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第二十二話 騒がしい宴にて

 その日の夜、集落を訪れたミタモ達に向けて歓迎の宴が開かれた。

 私は別にそこまでしろとは言わなかったのだが、私の古い友人だということで今回の宴が長の命によって開かれた模様。


 仮屋として寝床を貸す程度だったはずなのだが、歓迎の宴が開かれた事にミタモ以外の人達は若干引きつった笑みを浮かべている。

 そして、先に仕上がっていたのは既に二本目の酒瓶を明け一気飲みしているミタモである。


 「酒じゃ〜!!もっと酒持ってこい!!!」


 「あららーー、こりゃもう駄目だわ。

 九葉、後で始末書を覚悟しておきなさない。

 あと、こいつの酒代はあなた持ちだから」


 「あー、あー……うん、分かってる。

 はぁ、今月の給料ちゃんと残るかなぁ………」


 ミタモ達を率いる九葉さんは、出会った頃の余裕そうな表情が枯れ木のような様子で乾いた笑いを浮かべ、目の前の煮豆を一粒一粒丁寧に食べている。

 そして、落ち込む彼を優しくなだめる彼の仲間の一人である長い黒髪を後ろに束ねた女性。

 見廻り組の副隊長である、しずかさんという人物でありこの隊の母親役みたい方らしい。

 そんな彼女に仕えているのは何処か呆れながらヒマワリの種を貪るリスの怪異、栗乎クリヤ

 浴びるように酒を飲むミタモを一瞥しながら、静さんの肩の上に座り食事を取っている。


 「全く、躾がなっとらんな。

 コレだから下品な狐は毎度問題を起こすんだよ」

 

 「そうだ、そうだ!!

 やっちゃえ、マルマル!!」


 「マルマルと呼ぶな!!

 黒丸コクガンと呼べといつも言ってるだろ小僧!!」


 「マルマルが怒った!!

 ミョウミョウも逃げろー!!!」


 「ちょっ、なんで私まで?!!!」


 そう言って、狼頭の大男が自身より半分くらいしかない少年少女を追いかけ回す。

 この騒ぎを面白がって村の人達は、もっとやれと更に騒ぎ立て煽っていたのだった。


 「あわわわ………」

  

 「済まないな、ミカ様……。

 本当、済まない……」


 そう言って、私の横に座っている屋内でも虚無僧姿のまま謝罪を述べる彼。

 ミョウミョウこと、沙苗さなえさんに仕える黒鼬コクユさんという方である。


 他の人達に比べて落ち着いてるというかどこか達観としている人物、黒丸さんも多分落ち着いてる方なんだと思うが子供相手にやけになる辺り、少々怒りっぽい人物だと思う。


 「いえ、別に大丈夫ですよ。

 集落の皆さんも久々の宴で楽しいみたいですし、私も久々にミタモに会えてとても嬉しいですから」


 「そうか……。

 だが、不味かったらミタモは任が終わるまで牢にでもぶち込んで構わない。

 正直、今すぐ彼女はそうして欲しいくらいだ」


 「そんな、閉じ込めるだなんて……」


 「いや、アレはだな………」


 と、言ってる側から酔った彼女が部屋の奥に飾っている大きな壺をマジマジと見つめ始める。

 確かアレは、十年くらい前に帝様との酒の取引が成立した際の祝い品として授かった代物。

 私の家では置く場所に困ったから、この宿に贈ったのだが…………。


 「おい、待て………ミタモ?」


 「コレに目一杯酒を入れろーー!!!!」


 そう言って、壺を両手で抱えてフラフラと訴え掛けてきた彼女………。

 彼女の蛮行を見かねた九葉さんが、彼女の抱えている壺を必死に引き剥がそうとする。


 「何をするんじゃ、妾の酒を奪う気か貴様!!」


 「馬鹿野郎!!

 それは駄目、絶対駄目!!!」


 「いやじゃーーー!!!」


 「やめてくれ、ほんとにやめて!!!

 マルマル頼む、ガキどもはいいから、まずこいつを止めてくれ!!!」


 「お前までマルマル言うな!!!」


 そう言って叫びながら、九葉と共にミタモから壺を引き剥がそうとする。

 しかし、男二人が必死になっているにも関わらず彼女から壺を取り返せない。

 

 「こいつ、そんな力を何処から………」

 

 「このクソ狐、いい加減にしろ!!

 なんだこの馬鹿力は……」


 「はーなーせーー!!!

 妾の酒じゃ、沢山酒を飲むんじゃぁぁぁ!!!」


 なんだろう。

 見てはいけない何かを見ている気がする。

 すると、ピキッっと嫌な音が聞こえた。



 「「「えっ??」」」


 一同の言葉が揃う。

 そして間もなく、嫌な予感が的中しミタモが抱えて壺が割れ始め音を立てて崩れてしまった。


 「…………………。」


 ミタモが突然に我に返り、足元に転がる壺だったモノに視線を向けると、ゆっくりと私達の方を見た。


 「「「……………。」」」


 言葉が出なかった、私含めて………。


 「小童、コレどうしよう?」


 「………………」


 九葉さんは思わず、横に立っていた黒丸さんに視線を向けると彼は視線を逸らす。

 そして、九葉さんはお仲間さん達にも視線を向けると皆揃って彼から視線を逸らした。

 そして視線は私へと向かった。


 「えっと……ミカ様?

 ちなみにこの壺はお幾ら程の?」


 「えっと………、都で流通している金貨換算でしたらその……五千枚程の……」


 「あわわわ………。

 おいお前ら!直せ、今すぐ直すぞこの壺!!!

 ガキ共も、静も来い!!!

 落ちた破片は全部集めろ、そしてミタモお前の力でコレ全部しっかりくっつけて直せ!!」


 「分かっておる、分かっておる!!!」


 発狂したかのように叫び始め、九葉さんとミタモさん達は落ちた壺の破片を必死にかき集めている。


 「本当に済みません。

 どうか、どうか寛大な処置を……。

 この狐の首なら差し上げますから何卒………」

   

 そう言って、私の横に座っていた黒鼬さんは虚無僧姿のまま私の前で地に頭をこすり付けて謝罪を始める。


 「阿呆!!しれっと妾を殺すでないわ!!」


 「あはは……」


 私もなんか色々あり過ぎて疲れてきた。

 コレは扱いに困るんだろうな、ミタモはほんと昔から変わってない様子。

  

 「頭をあげて下さい、黒鼬さん。

 その、悪いのはミタモですから……」


 「いや、その……ですが………」


 向こうが騒がしく、村のみんなも彼等の慌てている様子を酒のつまみに宴を再開し始めた。

 というか、飲まないとやってやれないなか涙目で酒盛りをし始めている。

 なんか、この場にいるのが少々きつい。

 黒鼬さん以外はさっきから壺を治す為に奮闘しているみたいだし………


 「黒鼬さん。

 ここは騒がしいので、良かったら二人で少し外で飲みませんか?」


 「自分とですか?」


 「はい、多分その……。

 こういう場だとお顔を出したくないんでしょう?」


 「………、わかりました。

 自分なんかで良ければ………」 


 そして、騒がしい宴の場を隠れるように私は彼を外に連れ出した。

 


 後から聞いた話だと、九葉さんの一月の給料が金貨50枚程らしい。

 あー、彼があれほど慌てるのも無理もないだろう……。

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