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第十八話 むかしむかしのことで

 昔々、この村では度々起こる飢饉に人々は悩まされていました。

 ろくに雨も降らず、土壌は穢れ、しかしここ以外の地は大きな獣達が巣食い住む場所もありません。

 

 人々は祈りました、恵みを下さいと、

 人々は祈りました、水を、水を……。


 天はその祈りに答え、空から大きな水の塊が降り立つとそれは徐々に人の形を成していきます。


 人のカタチをした水の化身は、人々に問いました。


 「どうして、ここに住み続けるの?」


 その問いに村の人間は、答えました。


 「私達にはここ以外に住む場所はありません。

 しかし、ろくに雨も降らず、穢れたこの土壌ではまともな作物も育ちません」


 「…………」


 「どうか、助けて下さい。

 この地に恵みを、あなた様の御力で何卒………」


 「分かりました」


 そう言って、水の化身はその手を天にかざすと空に雨雲が浮かびぽつぽつと、やがて大きな雨が振り始めたのです。


 「私の名は水迦ミカ

 この地に恵みと畏れを与えるモノ………」


 ミカと呼ばれる存在がこの地に降り立ってから数年程でこの村は大きく栄えていきました。

 これは、この小さな村が酒倉井と呼ばれるまでの数奇な物語。

 


 「…………」


 「ミカ様が、何かを見ておられるぞ」


 「きっとこの地の異変を察知して見回りをしているに違いないわ」


 「ありがたいな。

 ミカ様の御力でこの村は本当に救われている」

 

 そう言って、私の方を遠目で眺めては手を合わせてお参りする村の人間達……。

 

 違う、本当はただ適当にその辺を散歩していただけ。

 いつの間にか、神様みたいに扱われてるけど私は別にそんなんじゃない……。


 

 あの村に訪れる二年くらい前のこと。

 私は当時、ミヤコの方で普通に暮らしていた怪異の一人だった。

 少しだけ周りより力が強くて、それがとある御方の目に留まり、いつものように買い出しの買い物に向かっていたところで声を掛けられたのだ。


 「ねぇ、そこのお嬢さん?

 私と少しお茶でもしない、奢るからさ?」


 そう、ありきたりなナンパで私に声を掛けてきた私より少し小柄な女性。

 一見すると子供だが、彼女から僅かに漏れる力のソレに只者では無いことが本能的に分かる。

 頭の上に狐のような耳があり、このミヤコでも名のしれた妖狐の一族かもしれないとすぐに頭で理解する。


 関わったら不味い……。


 「あの、えっと……何で私?

 その、あの……私その忙しくて……。

 すみません!!」


 そう言い、私は彼女の元をそそくさと立ち去った。


 「あっ……もう、酷いなぁ。

 別に脅した訳でもないのに……」


 余計な面倒事に絡まれたくない。

 とりあえず、すぐに立ち去ったしこれで大丈夫だと思ったのだが………。


 「ねぇ、お嬢さん?」


 翌日再び街を歩いていると、昨日の少女に再び声を掛けられた。

 

 「ひゃっ?!!」


 「そんなに驚かないでよ、もう……。

 それでさ、ちょっとお話が………」


 「だからその、私忙しいのでこれで!!」


 そして、また数日後にも………。


 「ねぇ、お嬢さん、お話いいかな?」


 また数日後


 「ねぇ、だからお話……?」


 そのまた数日後も……


 「ねぇ、少しだけだから!」


 「放っておいて下さいぃぃ!!!」


 妖狐の少女は何度も私に声を掛けてきた。

 流石にもう引っ越しでもしようかなと、両親に相談しようと帰宅した際には………。


 「あら、お帰りミカ。

 あなたに可愛らしいお客様よ?」


 「ようやく帰ってきたね。

 あ、おばさんこのお菓子美味しいね、手作り?

 作り方今度教えてよ?」


 と、家の中で私の母と仲良くなっていたあの少女が居たのだ。

 

 「あはは………」


 もう、これどうにもならない……。

 どうしてこんな事に……。

 というか、本当に何なのこの人………


 そして、夕飯まで家で食べていき食後の茶を飲みながら一息ついて、わざわざ出向いた理由についてようやく話を切り出したのである。


 「夕飯ごちそうさま、いやぁ色々ごめんね。

 さっさと用事済ませたかったんだけどさ。

 で、君に話しかけたのはちょっとさお役目を引き受けて貰いたいんだよね?」


 「お役目?」


 「そうそう、強い水の力を持つ怪異を探していてね丁度良さそうなのが目に入って、それが君だった訳なんだよ」


 「はぁ……。

 それで、一体私に何をさせるおつもりで?」


 「東ノ国のとある土地の地下深くには、あるモノが眠っていてね。

 それを君の持つ水の力を用いて鎮めて貰いたいんだ。

 土地全体にまで穢れも行き渡ったり、水の循環が悪くて雨も降らないような場所なんだけど。

 一応そこに住んでる人間もある程度は居るんだけど、あのままだとみんな飢え死にだからね。

 私が出向こうかなぁって思ったんだけど、立場上色々と忙しいからさ?

 だから代役として、誰か欲しかった訳なんだ」


 「いやいや!

 急にそんなことを言われても私なんかじゃ絶対無理ですよ!!

 家周りの事で、もう色々と精一杯なんですよ!?」


 「大丈夫、大丈夫。

 そこら辺は私の家でやり方とか教えるからさ?

 勿論報酬は弾むし、無理そうなら途中で手を引いても構わない。

 まぁすぐに返事しなくていいよ」


 そう言うと、少女はゆっくり立ち上がる。

 そして、服の下から一枚の封筒を取り出し私へ手渡した。


 「私の家の住所と、この封筒の中身を門の前に居る人に見せれば通れるはずだから」


 「え……いや、その……」


 「あ、忘れてた。

 自己紹介がまだだったね?

 私の名前は日下ノ多摩藻ヒノモトノタマモ

 それじゃあまた会いましょう、ミカちゃん」

 

 そう言うと、煙のように彼女の姿はその場で消え去った。

 あまりに突然の出来事に困惑を隠せない中、私の手に握り締められた封が彼女の存在を本物であると認識させる。

 それから色々と私は悩んだが母に強く勧められ、半ば強引ながらやれるだけやってみるという結論に至った。

 直接向こうの目に見せれば、私なんかじゃ無理であろうと向こうも早々に諦めてくれるかもしれない。

 そんな淡い期待を、タマモと名乗った少女の住む屋敷の前に立つまでしていたのだが………。


 「此処を誰の屋敷と心得て居る!

 ミカド様直属の偉大なる妖狐の一族、日下家の屋敷にあられるぞ!!

 お前のような矮小な怪異の来る場ではない!!

 早々に立ち去れい、愚か者が!!」


 「あわわわわ………」


 いざ、封筒の中に記されていた住所の元に向かうと人の三倍はあろう体格を持った赤鬼の門番が居た。

 手には勿論、私の倍はある大きさの金棒を握りしめ地面に何度もぶつけこちらに圧を掛けてくる。


 ですよね?

 私なんかが来ていいところじゃないですよね?


 ほら、あの鬼の人めちゃくちゃ睨んでるし。

 私みたいな小さいのは、一口で飲み込まれるかも。

 いや、流石に丸呑みはしないはず……。

 

 というか鬼の門番が居るなんて聞いてないよぉぉ!


 「あの、えっと……ですね。

 私、その……た、たま、タマモさんに呼ば……れて。

 その、えっと……あの………」


 その名を聞いた途端目つきがより険しくなり、いきなり地面に金棒を叩きつけ激しい衝撃が辺りに広がる。

 当然、ただの一般怪異の私じゃ何もできない。


 「タマモ様に呼ばれただと?

 嘘を言うでないわ、小娘!!

 何処でその名を聞いたか知らぬが、あの方がお前のような者を招くはずがないのだ!!

 これ以上ふざけた事を抜かすなら、いかに女であろうとその頭をかち割ってくれるわ!!」


 私の前でしゃがみ、金棒を肩に乗せながらこちらを鬼の形相で睨んでくる。

 いや、元々この方は鬼ですけど………。


 私と鬼のやり取りを遠目で見る人達は、皆私が視線を向けると逸らしてしまう。

 

 あ、これ駄目だわ……私、死ぬ……。

 お母さん、御免なさい、私ここで終わりかも……。


 今にも泣きそうになり、途方に暮れていた時。

 手から例の封筒が溢れ、鬼の足元へと落ちていく。


 「何だ、これは?」


 そう言って、小さな封筒を器用に鬼は開けて広げると先程までの怒りに満ちたその顔がみるみる青ざめていく。

 赤鬼の彼が、青鬼と言われてもおかしくないくらいに手紙の内容を見た瞬間慌て始めたのだ。


 「あ……あの、一体、何があって……」


 容態が急変し、身体が震え始めた鬼に手を伸ばすと私の手が触れた瞬間鬼の門番は私からすぐに離れ、地に頭を擦り頭を下げ始めたのである。


 「申し訳ありませんでした!!!

 本当に客人だとは思わなかったんです!!

 本当なんです、ええ!!!

 どうかお命だけはご勘弁下さい!!!

 私には妻も幼い娘も居るのです、ですからどうか先程のご無礼を何卒お許しをぉぉ!!!」


 「え……あ、え……?」


 先程までの光景から一変、巨大な鬼が突然態度を変えて謝罪をする様に困惑を隠せない。

 さっきまで私から視線を逸らしていた通行人が足を止めてこちらをじっと眺めているのでたる。


 「どうか、どうかお許しをぉぉぉぉ!!」

 

 鬼の大きな泣き喚く声が辺り一帯に広がり、収集がつかなくなりそうだったその時、赤鬼目掛けて大きな落雷が天から落とされたのである


 「さっきからうるさいぞ、赤介アカスケ!!

 近所迷惑になるのが分からないの!!」


 目の前の赤鬼が落雷によって黒焦げになり、突然の出来事に頭が追いつかない。

 「ゲホッ………あ、その声はミタモ様……」


 「全く、これだから図体だけの奴は……」


 落雷が落とされて、ようやく冷静になったのか泣き喚く声が止まった。

 というか雷落とされて、ほとんど無傷である。

 

 雷を受けて無事なの……。


 そして、ゆっくりと空から降り立つ綺麗な女性。

 タマモさんと同じ妖狐なのだろうか、しかし彼女より大人びておりこの世のモノとは思えない


 「で、お前は?」


 「あの、えっと……ミカと言います。

 その、以前そのタマモ様に呼ばれたのでここに」


 「あー、アレの知り合いか、お前?

 はぁ、色々と済まないな、家の者が迷惑を掛けた。

 私はミタモ、タマモは私の姉なんだ。

 あの馬鹿に代わって代わりに中を案内しよう、付いてくるといい。

 ほら、さっさと行くぞ。

 赤介、お前は入口の掃除でもしていろ、たわけめ」

 

 そう言うと、私の手を引き屋敷の中へと連れ込む。

 粗雑で強引というか、なんというか……。

 お屋敷の令嬢様にしては何処か強気で、どちらかと言うと姉御肌の御方である。


 というか、この人はタマモさんの妹さんらしい。

 しかし、あの人よりも大人びている容姿にむしろこの方の方が年上に思える。


 一体、これからどうなるんだろうか……。

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