第十四話 手を掛ける真意
ミタモの指示に乗っ取り、私は流派のある場所探す為この地の野山を歩き回っていた。
教え方は少し雑だが、指摘は的確。
生きた歳月、血統、経験、才能、実力。
全てが私よりも、いや恐らく亡き母よりも強い力を彼女は持っている。
「…………」
「まだ分からんか、流派のある場所が?」
「黙ってて下さい、集中しないといけないので」
「………、無駄じゃな」
「だから、黙っててって……」
「この辺りには大きな流派がない。
街中の方がはるかに恵まれておるわ」
「…………」
「全く、これだから……」
「あっそ、分かった……。
でも、街中にこんなの置いてたら盗まれちゃう」
「確かにそういう輩も居るじゃろうが……。
まぁ扱い方も知らずに下手に盗めば、辺りが三日三晩は洪水に晒されるじゃろうな」
「ちょっ……、それ先に言ってよ!!」
「面倒な奴じゃのう……全く……。
そういう小言はお主の母によく似ておるわ」
「……、ねぇ?」
「ん?」
「あなたは何で神畏なんてやってるの?
別に、そんな面倒な事をしなくても良いくらい強い力がある。
だから、何で彼と組んでるのか分からない」
私の問いに僅かに言葉に悩んだ仕草をミタモは見せると、淡々と理由を語り始めた。
「……、利害の一致じゃからな。
そもそも、妾も元神畏。
そんな妾じゃが組んでた相手を殺して、長らく牢屋にぶち込まれておったからのう?
流石にずっと牢屋も飽き飽きしておったからな、丁度良い息抜きじゃよ」
「あの人の目的は復讐でしょう?」
「そうじゃな、ずっと前に親を怪異に殺されたとかじゃったのう」
「片腕の怪異。
私も資料とかで少し見聞きした事はある。
でも、片腕の怪異は他の怪異とは比べ物にならないくらい強いって話で……。
私達の援軍も、道中ソイツに殺されたし……」
「………そうか、そうじゃったな……」
「ねぇ、ミタモさん?
あなたは前に組んでた人を殺したんだよね?
なのに何で彼と……、緋祓遥と組んだの?
どうして、彼ともう一度神畏になろうとしたの?
ソレは本当に、ただ牢屋に入れられたのが飽きたから?」
「何が言いたいんじゃ?」
「私、あなたが悪い存在だとは思えない。
私に色々気にかけてくれるし……それに……。
それに、あなたは人を殺せない怪異ですよね?
少なくとも、自分からはしない方だと」
「………甘いな、千歳?
そうやってお前の懐へと付け入った挙げ句に裏切るかもしれんぞ?」
そう言い、私の顎に手を当て顔を見つめる彼女。
とても綺麗で、何処か悲しげな表情。
「やっぱり、あなたは………」
「はぁ……。
例えそれが誠だとして、何が言いたいんじゃ?」
「ミタモさんは彼を殺すんですか?
以前組んでいた方と同じように?」
「………さあな、その時次第じゃよ」
「じゃあやっぱり、殺したくないんですね」
「………、何故そうなる?」
「どうしてでしょうね、よく分かりません」
そう言い、私は再び歩み始める。
そして、僅かに開けた岩場で手に持った水玉を置いた。
「多分、此処で大丈夫です」
「……、流脈の力は特に感じられんがな」
「でも、流派の力が存在していた痕跡があります。
この辺り、よくよく見ると誰かが力を込めた跡が幾つか残ってるんです。
流派のある場所には人気があり過ぎて置けない。
だから新しく作るか、前からあった場所を使うしかありません。
となると、多分ここが一番良さそうな場所なんだと思います。
どうでしょうか、ミタモさん」
「まずまずじゃな」
そう言うと、彼女は尻尾の辺りから明らかに持ち歩いてたとは思えないほどの大きさのナニカを取り出した。
小さな社の建物、お地蔵様とかを置くそれである。
「まぁコレにでも入れておけ、結界とかは妾が特別掛けておこう。
妾の意図する存在以外は踏み込めぬわ」
「分かりました」
そして私は、ミタモの用意した小さな社に水玉を入れ扉を閉める。
「効果が出るのは早くとも3日程が過ぎた頃かの」
「そうですか」
「では街で飯でも食いに行くか、修行はその後じゃ
今日は朝飯を食い損ねたからの」
「別に構いませんけど、食べ損ねたのって遅刻したからですよね?」
「うるさい、美味い店を紹介しろ千歳」
「はいはい、分かりましたよ」
「それとな」
「まだ何か?」
「……、私の目的はケジメを付けること。
アレを殺すのは私の役目だから」
何処か覚悟を秘めた強い言葉で、彼女は言った。
初めて開幕見せた、彼女の本性……。
しかし、余計に分からなくなった。
ケジメ?、一体何の?
その疑問が頭に残り続ける
「どういう意味?」
「そのままじゃよ、では行こうかの千歳。
飯じゃ飯じゃ!」
「もう何なのよ、この人はぁぁ!!」
そういつもの軽い感じに戻り、私の手を引き街の方へと歩き始める。
先程の真剣な剣幕の姿が、僅かに脳裏に残るも今はその思考を振り払う。
私にはやるべきことがある。
気になるけど、私は私のやるべき事を果たさないといけない。
それから、深手を負った緋祓遥の容態を知ったのはもつ間もなくであった。
●
日も沈み医者の診察と手当を終えた頃、私とミタモは意識を失って倒れている彼の寝顔を眺めていた。
「幸いでしたね、命に別状はなくて」
「そうじゃな、全く余計な心配をさせおって」
そう余裕持った口振りの彼女だが、血まみれの彼を見つけると血相を変えて真っ先に駆け寄った程。
発見当時、彼は呼吸もしておらず常人なら助からないであろう深い傷を負っていた。
私も正直これは死んだと思った。
呼んだ医者も匙を投げかけた程だったが、彼の強い生命力の賜物なのか息を吹き返したのだ。
まさに奇跡、彼が息を吹き返したことでようやくミタモはいつもの平然を取り戻したようなもの。
「誰にやられたんですかね?」
「さあな、余程の手練れである事は間違いない。
お主を狙った者達の犯行じゃろうが」
「私を狙って?」
「ああ、だから小童に刀を渡したのじゃが……」
そう言って、ミタモは彼の横に置いている一振りの刀を手に取り刃を引き抜いた。
半ば折れた刀身がそこにはあった。
「これでも名のしれた名刀の一つなんじゃが」
「綺麗に折れてる……」
「そうじゃな。
この切断面からして、恐らく同じ刃物によるもの。
同じ刀かそれに類ずる異能によるモノ、後者の可能性の方が高いか。
折れたのは戦いの途中か、それとも後なのかは分からぬが向こうの実力が読めぬ小童ではない。
全く、厄介な事に巻き込まれたものじゃ」
「私が狙われていたと言ってましたよね?
その理由は分かって?」
「金目的にしては、割に合わんな。
小童を容易く倒せるなら小さな街一つ容易く奪った方が遥かに効率が良い。
他に転がってた死体は、恐らく向こうの仲間じゃ。
死体を見る限り足切りとして扱った末に殺された可能性が高い。
小童が殺した可能性もなくは無いが、状況から察するにかなり低いじゃろう。
向こうはお主を狙ったのは確実。
しかし単にこの地の領主の娘だからだとして狙うにも、お主の他にも跡継ぎ候補が居る。
加えて千歳は現在、征伐隊。
ミカド傘下の組織に属する立場じゃ、狙ったとして後が恐ろしいのはわかりきっておる」
「でも、私を狙ったのは間違いないんだよね?」
「ああ、じゃから余計に分からぬ。
全く、わかっておるのはあの死体等は妾達と神畏ということくらいじゃ。
神畏を狙った犯行、それにお主が含まれておる、
征伐隊の内部では神畏として扱われておるが、お主は正確に言えば神畏ではない。
じゃから、神畏を狙った犯行ではない。
となると、あの死体は何なのかという話になってやはり敵の者で間違いないという話。
そして、足切りとして殺されて、小童も同じく被害を受けた」
「同じ神畏……、それじゃあもしかしてあの人達って噂で聞いてた狼藉を働いてた神畏じゃないのかな?
確かそっちが以前倒した怪異が、彼等が取り逃がしたかもしれない奴だったんだよね?」
「その可能性もある。
じゃが、なら何故お主を狙った?
あの死体共が、例の奴等だとして、そやつらは何故お主を狙う?
そして、あやつらは実力は知らぬが元々他の集落に拠点を置いていた者達。
わざわざそこを離れた理由、拠点とした他の集落に人が存在しなかった理由。
不可解な点が余計に増えるばかりじゃろうに」
「確かに………そうだよね。」
「ともかく、小童が目覚めるまでの辛抱じゃな。
迂闊に妾まで外出も出来ぬわ」
「ミタモさんはそれでも強い力があるんだから何とでもなるんじゃないの?」
「妾一人ならばな……。
小童をこのままにしては置けぬ。
加えて千歳、お主のこともある。
お主の仲間は現在、硫黄の採掘場を目指し離れ離れじゃからな。
お主が狙われてる以上、下手な真似は出来ん。
お主が勝手にしたいのなら、話は別じゃが」
「守ってもらえるのは有難いけど……。
私だって一応……」
「妾からすればそんな未熟な力で、なんとかなる相手だとは思えん。
小童で駄目ならお主でも無理じゃ」
「そうだよね……」
「修行ならなんとか可能な範囲でやれる……。
問題は、お主の仲間の帰還もあるが……。
いや待て、そもそも硫黄の一件もあくまで妾の仮説じゃ……。
まさかとは思うが、あやつらの身が危ういかもしれん……」
「どういう意味?」
「千歳を倒した存在が、お前の仲間に危害を加える可能性があるという話じゃよ……。
確定した訳ではないがな………」
「………っ」
ミタモの言葉に、私は焦りと心配の念が浮かんだ。
大丈夫なはず、あの人達が征伐隊が負けるなんて早々あり得ない。
でも、私はソレを信じる事しか出来ない。
理由は単純、彼がやられた相手だから。
彼が死にかけた相手に、私程度が向かったところでなんともならない。
加えて、彼女の言葉通り狙いが私なら鴨がネギを背負っていくようなものだ。
私が固唾を呑んで、苦悩する中。
ミタモは寝ている彼の方へと視線を向けていた。
「早う目を覚ませ、小童……。
呑気に夢を見ておる場合ではないであろう……」
この声が届いているのか分からない。
でも、目覚めて欲しい。
その思いだけは彼女と同じだと思う。




