないんじゃぞ?
その辺、お主も分かっとるじゃろうに」
「無論分かってる」
「ならば、何故止めた?」
「これ以上は過度な負担になるだろう。
これ以上無理に身体を使うのは、かえって身体を壊してしまう」
「壊す以前に、さっさと鍛えねば同じ事じゃ。
それが分からんお主でもなかろう?
この際言っておくぞ、ミカよ。
お主の身体は、穴の空いた壺も同然じゃよ。
魂の塊に亀裂のようなモノが入っておる、故に何もせずとも力が漏れ出る。
その結果、お主は常に力が漏れてしまい以前程の力が出せなくなっておる。
放っておけば、外部から入ってくる力と漏れ出る力の量が逆転しそのままお主は死に至る」
「ミタモ………。
お前、もう少しだな……!」
「はぁ………そやつをあまり甘やかすな、黒鼬?
そやつが生きたければ、力を上手く扱えるようになるしかないのじゃ。
コレは情一つでなんとかなる問題ではない。
お主、愛や優しさ等で本当に腹が膨れると思っておるのか?」
「そう言う話ではないだろう」
「そう言う話じゃよ、愚か者。
お主、飢えた事がないのか?
力、魂の供給に飢えた怪異はどうなる?」
「それは………」
「えっと………あの、どうなるんです?」
黒鼬が言い淀む様子にミカは不思議に思ったのか、尋ねてくる。
正直、これが一番の問題………。
「魂を求めるようになるんじゃ。
飢えをなんとかしたいが為に、身体が本能のままに魂を求めるようになる」
「それってつまり………?」
「生き物を食い始めるんじゃよ。
人も怪異も関係なく魂のある者を求めてな」
「っ?!」
「黒鼬、お主は責任が取れるのか?
人を食い始めた怪異ならば、妾達は其奴を殺さねばならないのじゃ。
例えそれが誰であろうと、それを成す事こそ妾達が受けたお役目の一つじゃろう?
妾もお主も含めて、妾達がその罪が咎められずに居るのはこのお役目を果たす為じゃろう?
それを忘れた訳ではなかろう?」
「………当然、分かっている」
「邪魔立てするなら、お主でも容赦はしない。
神畏としてお主て組む沙苗も同罪として、妾達が手を下さなければならない」
「沙苗は関係ない」
「甘えた戯言を抜かすな、黒鼬?
沙苗も同罪じゃ、其奴が人を食い始め人を殺めた。
それでも其奴をお主が庇うならば、妾達はお主達を殺さなければならないんじゃ」
「………っ」
すると女を庇いながら腰に帯びた短刀へと黒鼬は手を伸ばしかける。
しかし、その手を女は押さえ黒鼬の前へと踏み入り、妾達の間へと割って入り込んだ。
「私は修行を続けます。
どうかお願いします、ミタモ………」
「………分かった、では再開するぞ」
「ミカ……様……」
「私は大丈夫です、黒鼬さん。
ありがとう、でもコレは私の問題ですから」
「…………」
そして、妾達は修行を日が暮れるまで行った。
出発前日、多少まともにはなったが………。
もし、今後会う時、人を食っておったならばせめて妾の手で介錯をしてやろう。
ミカがこれ以上、自身な大切な者達を傷つけぬように




