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第十九話 出会い、そして


 タマモと名乗る妖狐の誘いを受けて屋敷を尋ねて間もなく、大きな赤鬼の門前払いなど色々とあったが彼女の妹と名乗るミタモさんの救いの手もあり無事屋敷の中へと入る事が出来た。


 そして、案内された先ではミタモさんよりも遥かに大人びた妖艶な金色の毛を伸ばす妖狐の姿があった。

 遊郭にでも居そうな掴みどころのない浮世離れしたような風格を漂わせる彼女。


 上品にキセルを吹かしながら、こちらの姿を見る様はまるで品定めをするかのようである。


 ミタモさんがタマモさんの妹さんなら、この人が多分二人の母親なのだろうか?


 「客を連れてきたぞ、クソババア!」


 元気いっぱいにそう言った刹那、彼女の拳がミタモさんに放たれる。

 その場でミタモさんは床に転がりのたうち回るも、彼女に向かって追い打ちを掛けるように襟首を掴み上げたのである


 「言い方ってもんがあるよね、ミタモちゃん?

 いつも言ってるでしょう、大御母様とお呼びなさいと?

 客人の前でそのようなはしたない姿を晒すなど、全く困った人ですね、貴女は?」


 「くっ……いきなり暴力振るう馬鹿に言われたくないんだけど……。

 クソババア?」


 「はぁ……、全く仕方のない子ね」


 そう言うと彼女から手を離し、元居た場所へと戻り座布団へと膝を下ろす。


 「こほん、では改めて……。

 私は日下家現当主を務めている、日下ノ珠代ヒノモトノタマヨと申す者。

 そこの子狐から見れば祖母に当たるわね。

 あなたの事はタマモから聞いてるわ。

 例のお役目をあの子の代わりに務めてくれるそうね?」


 「あ……はい、えっと私の名はミカと言います。

 その、えっとお役目とかそのまだ良くわかってなく、私の母からはやるだけやってみたらどうとのことでその……」


 「そう緊張しなくてもいいわ、お役目を担うまでの間はここで暮らす事になるのだから。

 堅苦しくせず、実家と同じように過ごして貰って構わない。

 部屋も沢山空いてるし、好きな部屋を使うといいわ。

 今日はそうね、来てすぐ客人の身に色々させるのは大変だと思うから……ミタモ」


 「……何です?」


 「ミカさんにこの屋敷の案内をしてあげて」


 「えー、すごく面倒なんだけど」


 「ミタモちゃん?

 家を抜け出して、街での買い食いから帰ってきた事に対してのお咎めとしては、これ以上ない程に温情を込めた対応だとおもうのだけれど?

 その件に対しての弁明はどうなのかな、ね?」


 「はい、しっかりと務めさせて頂きます。

 大御母様」


 そう言うと私の手を取り、部屋を後にしようとする。

 

 「え……、あの、その?」


 「それじゃ、また機会があればお話しましょう」


 タマヨさんのその言葉を最期に、ミタモの手に引かれてそのまま部屋を後にしてしまった。


 

 「あの、クソババア……何処から見ていたんだよ」

  

 「え、あの、その……」


 「ああ、悪い。

 とりあえず屋敷の案内をするから、付いてこいよ」


 そう言うと、粗雑ながらこの大きなお屋敷を一通り案内していく彼女。

 部屋を巡り、途中欠伸を欠いたりと抜けてる節は目立つが彼女から放たれる魅力的なナニカがある。


 「私の顔に何か付いてた?

 まさか、食べてた団子の餡が……」


 そう言い、必死になって口元を拭く彼女。

 抜けてる面が目立つが、やはり同じ怪異でもその差は明らかだと言える。


 「ううん、そうじゃないの……。

 えっと、私達同じ怪異とは思えなくて……。

 怪異にも色々あるけどさ、ミタモさんやその家族の人達みたいな凄い方とかはこうして見ることが無くて……」


 「あー、なるほどね。

 でも私とクソ姉貴は、あのババアとは違うよ。

 父親が人間なんだよ、だから半妖って呼ばれる存在みたいなんだよね。

 あのババア曰く、私達の母親は人間の男と駆け落ちした言ってたからさ」


 「駆け落ちって、なんか凄いですね……。

 そんなに魅力的な何かがあった御方だったんですか?」


 「いや、普通の人間だよ。

 何なら、一般人より少し弱い。

 母親は男の趣味が昔から悪かったらしいからな、まぁそれから色々あってここに引き取られた訳だし」


 「引き取られたって?」


 「私達の親は人間に殺されたんだよ。

 狙いは、私達に生えてる尻尾の為だな。

 この尻尾は妖狐にとって力を貯められる貯水池みたいな役割をしている。

 その力は妖狐の長命を保つのに欠かせない代物であり、一族の誇る強大な力はこの尻尾ありきのモノ。

 人間はかつて、それを食らえば不老不死の妙薬になるとか、高い値で売れるとかで片っ端から手を付けおったからな。

 結果、母親は私達を逃がす為に殺され、怪異の味方をした父親も同じく人間に殺された。

 そして、残された遺言に従って訪れたこの屋敷に私と姉は引き取られた。

 向こうも跡取りには困っていたからな、丁度良かったんだろうけど………」


 「そんな事が………」


 「別に昔の事だから今更気にしてもしょうがない。

 てか、そっちの方が面倒な事に付き合わされて大変そうだな?

 あのクソ姉、自分の仕事を周りに押し付けてばかりで、この前も御上から色々と小言を言われたばかりだろうに」


 「あはは………。

 あの、それじゃ私なんかで本当に良かったんですか?

本来はあなたのお姉さんが引き受ける大事なお役目なんですよね?」


 「………そう言いたいところだけど、人手が欲しいのは事実みたいらしい。

 クソ姉一人で事は済むが、その範囲が広すぎる。

 後継者あるいは代役を何人か立てなければ、維持は難しいらしい。

 それに、あんな奴だけど見る目は確かだから……」


 そう言うと、何処か羨ましそうに私へ視線を向けた。


 「でも、私じゃ……何も出来ない……」


 「力の扱い方を教わってないでしょう?

 せいぜい日常生活で困らない程度くらいは。

 でも素質自体はあるよ、全ての属性とはいかないが水の力という側面に関しては私より優れてるし。

 私は全部一応出来るけど、あなたみたいに一芸に特に秀でてる訳じゃない半端者だから。

 ほら、一応その部屋が空いてる客間だから好きに使うといいよ。

 荷物とか一回そこに全部置きな」


 彼女に言われた通り、目の前の部屋に自分の荷物を置くとミタモさんは頭の後ろを掻きながら欠伸をする。

 眠そうにしている彼女の姿からは、何処か寂しそうな哀愁を感じた気がした。


 

 紆余曲折あって、私はそのままこのお屋敷に住み込みで修行の日々を送る事になった。

 修行自体は当然厳しいものであったが、横でミタモさんがサボって何処かへ行ってしまったのを探しに回ったり、一緒にミヤコのお祭りを巡ったりもした。


 苦しい事の方が多かったが、常に一人で一歩引いてしまっていた私にとってその手を伸ばして引っ張ってくれる彼女の存在が特別になっていった。


 この日下家の存在ともあって当然凄い力を持っていた事に日々感心を覚えていたがいつしか彼女のようになりたいと思うようになった。


 ミタモのような存在になりたい、彼女に認めて貰えるように、せめて私に与えられたお役目を全う出来るくらいにはなりたいと………。


 そう願って、ひたむきに取り組み続けた結果。

 

 修行開始から二年で私は日下家から正式にお役目を与えられ現在は名もなき東ノ国にあるという集落へと向かう事になった。

 

 この知らせをいち早く彼女に伝えたい、そう思って彼女の元へと駆け寄ったがその姿はない。

 後に当主様から聞いた話によると、ミタモは家宝の刀を持ち出して家を飛び出してしまったらしい。


 何がそんなに嫌で飛び出したかは分からない。

 でも、いつかまた会える。


 その時には彼女に認められるような立派な存在になろうと、そう誓って……。

 

  

 

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