第十三話 相容れぬモノ達
「馬鹿な……。
あり得ん、こんな事があっては……」
「………弱いな、お前等本当に神畏かよ?
そこそこの怪異も連れてその堕落っぷり……、数の割には連携もまるで成ってない。
本当にお前等、ミヤコで正式に選ばれたのか?
あるいは、神畏と成って間もないか……」
既に倒れた5人と連れの怪異等を適当に積み重ね、最期の一人となったソイツの方を見る。
「貴様、階級は?」
「階級なら、この前が伊ノ参段とかだったな?
要は上から3番目、お前等程度だと保もないだろう?」
「伊ノ参段だと、あり得ない……。
そんな奴がこんな辺境にまで足を運ぶなど、それだけの強さがあれば帝は愚か朝廷が貴様を見逃す訳がないではないか!」
「誘いの話は全部断ったよ。
まぁ、俺の話はいい。
お前等、ここで何をしていた?
彼女がこの地の長の娘である事を知った上で俺達を付けていたよな?
護衛の話があるなら、彼女本人からその伝程度の説明はあるだろうがそれも無かった。
そして、お前等の何人かは俺達が狩った怪異について知っていた。
何を企んでいる、ここで何をしようとしていた?」
「ひっ………」
「俺から逃げような思うなよ?
俺は他の奴等程優しくない。
お前の一挙一動次第で、俺の下にいるお前の仲間の首を飛ばせるんだ?
全て話せば、役所に突き出すだけで勘弁してやる。
お前だけ逃げても構わないが、俺が簡単に逃すとは思わない事だ。
必ず捕らえる、分かってるよな?」
「何卒、御命だけはご勘弁を……。
全てお話します、ですからど……」
すると、泣きながら訴えかけてきたソイツの言葉が唐突に途絶えた。
「おい、何急に………」
思わず手を伸ばしたその瞬間、何かの気配を察し俺は後ろへと飛び退く。
刹那、黒い何かの影が視界に入り込んだ。
俺の腰掛けていた、神畏等に向けてその影は刃を突き立てる。
「っ………!?」
「躱すか……」
虚無僧姿をした謎の人物。
しかし、僧とは思えない様相に俺は警戒を強める。
ソイツの両手には小太刀のそれが両手に握られており二本のソレにて、先程俺が捕えた奴の首を落としていたのだ。
そして、今更ながら俺に泣きながら訴え掛けてきたソイツの首も落とされている。
連れの小さな怪異達は、虚無僧姿のソイツに恐怖し一目散に逃げ出したのである。
一応、俺が捕えたはずなのだが奴への恐怖が勝ったのか縛った縄まで千切らている程。
「お前、何者だよ?」
「ソレをこちらの台詞ですよ。
全く、余計な事を口走るような裏切り者は不要です。
所詮は足切り程度の実力でしょうね」
「………」
不味いな、コイツは他の奴等とは格が違う。
ミタモに匹敵する程の、肌がひりつくような威圧感。
俺の本能が警鐘を鳴らしている。
コイツには決して関わるなと……。
「随分とお強いのですね、旅の御方?」
「どうだかな……。
あんた、何処の何者だよ?」
間合いを取りながら、逃げる準備をする。
正面から、今の俺一人で勝てる相手ではないことくらい自分がよく分かる。
だが、大人しく逃がしてくれる訳がない。
「名など不要ですよ、今の僕にはね」
「裏切り者と言ったくらいだ。
こいつ等の仲間なんだろ?」
「あー、確かにそうなりますね。
まぁ、弱い奴は不要ですよ。
年々、神畏の質は下がっていますからね。
弱い神畏は不要です。
弱い畏れに、威厳は無し。
ですが、あなたのような骨のある者と出会えたのは本当に僕も運が良い」
「不要ね……、仮にも仲間だろ?
そこまで言うなら、あんたが稽古の一つでも付けてやれば良かった話だろう?
全く、部下や仲間の教育はどうなってるんだ?」
「我々には不要ですよ。
勝手な事をされたのだから、もはや関係ない。
しかし、君にはどうやら見込みがある。
是非ともこちらへ来てほしいのだが、どうかね?」
そう言って、ソイツは俺に手を差し伸べる
仲間への勧誘?
ふざけてるのか、それとも本気で言ってるのか?
こいつの目的は一体何だ?
「俺達はここへ来る道中、お前等の取り逃がした怪異の後始末をさせられたんだぞ。
それなりに犠牲者も出ていた、そんなお前等に従う道理が何処にある?」
「なるほど、あの怪異を殺したですか?」
「集落の者が手を焼いて困っていたからな」
「なんと愚かな事を、神畏でありながらアレを殺してしまうとは………。
勿体ない、実に勿体ない事をしてくれたな……」
「勿体ないだと………?」
「アレはあの地の畏れとなるべくして放った存在。
ソレを殺してしまうとは、あなた方の身勝手な行為によってあの地の行方はどうなってしまうのやら……」
畏れとして放ったか……。
なるほど、どうりであの集落は……。
つまり、こいつが黒幕なのか?
狼藉を働いた神畏達を率いた者。
そして意図的に逃された怪異。
この一連に関与しているのが、奴なのか?
「畏れってのは、何も恐怖で縛ることが全てじゃないだろ。
そしてあの集落の者達は、アイツをとても迷惑がっていたよ。
アイツの無理な取り立てで飢えで苦しんでる奴も多くいたし、家族を殺された奴もいた……、ソレを倒して何が悪いと?」
「全く、これだから身勝手な人間は……」
「身勝手だが、倒した判断は正しかった。
あとは、あそこに住む当人達の問題だろ?」
「畏れあっての怪異であり神畏の威厳が保たれる。
ソレを分からぬ貴方ではないでしょう?」
「それもそうだな。
だが目の前で苦しんでる奴等を見逃せる程、腐ってはないと思いたいのでね」
「勝手が過ぎる、人の都合の解釈でしょう?
この世の理の為に、怪異は存在する」
奴の言葉も確かに正しい。
が、やり方が気に食わない……。
しかし、奴の正論に納得する自分もあるのが余計に気に食わない。
「………お前は怪異なのか?」
「………少々、口が過ぎましたね」
その瞬間、虚無僧の姿が消えた。
いや違う、腰を深く下ろしまるで獣の如く襲いかかってきたのだ……。
人外のモノ、そこから生まれる卓越した技術。
本能的に身体が動き、首を取りにきたソイツの小太刀を辛うじて刀で受け止める。
しかし、単純な力はこちらの方が上のようですぐさま切り払い間合いを取り直した。
「これも受け止めるか?」
「お前、一体?」
その瞬間、俺の握っていた刀が真っ二つに折れた。
たった一撃を受け止めてこうなるとは、流石に予想外であり固唾を飲む。
「此処は引きましょうか。
後始末も済ましたからね」
「っ?!!」
その言葉に俺は、先程捕えた神畏等の方へと視線が向かった。
奴の仲間と思われるナニカ、ゆらゆらと揺らめく人の姿とはかけ離れた存在によって殺されていた。
「なっ……いつの間に………?
貴様ぁぁぁ!」
神畏達を殺したソイツに向かって斬りかかるも、俺の太刀筋は空を切った。
刀が折れてたとはいえ、間合いは間違えていない。
「またお会いしましょう」
後ろの虚無僧の存在を認識した瞬間。
俺の背中を冷たいナニカが貫いたのだった。
「っ!?」
神畏達を殺したソイツまであと一歩。
俺を見下すソイツの視線が俺と一瞬だけ交錯した。
ソイツに何かの既視感を感じた。
「………」
「お前……?」
しかし、為す術なく俺はその場に倒れた。
これで終わりなのか?
おいおい、呆気なさ過ぎるだろ………、
まだ、やるべきことが……。
俺の目的はまだ何も……、
薄れる意識の中で、俺は目の前から立ち去っていく奴等の姿を睨み続ける。
こんなところで終われない。
俺には、やるべきことがある。
「辞められるかよ……今更……」
視界が徐々に霞んでいく……。
意識が途切れる間際、誰かの声が聞こえた気がした。




