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第二十五話 団欒の一時

 見廻り組の人達が酒倉井の窮地に訪れ、共にこの地での問題の解決に動いていた。

 日々戦いが激しくなる要因として、やはりこの地の深くに眠る黒の怪異の力の影響が大きいらしい。


 現在各地でも同様の出来事が起こっているのだが、現状一番被害が少なかったこの酒倉井は各地の被害と見比べた結果後回しにされていたとのこと。


 「そういうことでしたか………」


 「一応俺達は、ミカ様一人で此処を守っているのだろうと予測していたからいち早く駆けつけるべきだと思ってたんだんだがな………。

 だが、上の判断は他が最優先とのこと。

 言い分としては、あなた様の力を信用しての判断。

 まぁ。黒鼬なんかミカ様に何かあっては遅いとかで一人でも向おうとしていたくらいだが?」


 「いや、それは………その………」


 「黒鼬さん……?」


 「とにかく、問題の解決に動く訳だが。

 ミカ様にやってもらいたいことがある」


 「何でしょうか?」


 「簡単だ。

 一時的に封印の強化を頼みたい。

 三日三晩程、ひたすら封印を強くすることだ。

 そうすることで、あの影を引き付ける力が弱まり次第に奴等の襲撃は収まる。

 この実例が最初に分かったのが、南の方の鬼の集落でのこと。

 昨年ようやく分かった解決方法でね、なんとも力任せというか、なんというか………」


 なるほど、確かに鬼の集落なら力技で解決しそう。

 でもソレと同様の方法で解決出来るのなら、こちらも試す価値はある。


 そして九葉さんは、左腕を隠したまま茶を啜り言葉を更に続けた。


 「でだ、問題はここから。

 周辺の怪異と戦って分かったが、この辺りの奴等は他と比べて段違いに強い。

 普通は大人一人で一体抑えられる程度だが、此処の影はやたらと強い。

 一体一体で少し手間が掛かるくらいにはな、あの物量を一人で抑えこんだ、あなたも中々だ。

 漏れ出る力と引き寄せる要因、更には他の集落が封印によって既に解決したからだとは思うが………」


 「つまり、通常よりも時間が掛かると?」


 「時間もだが、労力もそれなりに………。

 水の力に関しては、うちのミタモより上らしいが今のあなたは随分弱っているみたいだ。

 無理もない、だが無理も承知だがそれでも今のミカ様の方が水の力に関してはミタモより上なんだと」 


 「………つまり、私がやればいいんですよね?」


 「そうだな。

 でも最悪、死ぬかもしれない。

 あるいはその後遺症も考えられる。

 今後のお役目を果たすにあたって、以前のように強大な力を扱う事はまずもって不可能になるだろう。

 それでも、この地の問題を解決する為にはあなたの力に頼らなくてはならないのが事実は変わらない。

 勿論、ミタモも力の足しになるかは分からない協力するつもりだよ」


 「足しとはなんじゃ、そこまでやわじゃないわ!!

 まぁ確かに、弱ったお前より妾の力は劣るじゃろうがな……全く、恐れいったわ」


 「………はい。

 分かりました」


 「無理させて本当に済まない。

 その、どの程度の休めれば、力は戻りますか?」


 「………最低二日あれば問題ないかと」


 ほんとは一週間は欲しいところ。

 でもそんな猶予は残っていない。

 私は一日でも早くみんなを助けてあげたいから。


 「了解した、その間含めて俺達でなんとかしよう。

 決行は三日後、必ずこの地を守りましょうミカ様」


 そう言って彼はゆっくりと立ち上がると、そのまま部屋を後にした。

 しかし、その歩き姿に何処か私は違和感を感じた。


 「………あの、九葉さん、もしかして……」


 「あー、気付きました?

 左の方はこの前の戦で斬られたんですよ。

 まぁ、名誉の勲章みたいなものですから。

 心配せずとも、必ずこの地を守り抜きますよ。

 以前ちゃんと約束しましたからね、この地は必ず守り抜くと。

 この命に代えてもね?」


 そう言って彼はいつもの余裕そうな表情を浮かべる。

 しかし、そんな彼の様子に何処か曇った表情を浮かべているミタモの姿があった。


 

 翌日、久しぶりに身体を休めた私が起きたのは日も暮れた頃だった。

 長らく溜まった疲労の影響からか、空腹感もそうだが全身が強張り痛みで起き上がる事すら辛い始末。


 でも、ようやく解決の糸口が見つかった。


 あともう少し、もう少しだけ頑張ればいい。


 それで、ようやく平和が取り戻せる。



 そして私は食事を作る為に、台所へと向かおうとするとそこには既に沙苗さんと黒鼬さんが私の食事を先に用意していたのだった。


 「無理しないで下さい、ミカ様。

 今はごゆっくり身体を休めるべきです」


 「………沙苗さん、どうして?」


 「ほんとはおとう……んん、黒鼬に任せたかったんですけどその彼はあまり料理が得意じゃないので。

 仕方なく私が作ってるんです。

 ほんとは、気を回したかったんですけどね」


 「まぁ、そういうことになります」


 そう言って、虚無僧姿の彼は食事を作る彼女の後ろの方で何かをいじっている様子。

 よく見ると、私が折ってしまった彼の短刀がそこにあったのである。


 「………黒鼬さん、その………えっと。

 ごめんなさい、大事なものでしたよね………」


 「いや、いいんです。

 こちらこそ、遅れてしまって申し訳ありません。

 無事で何よりです、本当に……」


 「…………」


 「全く、ほらちゃんと側に行ってあげてよ。

 ほら、これから自分の奥さんになる方なんでしょ?」


 「いや、その……だがな……」


 「まあまあ。

 そんなのいいから、私に気にしないで。

 もう、それにミカ様と結婚するなら私にとってもはもう家族みたいなものでしょう?

 全くさ、せっかく会えたのに辛気くさいといったらありゃしない、黒鼬さ昔からそうだよね?

 あのさ?、私がいつまでも黒鼬が心配過ぎてこのまま私の婚期が遅れたらどうするの?

 私、もう二十過ぎてるんだよ私……?

 貴重な乙女の青春時代は戦で無駄になるわ全く。

 というか、この前の戦で私達が戦果上げすぎて私の故郷じゃみんなから怖がれてるんだよ。

 それなのに、その年でいつまでもウジウジとか……。

 黒鼬ちゃんと私の話聞いてる?」

  

 説教染みた事をテキパキと料理しながらどんどん言葉が溢れてる彼女。

 そして、当の彼はというと………


 「はい、ちゃんと聞いてます」

  

 と彼女の前では何とも形見の狭い彼の様子に私は少し変な笑いを浮かべていた。


 「あはは……」


 なんというか沙苗さんは以前会った時よりも随分とたくましくなっている気がする。

 年の離れた兄妹のような距離感だろうか?

 でも、二人の会話を見ていると何処か楽しそうで、本当に羨ましいとすら感じてくる。


 「ミカ様からも言って下さいよ!

 ほら、ちゃんとお話したいんですって」


 「ええ、そうですね。

 そうだ、沙苗さん?」


 「何です?」


 「縁談でしたら、私が良い方を何人か紹介しますか?

 一応、近隣の集落とか取引先のお相手とかそれなりにコネは幾つかあるんですけど?


 「本当ですか?

 でしたら是非是非!!

 ほらやっぱりミカ様いい人じゃん?

 黒鼬、ちゃんとミカ様を貰ってあげなよ?

 こんないい人、絶対もう二度と会えないよ!」


 「……そうだな。

 本当に、本当に自分には勿体ない方だよ……」

 

 そして、私達はこの日は三人で寝食を共にした。

 これほど賑やかで、幸せな時間はいつぶりだろう。


 この時間が、もう少しだけ続いて欲しい。


 私は心の底からそう感じていた。

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