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第二十一話 お互いの変化

 「随分懐かしいな、ミカ。

 こうして再び会えるとは思わなかったぞ?」

  

 「私も同じですよ。

 突然居なくなって、心配したんだよ?」


 集落の周りを散歩しつつ、私と彼女は久しぶりの再開を喜んでいた。


 「あー、そうだったな悪い悪い。

 にしても、驚いたわ。

 まさか三百年足らずでここまで腕を上げるとはな。

 水の力にのみ特化させたとはいえ、既に我らが一族をとうに超えておる。

 あのクソババアも目じゃないわな、ハハハ!!」


 「口が悪いのも変わらないね。

 それで、何であの時家出したの?

 突然居なくなって、私心配したんだよ?

 お役目与えられてから連絡しようにも向こうとは取れないしさ?」


 「嫌な縁談があったから破談にしてやっただけのことじゃよ。

 そしたら、あのババァが突然こっちに斬り掛かって来たもんだから、妾が刀を取り上げそのまま家出したって話じゃ」


 「縁談を破談って、流石に不味いでしょ。

 そりゃ、あの人も怒って無理ないよ?」


 「ただの縁談だったら、別に断りはしてもあそこまで暴れたりせんよ。

 相手が相手で曰く付きじゃったからな」


 「そうなの?

 えっと、その人ってどういうお相手だったの?」


 「随分昔に両親を殺した奴等の一族に関係しておった奴だったから、荒事を起こしただけのこと。

 既に百年は過ぎ人も変わって過去の事だとあのクソババアは抜かしおったが、どうしても許せんくてな」


 「そっか………。

 うん、それなら怒るのも仕方ないかもしれないね。

 お姉さんはどうだったの?」


 「あの姉なら、その事実を知った途端に動き始めると陰湿な程に十年の手間を掛け、その一族を滅ぼしおったな。

 妾と違って、アレは怪異の本能のままに動きおるやつやからのう。

 慈悲のクソもないわ。

 まさに己の思うようにやるだけじゃからな、末代まで呪うどころかその代で根絶やしにするほどじゃよ」


 「…………そうなんだ」


 彼女の言葉に私は信じられずにいた。

 あの時以降ほとんど顔を合わせる事は無かったが、自由奔放とはいえミタモのように優しい存在だったのを今も鮮明に覚えている。

 しかし、彼女の言葉が嘘とは思えない。

 ミタモの告げた言葉こそ、あの人の本性なのだろうか?


 「まぁ、こっちの事は気にせんでも良い。

 今はそれなりに上手くやってるからな。

 それで、お前さんはどうなんだ?

 この地に来て、それなりに年月も経っただろうに?」 



 「うん。

 最初は集落の人達と馴染めるか不安だった。

 でも、修行の甲斐もあってお役目は無事こなせたし集落の人達にも助けられて………。

 それから百年くらい前かな?

 この村のみんなでお酒作りを始めたのよ。

 私の力で浄化された水源を活用して、集落のみんなが新しいことをやりたいってことをきっかけにね。

 外貨も手に入れば、集落のみんなの暮らしが少しでも良くなるから私も勿論協力したの

 最初は色々と苦労けど、十年くらい過ぎてからやっと軌道に乗り始めて近隣との取引でこの地のお酒の流通経路を確保出来たりとか、私なりに上手くやってる」


 「ほう、酒とな?」


 「うん、ミタモはお酒飲めるんだっけ?」


 「ああ、酒は妾の大好物じゃよ!」


 「そっか、なら今夜沢山用意してあげるね。

 来年から販売予定の新作もあるから、良かったらそれもどう?」


 「新作じゃと?!

 ああ、是非ともご馳走になる!!」


 私の横で子供のようにはしゃぐ彼女。

 尻尾を振り、感情の高ぶりを全身で現している。

 しかし、気になったところがある。


 「前会った時と、少し変わった?

 老いたとかじゃないよ?

 その……口癖がなんか前と変わってるというかさ?」


 「ああ、小僧もとい九葉の元に住みついてから色々あってな……。

 妾とかそういう言い方にしたほうが、威厳があるからその方がいいんだと」


 「そうなんだ?

 口癖一つの畏れの表れの一つみたいな?」


 「そんなところじゃな。

 全く、昔はもう少し可愛げがあったものを今はその面影すらない。

 人の成長、そしてその老いは妾達怪異と違って一瞬のことだからな?

 少し前までクソガキも良いところなのが、もうデカくなりおってからに………。

 あの小僧のふんどしを換えてた頃が、妾にとっては昨日のようなものじゃ」


 「あはは……、でも確かに人間は私達とは生きる時間が違うからしょうがないよ。

 私も最初の頃に出会った人達はもうみんな居なくなったからさ。

 それどころか近隣の集落も人が減ってるみたいで、当時その集落を治めていた怪異達の力も落ちてるくらいでね、後継者に値する者達も見つからないようだから」


 「ほう、お主が他の集落の心配する程の余裕とはな」


 「意外かな?

 ほら、やっぱり自分達の集落だけじゃ自足が難しい部分があるでしょう?

 だから、それぞれの集落で作る野菜とか役職を分けて、それなりに交流を取るようにしていたの。

 最初はよそ者が口を出すなって当然な反応されちゃったけど、村の人達と協力して少しずつ信頼されるようになったんだ」


 「なるほどの、集落によって役割を分担するとは中々の妙案を思い付いたな?

 確かに、一つの集落のみで全てを養うのは当然難しい部分も多い」


 「うん、あとはやっぱり交易する為に外貨も欲しいってところがあるんだよね?

 お薬とか調味料とか、生活に欠かせない部分だけど知識とか自分達だけじゃ賄えない部分も当然あるの。

 だから外貨を稼ぐ為に協力して、それが結果的に協力する為に必要な交渉材料になってくれたんだ」


 「………、お主そこまでしていたのか?

 そんな面倒なことなど村の衆に任せてくおけば良かっただろうに?」


 「そうなの?」


 「お役目を果たすことを最優先にしておけば、あとは適当に飲み食いしてれば良かっただけの事じゃからな?

 あのクソババアから、そんな面倒事をお主に押し付けていたのか?」


 「違う、違うよ?!

 私が勝手にしていただけだよ、うん。

 ほら、昔は食うに困る生活ばかりでみんな必死だったんだけど、その後も色々と問題が浮き彫りになってきて自分達で解決しようにも、彼等の思考には当然限界があったの。

 だから、自分達で問題解決が出来るように修行期間に頭に入れたモノを私がどうにか紙に書き込んで、小さな寺子屋みたいなのを始めたんだ。

 まぁ、最初はそんなの何の役に立たないって言われたんだけどね………」


 「…………」


 「でも、私は自分達の生活の為になるんだってことを村のみんなに必死に説得したんだ。

 話し合いだけじゃ無理なら、当然力技も辞さなかった。

 私の力ばかりに頼ってばかりじゃ駄目なんだって、自分達の土地なんだから自分達で養えるところはちゃんと自分達でやらないといけないって………。

 与えられて、甘えてばかり子供じゃない。

 大人なんだから、自分の生活くらい自分でちゃんとしなきゃ駄目なんだって………」


 「呆れる程のお人好しじゃな。

 怪異は畏れの力が全てじゃ、そんな事をしてもお前の為にはならんじゃろ?

 気まぐれに恩恵を与え、気まぐれに厄災を起こして人間からは機嫌取りと信仰や供物を受ければ良いだけの事じゃからな?

 それをわざわざ、人間共を自立させ自身への信仰から遠ざける真似をするなど、馬鹿馬鹿しいにも程があるわ」


 「でも私のしたことは間違いじゃない。

 それは今の私を見ればわかるよね?」


 私の言葉に、何処か驚いた表情を見せる。

 

 「言うようになったな、全く……」


 そう言って、私より一歩程前を歩き始めると何処か楽しげに青い空を見上げたのだった

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