第二十四話 約束を果たす為
見廻り組の人達はその後、この地での任を終えると間もなくしてこの地を去る準備をしていた。
そして、集落を出ていくその日の朝には村の人間総出で彼等を見送っていた。
「長らくお世話にました、皆さん。
その、連れが色々と迷惑を掛けました、本当に」
「何を言うか、ちゃんと壺は直したじゃろう?」
「そういう事じゃなくてだな、そもそも壺を割るなって話だよ」
二人のやり取りを見て、村の人達と私含めて、見廻り組の人達も笑い始める。
そして私は、ミタモの元へと駆け寄り酒瓶を三つ程彼女に手渡した。
「ミタモ、あんまり飲み過ぎないでよ」
「わかっておる。
酒も感謝するぞ、今宵の晩酌も楽しみじゃ」
「あはは。
でも、ちゃんとまた来てよ、ミタモ?
あなたの為にこの地をちゃんと残してあげる。
美味しいお酒も、勿論沢山用意してあげるから」
「ああ、楽しみにしておる」
そして遂に彼等を見送る雰囲気になったが、私は最後に黒鼬さんの元に向かっていた。
「ミカ様?」
「あの……その。
私、ちゃんと待ってますから。
全てが終わるまで、待ってるから……」
「………」
「だから、だから………!!」
言葉の先を言おうとした瞬間、彼は私を優しく抱きとめた。
「ああ、勿論だ。
必ず、ここへ帰って来よう」
「はい!」
集落のみんなが私達の様子を見て、大きく騒ぎ始める。
そして、見廻り組の人達も私達の様子に驚きと困惑の表情を浮かべていた。
「おー、傘坊主の癖に中々……」
「なっまじかよ………いつの間に?」
「えっ……黒鼬がえっ??!!
つまり、お義父さんがえっ??!!」
「あらまぁ、でもなるほど……。
とうとう先越されちゃったね、ミタモ?」
「くっ……まぁ酒があれば妾は良いのじゃ!!
ほれ、お前らいつまでじゃれ合っておる!!」
「まぁまぁ、いいんじゃないの?
にしても、旅先でお前が女を口説くとはなぁ………」
そんな騒ぎを終えて、彼等は私達の集落を後にした。
それから間もなくして、都から正式に土地の名前を授かることになる。
酒倉井、多くの人々を魅了する銘酒の生まれる土地。
この地で私は、彼等の帰りを待ち続けた。
翌年、私の元へ一通の手紙が届く。
静さんからの手紙である。
内容は、戦がより戦況が激しくなったこと。
ソレに伴い見廻り組の解散と組織に属していた神畏達が各領地にて徴兵された事を告げる内容であった。
彼等は故郷がそれぞれ各地様々である。
それが徴兵されたということは、いずれ仲間同士での殺し合いが始まるということである。
●
手紙から三年が過ぎた頃、戦はようやく終結した。
しかし、殺された多くの人々の影響からかその怨念が新たな怪異を生み出し、各地で問題を起こしていた。
先の戦によって各国が大きく戦力を失った時に引き起ったモノである為に、被害は甚大を極めた。
そして、戦の中心地から程離れたここ酒倉井においてもその怨念達が日々集落を襲い続けていた。
「皆さん、早くここから逃げて!!!」
幾度となく続く日々、直接戦火に晒される事が無かったこの地において連日多くの怪異のよる襲撃を受けるのだ。
最初は私だけで追い払えた。
しかし私の持つ力に惹かれたのか、あるいはこの地に眠る黒の怪異の力に引き寄せられたのかその数や怪異の力も徐々に大きくなっていく一方であった。
人々は徐々に精神が乱れ、私に対する畏れの力の流れが徐々に少なくなっていく。
襲撃が激しくなる中、私一人の力では当然限界がある。
にも関わらずこのままでは、本当に不味い………。
「ミカ様、我々は一体どうしたら?」
「ミカ様を信じよう!
ずっと俺達を守ってくれたんだ、この危機も必ずなんとかしてくれるはずだ!」
「でも、このままじゃ残りの食料にも限界が……」
「ミカ様!ミカ様どうか私達を助けて下さい!!」
「ミカ様ー!!」
どうすればいいの?
どうしたらいいの?
若い男の働き手みんな徴兵せれてほとんど居ない。
近隣の怪異達も自分の領地で手一杯。
見廻り組も存在しない、助けを求めようにも何処もかしこもあの怪異達に襲われている。
あの怨念達にみんなが苦しめられている。
「「ミカ様!!!」」
「……………」
どうしたらいいの?
私、どうしたらいいの?
ここまでやってきて、こんな終わりなの?
みんなで頑張って、繋いできたこの場所は……。
此処を守るのはお役目だけじゃない。
守らなきゃいけないのに……。
私がこの地を、酒倉井を守らなきゃならないのに。
私一人じゃ、私一人の力じゃ守りきれない。
「……………っ」
村の入り口に湧き上がる何体もの黒い影達。
先の戦で亡くなった人々や怪異の形をした亡者達。
彼等も望んでいないはずなんだ。
みんな、みんな……ただ自分達の国を……。
土地を、家族を守る為にそれだけの為に一生懸命だっただけなのに。
「こんなのおかしいよ……」
拳を握り締めながら、私は迫り来る影の前に立つ。
全身が恐怖で震えている。
当然だ、怖いんだから。
昔から私は何も変わってない。
弱いまま、ずっと弱かった。
でも、でも……弱かったから苦しんでる人達の為に頑張らなきゃって思ったんだ。
力があるんなら、役に立ちたい。
私がみんなに、助けられたように……。
私もみんなを、この土地の、酒倉井のみんなを助けたい。
「…………」
御守りとして、肌身離さず持ち続けている黒鼬の短刀を握り締め私はその切っ先に力を込める。
「ここは私達の居場所です。
絶対に、絶対に、守り抜いてみせる!!!」
それから私は力のままに影達目掛けて幾度となくその力を振るい続けた。
来る日も、来る日も、何度も、何度も。
何度も何度も何度も何度も、何度も………。
どれだけ過ぎたか分からない。
寝る間も惜しんで、少しでも村のみんなを守る為に私は戦い続けた。
でも、私一人だけじゃ無理だった………。
「っ………?!!」
その日、御守りだった彼の短刀がポキりと折れた。
敵は日に日に強くなる。
そして、私にも限界が訪れる
でも、でも……、
戦えるのは私だけ……。
折れた短刀を拾いあげ、残った更に短いボロボロの刃に私は再び力を込める。
まだ、負けられない。
守らなきゃいけない。
私は、この地を守らなきゃならない。
お役目だから、それが私のやりたい事だから。
この場所を失いたくないから。
ここは、私の、私達の帰る場所だから。
「私は、まだ負けられないの!!!」
その瞬間、何かの光が私の目の前を通り過ぎた。
そして目の前の影達が瞬く間に消え去った。
「…………」
そして、私の目の前に誰かが……。
いや、私の知るその人が………。
カゴを被った彼が其処にいた。
「遅れて申し訳ありません、ミカ様」
「黒鼬なの?………本当に?」
「自分だけじゃありませんよ」
そして、更に奥から現れる影達を颯爽と倒し続けるかつての彼等の姿が其処にあった。
「元見廻り組、改め厄六。
我ら、この酒倉井を救うべく只今をもってミヤコより参上致しました。
お久しぶりですね、ミカ様」
そう言って、かつてのミタモや九葉さん、そして見廻り組の人達が全員揃って目の前に居たのである。
「妾達が既に死んだかと思ったか、ミカ?
全く、相変わらず泣いてばかりかお主は?」
「遅いよ、ミタモ……みんな………。
私……私………」
「ふん、かつての恩を返してやるだけじゃ。
酒もたんと妾に用意してもらうからな、ミカ!」
「うん、みんなで此処を守りましょう!!」




